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なぜか盗賊家業に落とされた  作者: 空想するブタ
第3部:王都バラバラ殺人事件
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第5章 パート3:死体の行方

リョウがエルネアの研究所を訪れたのは、

日が傾き始めた頃だった。


白い石造りの建物は、

相変わらず清潔で、整然としている。

窓から漏れる光は柔らかく、

外で囁かれている噂など、

ここには一切届いていないかのようだった。


だが、

リョウの胸の奥は重く沈んでいた。


「……エルネア」


研究台に向かっていた彼女は、

名を呼ばれて振り返る。


「どうしました? 珍しいですね」


その声は、

いつもと変わらない。

穏やかで、理知的で、

“聖女”と呼ばれるにふさわしい響きだった。


「南門の件、知ってるか」


空気が、わずかに張り詰めた。


エルネアは一瞬だけ瞬きをし、

それから首を横に振った。


「……いいえ。噂程度なら」


「切断された遺体が、馬車で運ばれていた」


リョウは、

言葉を選ばずに続ける。


「辻斬りも出てる。

 身体の一部が、意図的に持ち去られている」


エルネアは黙ったまま、

ガラス瓶の蓋を閉める。


カチリ、という音が、

やけに大きく響いた。


「……それで?」


「お前の研究と、無関係だと言えるか」


問いは、

ほとんど直球だった。


エルネアは、

少しだけ眉を寄せる。


「知らないわ」


きっぱりとした否定。


「私は、そんなことはしていない」


「ハービーは?」


その名を出した瞬間――

彼女の瞳が、

ほんの一瞬、揺れた。


恐怖とも、

焦りとも取れる、

微かな光。


だが、

次の瞬間には消えている。


「彼も、関係ありません」


「……本当に?」


エルネアは、

リョウを真っ直ぐに見返した。


「疑われるのは、慣れています。

 でも――」


一拍、間を置く。


「人を殺してまで研究を進めるほど、

 私は愚かではありません」


その声は、

静かで、冷静で、

論理的だった。


だがリョウは、

違和感を拭えなかった。


“知らない”と言い切るわりに、

否定の言葉が、

どこか慎重すぎる。


まるで、

“何かを選んで隠している”ような。


「……分かった」


リョウはそれ以上追及せず、

研究所を後にした。


背中に、

視線を感じた気がしたが、

振り返らなかった。


その夜。


リョウは、

騎士団詰所の一角でクラウスと向かい合っていた。


「エルネア本人は否定した」


「だろうな」


クラウスは腕を組み、

低く唸る。


「だが、状況が状況だ。

 研究者が疑われるのは、避けられない」


「俺も、本人がやってるとは思ってない」


リョウは正直に言う。


「だが……

 周囲は別だ」


「助手か」


「ハービーだ」


クラウスは、

短く頷いた。


「優秀で、目立たない。

 疑われにくい立場だな」


「それに――」


リョウは、

墓荒らしの一件を思い出す。


“死体の調達”。


誰よりも、

“身体”に慣れているのは誰か。


「裏で何かやってる可能性はある」


クラウスは、

しばらく考え込んでから言った。


「正式な捜査は、証拠がないと動けん。

 だが――」


視線を上げる。


「様子を見るくらいなら、できる」


二人は視線を交わし、

無言の合意を交わした。


「私もやる」


その声は、

意外なところから上がった。


フユコだった。


「……危ないぞ」


リョウが言うと、

彼女は肩をすくめる。


「夜の王都を歩くのは、慣れてる」


盗賊時代の名残。

それは、

彼女の中でまだ生きている。


「裏路地なら、私のほうが詳しい」


「……無理はするな」


「分かってる」


フユコは、

軽く笑った。


だがその目は、

冗談ではなかった。


彼女もまた、

“死体”という言葉に、

敏感になっていたのだ。


それから数日。


王都の夜に、

三つの影が溶け込む。


リョウは表通り。

クラウスは少し離れた位置から全体を見る。

フユコは、

屋根と裏路地を渡る。


標的は、

一人。


ハービー。


昼は研究院。

夜は酒場。


一見すると、

ごく普通の若者だ。


だが――

酒場を出たあと、

彼は必ず、

決まった時間に姿を消す。


「……消えた?」


フユコが、

屋根の上から小さく呟く。


「路地には出てない」


「地下か」


王都には、

古い排水路や、

使われなくなった地下通路が無数にある。


そこは、

光の届かない場所。


“何か”を運ぶには、

都合が良すぎる。


リョウの胸に、

嫌な確信が芽生え始めていた。


だが、

まだ証拠はない。


疑念だけが、

静かに積み重なっていく。


その夜、

王都の鐘が鳴る。


その音は、

まるで――

何かの始まりを告げる合図のようだった。

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