表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/91

十年の誓い


 扉の向こう、円卓には残りの三人の姿があった。

 二人は、慌てて立ち上がった。聖職者の女と、小さな体をして目つきの鋭い男だ。ルミナ大司祭とナッシュ子爵だろう。


 もう一人。クルミ。不貞腐れた態度でこちらを見もしなかったが、視線の端で私のことを見つけると、大きな声を出した。


「なんで、リリカがここにいるのよ!」

「おいおい、友達がお前に会いにきたんだ。嬉しいっていうところだろう」

 ミオが笑っていった。


「はぁ、リリカを巻き込んで危険に晒したんだな! このクソババア」

 クルミは怒って席を立つと、スタスタと私のところに歩いてくる。


「あいかわらずうるさい子だね。この子だってお前に会いたがってたよ。それに復讐は、両家でやらないと意味がないだろ」

「私がやりたかったんだ。それを邪魔しやがって!」


「お前に、汚れた仕事は似合わない」

 クルミは私を引っ張って、彼女の席の隣に座らせた。

「円卓会議のメンバーではありませんよ」ハーゲン宰相が言い、私が『まずい』と立ちあがろうとした瞬間、クルミが抑えつけた。


「まあ、良いじゃないか。オブザーバーだ。椅子も八つあるしな」

 ミオが言った。まるで、彼女がこの場の女王のように。


「始めてくれ」ミオの弟フォリオンが、口を開くと、メイド達によってワインの入った杯が配られた。


 私の前にも置かれた。恐々とワインを見つめる私に気がついたクルミが、小さな声で言った。

「ただの乾杯よ。実は美味しい」

 そして、メイド達が全員退席すると、アルフレッドだけが残り、扉を閉めた。


「この西の地を守る、マリスフィアの名において。

 我らは王国の剣となり、魔の理をもって民を護らん」


 ルミナ大司教が唱えると、全員が復唱し杯を飲み干した。クルミの言った通り美味しかった。

「マリスフィア侯爵の任定詮議を行う」ハーゲンが宣言をした。


「その前に教えてくれ。何故、こんなに急いでやる必要があるんだ?」

 フォリオンが訊いた。

「王国からの要請だろう。調べはついている」ナッシュ子爵が鼻で笑いながら言った。


「ああ、奴らも今頃になって、慌てふためいている。剣と盾を無くしてな!」

 ハーゲン宰相が呟いた。


「奴らの手足はもいだ。ナッシュ、後は何とかなるな?」

 ミオが尋ねた。

「お手間を取らせました。ミオ様」

 クルミと私を除いた全員が頭を下げた。


「それでは、選定を致します。ご意見を」

「私では役不足ですか?」

 暫定公爵のアンプリオスが、小さな声で言った。


「まだ、早い。それに今は敵に狙われる心配がある」

 フォリオンが明確に否定する。

 それならば、公爵の弟である彼が適任じゃ無いのか? 私は不思議に思って、クルミに訊いた。


「ずっと体が悪いのよ。今日も無理して来ている」

 まるで、枯れ木のような細い手足。こけた頬。くすんだ顔と窪んだ目。本当だ。よく見ると病人の姿だ。


「やはり、クルミ様が適任ですね」

 ルミナ大司教が、彼女を見て言った。

「私は養女だぞ!」

 クルミは怒って叫んだ。

「俺たちが、サポートするよ!」ナッシュが優しい声で言った。


「兄の意志を継いでもらえないか?」フォリオンが落ち着かせ、説得する。

 全員が頷いた。公爵になりたがっているアンプリオスさえも。


 マルスフィア侯爵の意志。それはクルミにとって殺し文句だ。自信が無いのだろうか。聖女候補として送り出されたが、偽物聖女に変わった時、彼女は裏切ってしまったと感じたのだ。そして、そんな自分に務まるのかと。


 本当の意味で、クルミが立ち上がるには、彼女の決意が大事だ。

 私は、彼女の震える手に、私の手を重ねた。


『勇気を出して叫べ。私が侯爵をやってやる』と気持ちを乗せて。


 だが、ふと思う。何故、ミオが公爵にならないのか、と。だがその選択は誰の口からもあがらない。ただの引きこもりで、元気。それは私と同じだ。

 どれだけの沈黙が流れたのだろう。


「わかったわ。私がやる。だけど二つ条件がある。一つが、私の在任期間は長くて十年だ。それともう一つは、最後の復讐は私とリリカにやらせて欲しい」


「よかろう」

 だが一人、首を縦に振らなかったものがいた。ミオだ。

 彼女の纏う空気が、沈み変わる。


「復讐は、とても危険だ。私が……」

その時だった、ミオの肩に、どこに隠れていたのか。小さな鷹が止まった。


「良いじゃないか? やらせてみれば。過保護すぎだ、暗黒の魔女よ」

 ティア様の声だ。

「ティア。あなたが言うなら」ミオは鷹の頭を撫ぜながら言った。


「え? 魔女? 実在したの?」


 私は、驚きの声をあげたが、クルミを筆頭に他の人間の言葉は違った。


「え? 氷雪のドラゴン ティア 実在したの? ちっちゃい」


 ゲーム世界、追加実装予定の魔女たちは、結局、歴史、いや伝説として語られただけだった。だから、暗黒の魔女が何者かは私は知識として知っていた。


「一つの体に、二つの魂。その一つが魔女。それが暗黒の魔女」

「正解だよ、リリカ」


 だが、ちっちゃいと言われたことに腹を立てたティア様の氷雪によって、部屋は雪山になりそうだった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ