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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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白光の墓場


 レクセルたちは、ナエル隊の兵が帝国から派遣された兵だと知っていた。それだけじゃない。この神殿に強敵が潜んでいること、ダンジョンが五階層あること、地下への降り方まで把握している。


 知りすぎている——異様なほどに。

「聖女局が、意図的に情報を流してる?」

 私は、ドノバンに尋ねた。この陰謀の臭いに、吐き気すら覚える。


「それだけじゃ無い。封鎖されたダンジョンへも斥候を放ってたんだろうな。地元の連中を買収して」

「あら、いつもならドノバンが得意なことじゃないのに。今回はやらなかったの?」


「ああ……さあ、俺たちも進もう」

 短く答える彼の声は低く、危険な闘志を帯びていた。彼は試練に正々堂々と挑んでいる、自分の力と存在の意味を知る為に。


 四階層は、漆黒のダンジョンだった。壁にも天井にも、小さな魔物が数多く潜んでいる。

 呼吸するだけで背後に何かが蠢く気配。闇が生き物のようにまとわりつく。


「吹き飛ばして進みたいくらい」

「駄目だよ、リリカ。キリがない」

 私は、自分の周りに風の膜を張り、魔物が近づかないようにした。


 ひとつ潰せば十が寄る。この階層は、消耗させるための闇そのものだ。

「こっちだ!」

 ドノバンの勘、いや、道に転がる魔物の死体を追って私たちは進んだ。


 レクセルたちが通った証。そして、その速さ——異常だった。

「移動速度が速いな。やはりルートを知っているようだ」


 なだらかな道を降ると、そこは五階層だろう。吹き抜けの広い空間に、さっきより二回りほど大きな神殿が見えた。

 巨大な影が、闇の中に沈む巨獣のように静かに鎮座している。


「おかしいな、音がしない」

「また、レクセルの罠かしら?」

 私たちは、ゆっくりと慎重に周りを警戒しながら、神殿の階段の下に着いた。


 耳を澄ませば聞こえるのは自分たちの呼吸と足音だけ。足音は床に反響して小さく伸び、時折途切れる。

 息を吸うのも躊躇うほどの静寂。闇が身を潜め、こちらを鋭く見据えている。


 その存在感に、体が思わず硬直する。ガンツは肩を震わせ、セバスは額に冷たい汗を浮かべていた。二人の顔つきに緊迫が刻まれる。


そして——ここから先が、本当の地獄だと直感した。


 大神殿の入り口。

 閉じられていた扉を、ドノバンの斬撃で壊そうとしたが、少し傷がついただけで、すぐに再生し傷が消える。


「うーん。じゃあ、普通に開けるのか?」

 窪んだ取手に手を掛けて、ガンツが引くと、驚くほど簡単に扉は開いた。


「きっと、敵を倒さないと中からでは開かないわ」

「覚悟の上だ。リリカ、ごめん!」

「何で謝るの! 倒しましょう!」


 私たちは全員で手を取り合い、覚悟を決めた。闇の向こうに何が待つのか私たちは知らない。それでも、私たちの心はひとつになり、踏み出す勇気を手にした。


 私たちが入ると、自然と扉が閉まった。扉が閉まる時に、ガチャリと音が響いた。


 大神殿の中は、光輝いていた。まるで、神殿とは正反対。魔物の気配も姿も無かった。

「進もう!」


 そこは、回廊の入り口だった。ぐるりと大神殿の外周を巡っているのだろう。

 しかも、壁には、丁寧に彫刻が彫られている。神話が語られているのだろうか。王、ドラゴン、聖女、勇者、魔女……だが何を意味するのか、私ですらわからなかった。


「こういうの島で見たことあるんだけど……」

 ドノバンが、彫刻を触りながら言った。触れた指先が、バチりと静電気のような音を立てた。まるで、拒むように。


「どんな話?」

私が尋ねると、彼は頭を傾げた。

「覚えてない……」

 馬鹿じゃないの? もの凄く重要なことのような気がする。私の思いが通じたのか、ドノバンは足も止めて必死に思い出そうとしている。


「物語は覚えてないけど、ここに書かれているのは精霊王の遠征の物語だ。ここは、魔物の神殿ではないということさ」

「それだけ?」

「でも、魔女が描かれているのは珍しいね」


「そう……」ゲーム世界の古文。精霊王物語に、魔女の記述は無かった気がする。

 再び、私たちは歩き出した。ぐるりと周回し、さらに階段を登った。


「また、扉だ!」

 きっと、この向こうに最後の敵がいるのだろう。扉から膨大な魔力が伝わってくる。今度も、扉の取っ手がついていたが、開かなかった。


 その代わりに部屋の中から、激しい戦闘音が聞こえた。

 ゲーム世界でよくあるやつだ。ボス部屋、パーティ別対戦。


 弱気ではいけないんだけど、私は、レクセルたちがどんな形でも敵を倒してくれることを望んでいた。

 どれくらいたっただろうか。長時間。激戦だったことを物語る。


 扉のロックが外れる大きな音がする。ほんの少しだけ、ガンツが扉を開ける。

「声がしない?」

「ああ……」

 勝利の雄叫びも、会話も。

「これは酷い……」


 ちらりと覗いたセバスの顔が珍しく青ざめている。彼の瞳には普段見せない恐怖が混じっていた。

「見たところ、立っているものはいません。全滅でしょう」


 死を覚悟していたはずの私だが、その光景に手に力を込めてドノバンの服を掴んだ。

「生きて帰ろう!」

ドノバンが微笑んで、扉を開き歩みを進めた。


 壁や足元の床が、レクセルの兵の剣跡や血で汚れていたが、すっと何者かに拭き取られ、更に再生して真新しくなっている。


 それだけでない。死体が吸収されていく。吸収の瞬間、床がねっとりとスライムのようになり、やがて、固い白い床になる。


 あの、ジュリアン・セリオもセディオすら、木像のようにあっという間に吸い込まれた。あまりにも呆気ない。だがこれが人の死だ。


「おい! しっかりしろ!」

ドノバンは、倒れている兵の中から、レクサルの姿を見つけた。

「ははは、あいつの罠にまんまとはまったよ」

「何のことだ?」


「先にあの世で待ってるぞ、せいぜい足掻くことだな!」

私がポーションを飲ませようと取り出したが、すでに手遅れだった。


ドノバンは、レクセルの死体を抱き上げて、死体がダンジョンに吸収されることを拒んだ。

「ダメよ! ドノバン。それでは戦えないわ!」

「そうだな」


彼は、死体を降ろし、剣を抜いた。

そこは、私たち以外何もない、白い光の空間が広がっていた。光は均一で陰を作らず、音は吸い込まれて消える。


 その場は、不在の感覚だけが残る場所だった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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