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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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ドノバンの思い

 セリオに、宣戦布告された――私はそう感じていた。

 だが、私には何の権力もない。あるのは、私のせいで多くの人が死んだという、拭えぬ事実だけ。胸の奥が重く沈み、息をするたびに痛んだ。


 モヤモヤとした思いを抱えたまま、私は王都へ戻った。

「リリカ様、お帰りなさい」

 屋敷の玄関で出迎えたのは、ドノバンだった。

「なんで追ってこなかったのよ!」


「へ?」

「普段はうるさいくらいにつきまとうくせに!」

「ああ、ごめん。ちょっと用事があってね」

 軽く頭をかきながら言う彼の顔は、なぜか少し嬉しそうだった。


 ――それが、かえって胸に引っかかった。

 私は帰省中の出来事を一通り話した。ドノバンは珍しく軽口を封じ、真剣な眼差しで耳を傾けてくれた。


「なるほど。つまり、セリオは帝国の改革派から現状派へ乗り換えたってわけか。それに、今は第二王子派に付いたんだな」


「そういうことになるわ。ところで、その“用事”って?」

 ドノバンは腕を組み、少し間を置いてから意を決したように顔を上げた。


「実は、その用事ってのが――後継者の試練のことなんだ。第一王子と第三王子はすでに課題を終えている。だから残りの三人に、意志の確認があった」

「三人? 第二王子のレクセルと、第四王子のナエル……あと一人は?」


「……俺だよ」

 思わず息をのむ。ドノバンに資格があることは知っていた。けれど――。

「どうするの? まさか、試練に参加するつもりじゃないでしょうね?」


「……」

「やめなさいよ! 王様になれるわけないんだから!」

 言葉が出てしまってから、胸が痛んだ。

 聖女ソフィアの推薦は第三王子ディナモス。王都中の誰もが知っている事実だった。


 それでも、ドノバンは静かに首を振らなかった。

「リリカ、お邪魔するわ」

 玄関からクルミの声がした。私の帰還を聞きつけて駆けつけてくれたのだ。


 彼女を迎えに出たほんの一瞬の隙に――ドノバンの姿は、屋敷から消えていた。

「どうしたの?」

 クルミに問われ、私はため息をつきながらこれまでの経緯を話した。


 セリオのこと、そして後継者の試練のことも。

「そう……しかし、私の名を語るとは、セリオめ!」


 クルミの瞳が怒りに揺れた。

 彼女は四大侯爵会議でセリオに「帝国への過剰な肩入れをやめろ」と忠告していたという。


「私が言いたかったのはね、現状派でも過激派でもなく――“帝国と距離を取れ”ってことよ。まさか脅威を理由に圧政を始めるなんて、あの愚か者……」

 その声には、冷えた怒気とわずかな悲しみが混じっていた。


 さすがはクルミ。状況を正確に見抜いていた。

「それとね、リリカ。ドノバンに“王様になれっこないから試練をやめろ”なんて言うのは、男心がわかってない!」


「……だって、無駄じゃない?」

「もう! そんなの、本人だってわかってるのよ。なりたくてやるわけじゃない」

「じゃあ、なぜ?」


 クルミは深く息を吐き、少し寂しそうに笑った。

「“試練から逃げた臆病者”って、一生言われると思っちゃうのよ。ほんの一瞬の話題に上るだけなのにね。あの子にも、プライドってものがあるの」


「……しまった」

 私は唇を噛んだ。

 合理的に考えすぎた。

 ドノバンほどの実力者だからこそ、そんな言葉を気にしないと思い込んでいたのだ。聖女候補だったクルミの言葉は、胸に重く響いた。


「リリカ、“私の側を離れるつもり?”って言うべきだったのよ」

「はぁ?」

「いい? 試練はそんなに甘いものじゃない。命の危険が確実にある。――実はね、私、第一王子のパーティに同行して試練に臨んだことがあるの」


 その言葉に、私は息を呑んだ。

 クルミの体験した試練。それは想像を遥かに超える過酷さだった。

「多くの死傷者が出たんですか?」

「ええ。逃げても同じだった。生き残れたのは、ただの幸運よ」


 試練の内容は、「国王こそ最高の武を持つ」という王国の理念に基づいている。

「誰が内容を決めるんですか?」

「最終の決定権は、国王と聖女様よ」

「それって……」


 私は息を詰めた。

 国王候補の数は、二人もいれば十分――そう考える者は多い。国王も、聖女も。だからこそ、今回が“最後”の試練になるのだろう。


「今までも、何度も試練が出されて、第二王子はすべて失敗してるわ。今回が最後になると思う。だから、全員に声がかかったの」


「……わかったわ。ドノバンと話をしてみる」

「気をつけて。今回は特に、各陣営からの嫌がらせや罠が多いはずよ」


 私はエミリア寮のドノバンに面会を申し込んだが、返事はなかった。

「エマ、ナエルに会いに行きましょう」

 ナエルたちは快く了承してくれた。


 ナエルの部屋を尋ねる前に、近くにあるドノバンの部屋を叩いた。

「ドノバン様たち、誰もいませんよ」

「どこに行ってるのかしら?」


「試練の準備に、魔物の森へ訓練に行くと申しておりました」

 迎えに来てくれたナクサの執事がそう告げた。

 さらに、ナエルのメイド長カグラから、思いもよらぬ話を聞かされた。


「え? あなたたちも試練に参加するの?」

「ええ、ナーシル様からのご指示です」

「危険なのでは?」


「危険を感じたらすぐ撤退しますよ。ね? ナクサ様。それで――リリカ様にも、パーティに参加していただきたくて。もちろん、満足してもらえる報酬もお支払いします」


 ドノバンの件もあり、私はその場で即答できなかった。

「……持ち帰って、考えます」

 そう答えるのが精一杯だった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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