焼かれる真実、残る罪
「何これ?」
「ジュリアンからの手紙だ。読んでくれ」
親友であるカンクローに、ジュリアンが旅立つ前にしたためたものだった。
「はっきり言って、生きて帰って来れないかも知れない。聖女との魔物退治では感じたことのない恐怖だ」
そう、それは聖女が全てを受け持っていたからだ。調査も作戦も責任も恐怖すらも。
「もし、生きて帰って来たら、お前の奢りで宴会だ。もし、死んだら、この事実をリリカに伝えて欲しい。聖蛇騎士団の装備を盗んだのは、俺だと」
やはりだ。
「そして、それは父の指示だった。どうしても言えなかったと」
懺悔のつもりなのだろうか。砂を噛んだ気持ちにしかならなかった。
「ありがとう、カンクロー。貴方は彼の死を悼みなさい。私は真の敵を倒すわ」
「それなんだが、オヤジが情報を掴んだから会いたいって」
「わかった。今夜にでも会いに行くわ」
私が部屋を出ると、サリバン先生がいた。
「良かった。リリカ。貴女を探していたの。それと無事でよかったわ」
「運よく。でもセディオ教授が」
「うーん、そうね。ここだけの話だけど、自業自得ね、せいせいするわ」
そのセリフを聞いて、私はゾッとした。いつもの冷静さと暖かさの同居している彼女の振る舞いとは思えない。
「こんなこと、貴女にしか言わないわよ。冷酷な女だと思われてしまうからね。でも、法を犯すことをどれだけしていたか。人道的にもね」
そして私の手に、鍵とメモ書きを隠すように渡した。
「セディオの研究室よ。場所はドームの地下。扉の暗号はこれよ」
「どうして、私に?」
「誰かに見張られているの。危険なものがあって、本当は処分しなきゃいけないと思うんだけど、私には何が危険なのかもわからないし、中にも入れなかった。だから貴女にしか頼れないの。きっと貴女なら中に入れるし、誰よりも魔術に詳しいから」
「わかりました。気をつけてくださいね。風紀委員室に、パーシーがいます。囮になっててください」
トモオがいれば、捕まえて黒幕と目的を吐かせるのだが。
「ドノバン」 私が小さな声で呟くと、彼がスッと現れた。
こいつ、まじストーカーか?
「秘密の探索だろ。お付き合いしますよ」
学校を戦場にして、生徒を巻き添えにはしたくない。
私たちは、足早にドームに向かった。
地下に降りると、大扉の鍵穴に鍵を入る。次が、暗号だ。
精密に、数種類の魔術を穴の横にある黒い箱に当てていく。
「悪いけど、私にも出来るのよ」
ドノバンが感心していると、扉はギギギと音を立てて開いた。
セディオの研究室には、魔道具がガラクタのように積まれていた。それと、魔物の解剖標本。中には、人も。
私は、気持ちが悪くなって吐きそうになった。
「待って、隠すから」
ドノバンは、どこからか布を探して見えないようにしてくれた。
だけど、脳裏には残っている。一体だけではない、残酷な処刑のような痕も。
机の上には、筆記用具とノートの束。
ノートは、内容別に別れていた。光魔術の取得方法、王子別の派閥リスト、女生徒の詳細情報、レクセルが王になった後の組閣や国家運営計画。
「くだらない、奴だ! レクセルを操り、国を手にいれ何がしたかったんだ」
「だけど、役にたつ情報もあるかも?」
「自分が必要だと思うなら、その時、探すよ。こいつの残したものになんか頼らない」
「安心したわ」
私は、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「もういいわ、帰ろう」
「ちょっと待って」
私は、机の鍵のかかっている引き出しを壊した。
手紙が、ばらばらと落ちる。
セリオ侯爵だけでなく、帝国からのものもあった。
「これは持ち出そう」
「そうね、でも、彼が積み上げてきた魔道具や魔術の研究はこれでおしまいよ」
私は躊躇なく、炎で焼き払い、土魔術で全てを粉々に押しつぶした。
振り返る事なく、ドームの地下から登って来た時、数人の男に囲まれた。
冒険者、いや暗殺者だろう。一流なのがわかる。
「悪いがここで死んでもらう」
え、まじでそう言うの? そう言うこと言わない方が良いと思うんだけどな。それ、死亡フラグだよ。私がつまらないことをほんの一瞬だけ考えているうちに、状況が動いてしまう。
「それは俺のセリフだったな」
数倍のドノバンの部下が逆に囲んでいた。
聞いた話では、試練であるダンジョン探索に同行できなかった事を、彼らは嘆いていたらしい。
鬱憤を晴らそうとしているのが、ビンビンに伝わってきた。
「後は任せたわ」
私も、人と人との戦いには躊躇してしまうところが少しある。
風紀委員室に行くと、サリバン先生は、職員室に戻った後だった。
「終わらせてきました」
「そう見たいね。大きな音がドームの方から聞こえたわ」
「研究室の中身を知りたかったですか?」
「知りたくないわ。だって破壊したくなる内容なんでしょ」
外の景色は、暗くなり始めていた。
「リリカ、そろそろ時間だ。一緒に行ってくれるか?」
「部外者の平民の私が行ってもいいのかしら?」
「もちろんだよ、試練の到達者だからね」
運命の時が近づいてきた。
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