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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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エミリア寮訪問

 翌日、放課後。

 約束通り、私はサラを連れてエミリア寮を訪れた。


「私も連れてって下さい!」

「いいけど……今さら行きたいの?」

「はい。懐かしいですし、友達もいますから」


 エマには、メイド仲間が多くいるらしい。私の場合はここを追われ、縁を切られた相手ばかりだ。友人と呼ぶのも怪しい人たちである。


 エミリア寮は、ソレリア寮から小高い丘を登った先にあった。

 高い門に守られ、正面には守衛。奥には、多層階のホテルを思わせる建物がそびえ立つ。

 入口は高級ホテルそのもので、ドアマン、ベルボーイ、ポーター、セキュリティ、さらに訪問客用のフロント受付係まで配置されていた。


 男女共用だが、棟は二つに分かれている。共用部分の食堂やラウンジは活気に満ち、小さな貴族社会の縮図のようだ。


 私は嫌な気分にはならなかったが、もう一人のリリカには耐えがたい場所なのかもしれない。心の中で、少しだけ謝った。

『ごめん。この場所に来るって言って。短慮だった』

『今さら気にしないわ』


 受付でナエル王子への訪問を告げると、執事がすぐに案内の準備を始めた。

「ここでお待ちください。ナエル様の執事が迎えに来られます」


 ロビーチェアに腰掛け、学校帰りの生徒たちを眺めていると、貴族クラスの元同級生の姿があった。

 彼女たちは私に軽く会釈し、足早に通り過ぎていく。私が特待生として戻って来たことは、すでに知れ渡っているのだろう。


 その横で、彼女たちのメイドとエマは再会を喜び合っていた。私は微笑みながら見守る。胸の奥に、羨ましさとわずかな距離感が混じる。


「お待たせいたしました」

 ナーシルの砂海連邦の民族衣装をまとった男が立っていた。ナエルの執事長だ。――強者の気配がある。

「いえ、それほどでも」

「こちらへどうぞ」


 まさか再び、この場所に来る目的が男子棟の最上階だとは思わなかった。


「リリカ様がその気になれば、いつでも来られますよ?」

「何を言ってるの?」

「ほら、あそこに」


 最高階層には四室しかない。第二王子レクサル、第三王子ディナモス、第四王子ナエル、そして従兄弟のドノバン。


 第一王子の部屋は卒業により空き、その代わりにドノバンへと与えられた。少し理不尽な配置だ。


 私がこの階層に現れたのを、扉越しに覗いていたのがそのドノバンだった。恨めしそうな顔。珍しくエミリア寮にいたらしい。


 いつもの彼なら遠慮なく近づいてくるはずだが、今日は来なかった。


「どうせ、あとで何か言ってくるわよ」


 そう思った瞬間、それは現実になった。

 私がナエルの部屋に入った途端、ドノバンが滑り込むように現れたのだ。


「あ、ナエル! お前に渡すものがあったんだ!」

 ――嘘だとすぐに分かる。


「ドノバン様、用事なら後ほどナエル様の方からお伺いします」

 カグラが追い出そうとする。


「待て待て! 俺も話を聞く! リリカ様が俺の部屋より先に他の男の部屋に入るなんてダメだろ!」


 全く意味不明だが、その瞳には嫉妬と焦り、そしてどこか寂しさまで混じっていた。

 私は心の中で苦笑する。――やれやれ、今日もドノバンは一人で大騒ぎか。


 ※


「ドノバン様はこう見えても、秘密は守りますよ。それに味方になってくれます」

 私が彼の肩をぽんぽんと叩くと、機嫌が直ったようだ。


「そうですね……ドノバン兄様にまでご迷惑をおかけしてもいいのでしょうか?」

 ナエルが遠慮がちに言う。


「ああ、任せてくれ! それより話を聞かせろ!」


 ナーシルの秘宝はネックレスのペンダントになっていた。

「肌身離さず持ち歩け!」――その約束は守っていた。だが、いつの間にか贋物に入れ替わっていたのだ。最大の謎である。


「でも、時期は分かるのよね?」

「それが……ダンジョン研修中じゃないかと。戻られた時、ペンダントの色が分かるほど違っていたので」

 肌の黒い執事長が答えた。


「じゃあ、時期はダンジョン研修中ね? 外したり、この前みたいに飛んだりはしてないのね?」

「はい」

「私は同行できませんでしたので……」


 カグラは、すり替えられた場に居合わせられなかったことを悔しそうに唇を噛んだ。


「ちょっと見せてくれる?」


 私は初めて、偽物と言われるペンダントに触れた。色は、わずかに黒みを帯びた硬質な特殊ガラス。


「触り心地とか重さとか?」

「分かりません。でも、軽くなった気がします。形は同じです」


 私は鑑定スキルを使い、そのガラスのペンダントを覗き込む。


「えっ……?」

「どうしました?」

「ガラスに見えるけど……ゴミじゃないわ。あの馬鹿王子、鑑定レベルが低いんじゃないかしら」


 私の中に一つの推理が浮かぶ。


「ねえ、ナーシルの秘宝をもらった時、おじいさまから何か言われなかった?」

「帰った時に私に預けなさい、くらいですね」

 カグラが思い出して答えた。


「ティア様がいれば、答えはすぐに分かるんだけど」


 私は窓の外を見やる。しかし残念ながら、鷹の姿をしたドラゴンは現れなかった。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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