黒淵の神殿
「よく寝たぁ!」
昨日の夜は、マリスフィア家が主催するドノバンパーティとの夕食会だった。
私たちと、クルミ、ミオ、アルフレッドとルミナ大司祭だ。
男性陣は、楽しそうに魔物討伐の話をしている。酒も進んでいるようだ。
「ミオ様が、招聘されるとはどういうことなのでしょう?」
私は、だめもとで、古の魔女の生まれ変わりの彼女に尋ねた。
「薄々感じておるだろう。このダンジョンが、おかしいことに」
「はい。普通は、魔物が溢れ出ることはありませんし、その魔物が異常なほど強い。ダンジョンの中は、それ以上ですよね」
「それは間違いない。だが、それくらいなら、あの小娘はわしを呼ばんよ!」
ダンジョンから伝わってくる魔力の波動は、恐るべき大きさだ。だが、私には特別な異常さはわからない。
「ミオ様を呼ぶ理由とは何ですか?」
「身近にいる魔女を呼び寄せたんだろうて。ははは」
聖女ソフィアが、魔女の存在を知っているのではないかと思っていたがやはりだ。 彼女の物事を見通す力は、私以上。ゲーム世界のようなただの『聖女』ではない。
「黒淵の奈落とはそれ程危ないものなのですか?」
「ん? このダンジョンはそれの再来なのか? なるほどな。あの小娘は怖い女だな」
ミオが真顔で言ったそのひと言は、不意に胸に刺さった。ほんの一瞬、空気がぴんと張りつめた。
私はクルミと連れ立って彼女のテントへ向かい、入った途端、クルミの侯爵仕事の愚痴が始まった。
それが面白すぎて、私は大笑いしてしまう。ワインを開けて、また開けて、気づけばふたりではしゃぎながら朝方までしゃべり続けていた。
「お目覚めですか?」
テントを出た私に声をかけたのはセバスチャン。
テントの前には、すでに準備を終えたセバスの姿があった。太陽が高く登り、キャンプ地に残るテントも数える程だ。
「あれ、クルミたちは?」
「魔物の残党狩りに出かけましたよ」
「他の王子たちは?」
「早朝には出発したようです。実は私たちもさっき目覚めたので……」
出発時間から、かなり遅くなっていた。
顔を洗いながら、「頭が痛い」と二日酔いの顔をしているドノバンがいた。
「何やってるのよ? ドノバン」
私は、ポーションを取り出して渡した。
「おはよう、リリカ様。へへへ。寝衣の方に言われても……」
「馬鹿!」
私は赤面をしながらテントに入って急いで出発の準備をした。
ダンジョンの入り口には、ものものしい警備が引かれており、警備兵が監視の目を向けていた。
「ドノバン王子隊、ダンジョンに潜ります」
「お気をつけて!」
彼らから、応援の声と拍手が起きた。
「田舎者が今から潜るらしいぞ!」
「たった四人だぞ、支持されていないんだな」
「どうせ、先行している王子たちが、魔物を倒しているから、安全だからな」
聞こえるような話し声をしているのは、王国の貴族たちだ。形式上、仕方なく見送りに来ただけだろう。武装すらしていない。
「昨日、夜遅くまでこっちは討伐してたんだぞ!」
ガンツが言い返した声を無視して、彼らは冷たい目を向けて去っていった。
「いのち大事に! 行きましょう!」
ついに私たちはダンジョンに足を踏み入れた。
王国が作った仮設の階段を降りると、そこな、漆黒のダンジョン。
地上の光は、あっという間に届かない。
前のパーティが設置してくれた、光の魔道具が、ダンジョンを照らしていた。
「ナエルたちは、どこかしら?」
合流の約束をしていたのだが、私たちの寝坊のせいで待ちきれず先に進んだのだろう。
魔物の死骸が残されていたが、地上で遭遇した魔物よりも、知能も力もない下級な魔物が多かった。
「急ぎましょう!」
「どうしたんだ?」
ドノバンが、驚きの声を上げた。それまで慎重に進めと私は言ってきたのだから当然だ。
「嫌な予感がするの。とても危険な……」
私たちでは無い。ナエルの身が。
その階層から、さらに下の階層に降りても、ナエルたちの姿が見えなかった。魔物の死骸の数は増えていたが、それだけた。
だが、光の魔道具が進むべき方向に、定間隔で置かれている。このきちんとした仕事は、カグラの仕業だ。
「こっちで間違い無いのか?」
「ええ、自分たちが帰る時の為でもあるのよ」
漆黒の洞窟の姿が一変したのは、その下の階層だった。
ダンジョンは、神殿の入り口のような作りだ。
四角に切られた石が敷き詰められている両側に円柱の柱。
「あれが光っているのか?」
地下なのに、明るいのは、円柱の先端から、炎、いや、光が照らされているからだ。
前方より、激しい戦闘音が聞こえてきた。剣の擦れた音。それと、魔力の揺らぎ。爆音。
「戦闘体制よ!」
「任せておけ、お嬢。俺について来い!」
音は目の前にある見上げるほど大きな神殿の中からだ。
私たちは、階段を駆け上がる。階段の上から吹き飛ばされた男が、転がり落ちてきた。
ガンツが盾で受け止めた。その男は、腹から血を出しすでに死んでいた。ナエルの部隊の一員らしかった。
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