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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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嵌められた探索者

「まだ、体力が戻ってないんだから、座ってなさい」

私は見かねて、カグラに声をかけた。彼女は頷き、地面に座った。


息は荒く、肩が上下している。戦闘の疲労は想像以上だ。

倒れこむ寸前の彼女を見ていると、焦りと苛立ちが胸を締めつけた。


「それで、どうするつもり。ここから先はさらに危険よ」

ドノバンに対しても言ったつもりだ。

強敵を倒してナエルたちを救出して戻る。撤退の理由は充分だ。


だが、彼の意思を尊重したい。

今のドノバンの眼には——まだ、戦う光が宿っている。


「ナエル隊は、ここで探索を終了します。十分戦ってくれました。ナーシル砂海連邦は、亡くなった方へ弔意と派兵頂いた方々に感謝を示します」

すでに強硬に進軍を主張した指揮官たちは死んでいる。


ナエルは生き残った兵たちに頭を下げた。

いつものおどおどした彼とは思えぬ立派な態度だ。押し付けられた試練に愚痴一つ言わない。

その震える背中が、痛いほど真っ直ぐだった。


「遺体と遺品の回収は最低限で脱出。地上の王国警備兵に伝え協力してもらいましょう」

カグラが具体的な指示を与え、兵たちに金貨の袋を手渡しているのが見えた。


兵の被害は甚大で、彼らに戦う意志は少しも残っていないようだ。

「わかりました。それでドノバンは……」

「リリカ様、悪いが進む。ナエル、お前たちレクサルに嵌められたんだよ」


「そんな……前にいたんですよ」

ナエルの声には怒りよりも困惑が滲む。

もし、レクサルたちが先行していたなら必ず戦闘の跡があり、魔物もあれほど無事ではいないだろう。

それは誰の目にも明らかだった。


だからこそ、信じたくない現実が突きつけられる。

 ド、ド、ド……

神殿の広間に近づいてくる、大人数の足音が聞こえてきた。

まるで、この場所での戦闘が終わるのをどこかで隠れて見ていた行動だ。


「レクサル隊だ!」ガンツが大広間に入ってくる兵を見て叫んだ。

「そう言うことね」私は、ドノバンの読みを理解した。

全て予定通りだと言わんばかりの登場。


「俺たちが、探索していた間に、無謀な戦闘でもしたのか? 死人と怪我人だらけか? 救出してやろう!」

レクセルが、私たちに気がついて話しかけてきた。

その笑みは、救い主ではなく、獲物を見下ろす捕食者。


「一本道だったように思えたのだがな」

ドノバンが疑わしい目で尋ねた。

ほんの僅かな皮肉すら刃物のように鋭い。

「それは、素人だな。ダンジョンというのはそんな簡単なものじゃないぞ!」


隣にいる護衛をしているジュリアン・セリオが笑った。

 嫌味な笑い。過去の聖女同行の誇りと計算に裏打ちされた余裕。


「救出をお願い出来るかしら。貴方の兵も弱い奴らは帰らせたらどうかしら。簡単に死ぬわよ」

 私は挑発混じりに忠告した。

 だがそれも、彼にとっては愉快の種でしかないようだ。


「くだらん事を言う。我が隊には、軟弱な兵はいない。だが寛大な王になる俺は、帝国の兵を弔う事くらいする。死体も一緒に運んでやろう」

レクセルは、振り返ると、指示を出して部隊を二つに分けた。


それは、まるで最初から決めていたようだった。文句一つでない。王子命令は絶対だ。

ここから先は、覚悟の無い者や、力の無い者が踏み入る領域では無い。それは、この場での戦闘を経験した者のみが身にしみてわかる事だ。


同時に、それを利用する者がここにいるという事実。

「そう言うことね」

 私は、ドノバンの読みを理解した。

強敵である大蜘蛛たちと戦闘させて、他のパーティを消耗させる。


そして、足手纏いになる兵に護衛と理由をつけて帰らせる。

彼の兵は、支援する貴族の子息たちが多い。この場所での惨劇を目にして震え上がっている奴らだ。


 全ては想定内、全てはレクセルの棋盤の上。

 私は、忙しそうに指揮してるレクセルに近づき尋ねた。


「レクセル王子。お聞きしますが、これでダンジョン制圧できて試練は終わりじゃないの? 私たちの勝利かと思ったんだけど」

わざと無知を装い、情報を引き出す。


「そんな訳ないだろう。ここはまだ、三階層だ。このダンジョンは五階層まであるんだ。そんなことも知らないのか?」

魔術教授のセディオが馬鹿にしてくる。

その瞳には“知っている者の優越”が光った。


「構うな、俺たちについて来ても譲らないぞ! 行くぞ!」

彼らは、ダンジョンへの深層部へと向かう扉を開けて先に進んで行った。

下の階層に降りる扉は、大蜘蛛たちのいた大広間の中央に隠されていた。


それを当然のように知っていた彼らに、背筋が冷たくなった。

「ドノバン様、お気をつけて。僕も同行した方が……」

「いや、ナエル。お前がついてくると、弱っているカグラもエマもついてくる。それに奴らもな」


生き残った帝国兵もこちらの動向を窺っている。そこには、傭兵として派遣された以上の忠誠心が見れた。

ナエルの拳が震える。歯を食いしばる音が聞こえた。


「わかりました。ご無事で」

 私はエマを抱きしめる。

「大丈夫、無事に戻るから。私の力知ってるでしょ」

 エマは涙をこらえ、ぎゅっと私を抱きしめ返した。

「はい、みんなでお待ちしています!」


 ナエル隊と死体を運ぶレクセルの帰還部隊が引き上げていくと、小部屋には、私たちだけが残された。


静寂だけが降りてきた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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