聖剣アウレリクスとセオの魔剣
王国が秘蔵する聖なる剣の中で、魔術を減衰させず、その力を完全に帯びることができる随一の剣──アウレリクス。
「アウレリクスなの? よく持ち出せたわね?」
「詳しいな、リリカ。資格者にしか貸し出さない。俺には資格があるからな」
「嘘でしょ?」
アウレリクスは光魔術を使える者にしか与えられない。第三王子が借りようとしないのは、彼自身が使えないからだ。
「王国の倉庫番が不正を許すと思うか? 見せてやろう?」
「別に見たくもねえよ」
不貞腐れたドノバンの答えと違い、私は興味津々だった。
「いいえ、ドノ、見せてもらいましょう」
レクサルの言ったことは本当だった。
彼が剣を振るうと、その刃は眩い光を帯び、振り抜かれると剣から迸る光線が大理石の標的を直撃し、粉々に破壊した。
「ど、どうして……」
「ナエルが出来るんだぞ! 俺に出来ないはずがないだろう」
真の光魔術を剣に付加し、自在に使いこなすその姿を見た私たちは、言葉を失った。
「レクサル王子。秘密を見せるとは……」
セディオが困惑の表情を浮かべる。
「構わないさ! これで誰が次の王に本当は相応しいか分かっただろう。ドノバン、臣下としての礼をとることだな。俺は寛容だ。今までの無礼は許してやろう」
「誰が……お前を……」
だが、レクサルはどうして自分に適正があると気づいたのだろう。
「不思議そうな顔だな、リリカ。お前は優秀な魔術師なのは知っている。だが、私は王国一の魔術教授だ。これからは尊敬するんだな」
セディオが自慢げに言った。
もしかして、とても簡単なことだったのかもしれない。使えるか試す。ナエルの実験がヒントになったのだろう。
「さあ、行きましょう。レクサル様。体が冷えてしまいます」
「ああ」
「偽物の光魔術使いについて行かずに、レクサル様に使っていただけて我々も鼻が高いです。他の者も近いうちにひれ伏すでしょう」
その言葉は、自分を首にした聖女と第三王子ディナモスへの当てつけだろう。
ジュリアン・セリオが大声で叫び、二人は部屋を出て行った。
「くそっ」
「ドノバン、あなたにだって適性があるかも」
「いや、俺には無い。ナエルを見て挑戦したが……」
光と闇の魔術は、適性がすべて。後天的な努力では太刀打ちできない。
「ドノ。あなたにはあなたにしか出来ないこともあるわ!」
「そうだな……」
「一人で戦うんじゃないのよ!」
「そうだ! 俺にはリリカがついている」
ドノバンは、いつもの大らかで温かい笑顔を取り戻した。立ち直りと切り替えの早さ、それらが彼の良いところの一つだ。
「そうだ! 俺にはリリカがついている」
「それじゃあ、始めよう!」
「ちょっと待って!」
私はその場にいる役人と操作員を部屋の外に追い出した。
レクサルたちに情報が漏れるのは避けたい。ドノバンも同じ思いだ。
「悪いが秘密特訓だ。扉の外で待っていてくれ」
「ですが、操作方法は?」
「大丈夫よ、わかるから」
私の言葉に、操作員は少し驚いた表情を見せる。
「本当ですか?」
「ええ。このボタンが起動ボタンで……」
ふふふ、ゲーム世界で何度も経験してきたことだ。
王子の発言に彼らはしぶしぶ従い、部屋を出て行った。
「じゃ、セバスチャンよろしく!」
私は執事長に操作方法を教えると、ドノバンの斜め後ろに立った。
「ううう、アウレリクスと比べられると、我が家の家宝は……」
グランディール侯爵は、一転して自信なさげな顔になった。
「劣るとは限らないわよ」
作られた時代も、使われた環境も違う。セオの剣は遥かに古いが、魔物が大陸中に跋扈していた時代の名剣だ。
数多の戦場を生き抜き、高名な騎士団長の手により魔を斬り、歴史に刻まれた剣……その重みと歴戦の痕跡が今も宿っている。
「さあ、行くよ。ドノバン」
「ああ!」
「イグニス・アディーレ!」
私は炎魔術の中程度を剣に付与する。私にとっては弱だが、一般人には大魔術並みの威力だ。
魔剣はまるで魔術を喰らうかのように、剣身に炎を纏う。剣が眠りから覚め、生きているかのように、炎を震わせ踊る。
「違う。これは魔剣の仕組みが違うんだ」
私は構造を詳しく知らないが、古の知恵が刻まれているのは間違いないだろう。
「感じるよ、リリカ」
ドノバンは幻影の魔獣を、息をつかせずに斬り倒した。
大剣ではないが、その剣捌きは鮮やかで、魔剣と魔術の調和が生み出す力強さが際立っていた。
「うん、じゃあ次!」
私は水魔術を付与する。
「あわわわ、重い!」
「剣と一体になって、喧嘩しないで」
「そうか、わかったよ、リリカ」
大きな剣を持ちたくなるはずの騎士団長が、それを使わない理由が、今ここでわかる。
そして風魔術。
「うわわっ、早い!」
「言ったでしょ。あなたの腕の延長よ!」
「わかってる、だけど……」
「集中しなさい!」
幻影とはいえ、魔獣は荒れ狂い、牙をむき、爪を振るう。しかし、それ以上に驚かせていたのは、私のドノバンへの厳しい指導のようだ。
グランディール侯爵もクロエも目を見開き、思わず息を呑んでいる。これでは姉さん女房では……。
「いける。出力を増やすわ!」
「お前の魔力は、そんなものか?」
剣の意志が私の耳に響く。鋭い剣気と共鳴し、胸が熱くなる。
「ああ、任せておけ!」
私だって怖い。でも、恐怖を超えて、今やるしかない。
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