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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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怒りの拳



 何はともあれ、大商人たちも行方知れずの人々の情報を集めるだろう。取引条件のひとつなのだから、彼らも必死に動くはずだ。


「セバスチャン、待たせたわね。実家を見に行きましょう!」

秋休みになり、学校でもまとまった休暇ができた。……この学校、どうも登校日が少ない気がする。


「わかりました」

セバスは、私から離れることをよしとしない。それは、父との約束を守り続けているからだ。


 つい先日も、ミオに私が半ば誘拐のように拐われたとき、彼にとっては肝が冷える出来事だったに違いない。


 もっとも、学校は男子禁制の女子寮で、そのときの彼は自由――いや、自分の仕事に専念していた。

 私は、カンザブローがぽろりと漏らした情報から、裁判所に「実家の競売差し止め」を申請した。


 すると、セリオ侯爵から出鱈目な要望書が提出されていることがわかった。

『リリカ・ノクスフォードは、セリオ侯爵領にある実家の権利を放棄した。また、現在誰も居住しておらず、長期の空き家となって治安悪化が見込まれる。早急に競売にかけてほしい』


 裁判所の廊下を歩いていると、パール裁判官が声をかけてきた。

「こんなところで何をしている?」

 私は事情を話した。


「なるほどな。権利放棄にはお前のサインが必要なはずじゃが?」

「ええ、もちろんありました。でも……偽物でした。公文書偽造で訴えましたが、相手は侯爵。どんな仕返しがあるか……」


「ははは、そういうことか。公平に見張っておくよ」

 パールは手を軽く振って去っていった。

 その背中が、なぜかとても大きく見えた。



 今回の旅には、ネイサン司祭とトモオ、そしてエマも同行している。

「どこに泊まるんですかぁ?」

「教会にしよう! 宿泊施設もあるよ!」


 トモオはネイサンと共に何度か訪れており、勝手を知っている様子だった。

「えー」

 屋敷が閉鎖されていたら、とりあえず、そうするしかない。


 教会とそれに付随する施設は、ネイサンが溜め込んでいた資金と、私――ノクスフォード家からの寄付で建てられたものだ。


「まだ建築は続いてますが、トモオが知ってる場所よりずっと過ごしやすいですよ。それに、新しい施設もできました」

 ネイサンが自慢げに語る。サグラダ・ファミリアや五つ星ホテルでも造るつもりか……。


「やったぁ! そりゃ楽しみだ!」

 トモオが嬉しそうに笑う。彼のことだから、新しい施設が何か、もう察しているのだろう。


 帽子を深くかぶり、行商人の姿をしたセバスチャンが、真剣な顔で馬車の御者を務めていた。

峠での敵襲に備えているのだ。


 前回と違い、今回は目立たず、知られずに移動することを心がけた。

 学校にも誰にも旅行のことを話さず、一般旅客用の馬車を利用し、深夜に出発した。


「乗り心地悪いなぁ……うーん、もう限界」

 私は休憩を促したが、セバスは無言で手綱を握り続けた。

「ここまで来たら、一安心です」

 峠を越え、セリオ侯爵領の農地を見下ろす休憩所に着くと、ようやく馬車が止まった。


「うーん、疲れたぁ!」

 私は馬車から飛び降り、大きく伸びをした。

「ここの朝飯が美味いんですよ!」

 トモオの言葉に導かれ、休憩所併設の食堂に入る。


 早朝から営業している、旅人に人気の店だ。

「いらっしゃい! モーニングか、うどんしかないよ!」

 看板おばちゃんの威勢のいい声が響く。


 店内を見回すと、私たちのほかには冒険者風の男がひとり、うどんを啜っていた。

「あれ?」

 背を丸めたその男――間違いない。聖蛇騎士団長、ブガッティだ。


「何をしているの?」

 騎士団長自ら偵察というのは不自然だ。

「ああ……リリカ様」

 彼は顔を上げ、力なく答えた。


「話を聞かせてもらおう」

 セバスチャンが怒りを隠さず、逃げようとする彼の腕をつかんで席に座らせた。

 ブガッティは抵抗せず、重たげに腰を下ろした。

 彼の口から出たのは衝撃的な言葉だった。


 聖蛇騎士団は、すでに解散になったという。彼は、どこからも引き取りの声がかからず、王都を去ることになったと。


「え? どうして?」

私の頭の中に、まるで驚嘆符が浮かんだ。

「ディナモス様から遠征に連れて行かれず、王都に残れと言われただけでなく……聖女様の騎士団を新たに設立するから不要だと」


「そう。見限られたのね」

 私は静かに言った。

「教えて? 父を殺したのは誰なの?」

「わからん。俺たちじゃない……」

 彼の手が小刻みに震えていた。


「あなたたちじゃない。でも、犯人はあなたたちの装備をしていたのよね?」

「……」

 父ほどの戦士が、盗賊程度に至近距離で一方的に斬られるなどあり得ない。


 つまり、騎士団の装備で近づいたのだ。

「あなたたちは、こともあろうに自分たちの装備が盗まれ、そのことを隠蔽したのね?」


「……そうだ。だが、窃盗団の仕業だとは我々は言ってはいない」

「なぜ、バルト様の遺体をその場に置き去りにした?」

「すまなかった。だが、法律上は一般市民の殺害だ。警備隊の仕事で、我々の職務ではない」


 セバスは無言でブガッティを外に連れ出した。

 誰も止めなかった。止められなかった。

 喧嘩になるかと思ったが、そうはならなかった。

 ブガッティは、セバスの拳を受け入れ、倒れることなく殴られ続けた。


「お前たちの落ち度で装備が盗まれ、その結果、人が死んだ。それなのに、詫びる気持ちも、弔いの心も無かったのか!」


 鈍い音が響くたび、空気が震えた。

 やがて、ブガッティは力尽きたように膝をつき、地に崩れ落ちた。

 鍛えた体ゆえに死にはしなかったが、ただでは済まなかった。


 私たちは、店のおばちゃんに迷惑料を含めた食事代と、男の傷を癒やすポーションを渡した。


「バルト様は、私たちの領民の心に生きていますよ。リリカ様、また寄ってくださいね」

 おばちゃんは、深々と頭を下げた。


「セバス、手を出して」

 私は彼の拳に丁寧に薬を塗った。

「勝手なことをしました」

「ううん、父のために怒ってくれて、ありがとう」涙がこぼれた。


 それは私の、そしてリリカの心からあふれた涙だった。

「さあ行きましょう。――セリオと対決よ」


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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