試練の裏に潜む真実
だが、私の心配をよそに、付与は拍子抜けするほどあっさり成功した。
魔剣は、まるで生き物のように、震える唸り声をあげる。その刃先に、歓喜や渇望が宿っているかのようだ。
もっとだ、もっとよこせ──
……いまの、本当に聞こえた。気のせいじゃない。
魔剣のくせに、あまりにも欲深い。
ドカァンッ!!
ドノバンが振り下ろした一撃は、幻影の魔物をまとめて袈裟斬りにし、その衝撃は止まらず、魔術防壁にまでめり込む。
壁を伝わる振動、空気を裂く衝撃波、魔力の奔流が王宮の中に渦巻き、爆音を響かせた。
王宮全体がズガラガラッと大きく揺れる。
ちょ、ちょっと待って……揺れ方が尋常じゃない。
炎属性を極限まで盛り、魔剣の潜在能力を限界まで引き出したドノバンの攻撃は、王宮を揺るがすほどの威力だったらしい。
ドノバンとセバスチャンを除く全員が、派手にバタバタとひっくり返る。
……やばい。本当に、やりすぎた!
「な、何が起きたんですか!」
「開けてください! ご無事ですか!?」
「じ、地震じゃないですか!?」
扉の向こうから、役人たちの慌てた声が雪崩のように押し寄せる。
……そう、地震。今聞こえたそれは、あくまで“地震”だ。
魔剣の暴走なんて、とても認められない。
私は取り繕うように声を張った。
「だ、大丈夫です! たぶん……地震、です!」
誤魔化せたのかな。
私は惚けている暇もなく、セバスチャンに装置を切るよう急いで指示した。
ドノバンは、興奮と満足の入り混じった声で魔剣を名残惜しそうに鞘へ収める。
やっぱり、古の剣は物が違う。
長く眠っていた存在は、人の想像を超える力を秘めている。
私たちは、飛び込んできた役人たちと入れ違いになるように、そそくさと撤退した。
馬車に乗り込むと、御者はいつものようにセバスチャンが務めてくれた。
「さすが、我が家の秘宝だ! 見たか、クロエ!」
「はい! エマから聞いていた通りです。リリカ様の魔術は本当に凄いです!
それにドノバン様の剣技まで……!」
「いや、そういう意味じゃなくて……」
グランディールとクロエは剣技場の感想戦で盛り上がっている一方、ドノバンは放心したように遠くを見つめていた。
「どうしたの?」
私は心配になって声をかける。
「いや……俺、慢心してたなって。上には上がいる。才能がどうとかじゃなくて……一人で出来ることって、本当に限られてる」
珍しく弱い声だ。
何不自由なく生きてきた彼が、これまで支えられていた環境や才能を過信していた自分に気づく。
魔剣をうまく操れない自分の立ち位置を、初めて真正面から見つめたのだろう。
「気づけて良かったじゃない。それ、大事なことよ」
「……ああ。ありがとう、リリカ」
「古の偉人に、努力せず勝とうなんて──それって慢心というより傲慢よ?」
「……確かに! 本当にそうだな!」
私たちは顔を見合わせて、自然と笑みを浮かべた。
騎士団長セオではない。ましてや武神リドリー様でもない。
だからこそ、もがき、積み重ね、やっと道が開ける。
屋敷へ戻り、グランディール侯爵たちを送り届け、書類も受け取った。
少し落ち着いたところで、私はブンザエモンに向き直る。
「ブンザエモン。私が何を言いたいか、分かるかしら?」
「ああ、分かっている。情けない話だが……情報は商人の命だ。リリカ様、俺に公爵家の書類を調べさせてくれないか?」
「それは無理よ。あれは“侯爵から私が借りた”ものなんだから」
「……そうか。ならば、こちらで調査するときに助力できる人材を貸す。リリカ様が納得するほどの腕を持つ者が一人、いる」
たった一人。
だが、ブンザエモンが言う「一人」は──雑魚ではない。
私は十分満足した。
「楽しみね」
「ああ、すぐに派遣するよ。今日のお前たちの戦い、実に見事だった。いいものを見せてもらった」
伝説のダンジョンに挑むには、今のパーティのままでは足りない。
追加の仲間が必要だと、私はずっと考えていた。
呼ぶべき人物は決まっている。
私は迷わずクルミに連絡を取った。
彼女は、他の用事をキャンセルしてすぐに屋敷にやって来た。
「ごめん、参加できない」
その答えは、予想外だった。
「そうなの……」
「違うんだ、リリカ。私はもう一度、試練を受けているんだ。あの馬鹿王子ハインリヒの冒険者パーティとしてね。そして、その試練は成功してしまった。だから規則で、他の試練には参加できないんだよ」
「わかった。応援しててね」
残念だが、どうしようもない。
彼女は、言いにくそうに私に告げた。
「リリカ、今回の試練の参加をドノバンに辞退させろ!」
「え? だって貴女、ドノバンのプライドを大切にしろって」
「ごめん。事情が変わった。実は試練の立ち合いを命じられてるんだ」
「よくある事じゃないの?」
「ああ、私だけなら四大侯爵家として考えられる。でも、ミオ叔母様を必ず同行させろと言われている……」
私は顔面蒼白になった。
確かに異常なことだ。
「聖女ソフィアと国王からの依頼よ!」
クルミは、ミオに来た手紙を見せてもらったが、理由は書かれていなかった。
ただ、大陸存亡の危機に、助力を──と。
「凄い文面ね、ソフィアは、ミオ様の正体を知っているのね……」
このことをドノバンに告げても彼は辞めないだろう。
そして私を絶対に同行させない。
「だから……」
「なら、安心ね。私の目的は、彼を殺させないことよ」
私は力無く呟いた。
絶対、彼を死なせない。
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