表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/86

港街セーヴァスでの再会

フォロー、評価をお願いします。投稿のモチベになります


 私は、ベースたちが墓を掘り進める様子をしばらく眺めていた。笑ってしまうほど、あまりに手際が良い。


「ここの人たちは、ただの漁師じゃなかったんですね!」

「まあな。だが、正式な軍人でもない。マリスファイア侯爵の私兵さ」


 やがて彼らは敵の残した荷を焼き払い、やってきた船を沈めた。炎と煙が立ちのぼり、潮風に焦げた匂いが混じる。

 その光景を前にして、ようやく私はミオの計画の全貌を悟った。


 屋敷に戻ると、円卓会議の準備のために、ミオはすでに着替えを終えていた。

「もう大丈夫なのですか?」

「ええ、ありがとう。リリカも早く着替えなさい」

「そうですね」


 私たちはセーヴァルへ渡る船に乗り込んだ。

デッキに立ち、遠ざかる島を見つめる。


 ここは上陸できる場所が限られていて、港を除けば高く切り立った岩壁ばかりだ。人を拒むようなその姿は、まるで島そのものが巨大な要塞のようだった。


 隣に立ったミオが静かに口を開いた。

「ありがとう」

「最初から計画だったんですね」

「……そうよ。奴らは大胆で慎重で、逃げ足も早い。一人残らず仕留めるには、あの方法しかなかったの。それに巻き込み事故を避けるためでもあるわ。新たな犠牲者は出さない」


 だからこそ、マリスファイア侯爵の島に誘き寄せ、洞窟へ閉じ込めたのだ。

「一人残らず、ですか?」

「ええ。これで――兄に手をかけた者は全員、殺したわ!」


 ミオは、満足げに唇を吊り上げた。その笑みは艶やかでありながら、氷の刃のように鋭く冷たかった。

「でも、王都側の半分の敵は……私が岩壁の中に閉じ込めた。生きているはず……」


 違う。本当のところ、あの後どうなったか私は知らない。ドノバンたちが尋問しているはずだと、勝手に思い込んでいただけだ。


 二つの疑問が頭をよぎる。

「ミオさん、あなたは魔力を持たないって言いましたよね?」

 あの黒いスライムのような液体――あれは魔術なのか、それとも別の何か。ゲームの世界には存在しなかったはずのもの。


「そうよ、それは本当よ」

「じゃあ、あれは何ですか? あの黒い液体は?」

「ああ……あれはマリスファイア公爵家に伝わる秘伝の毒液よ。だから秘密にしておいて」


 いや、毒液などではありえない。あれは意志を持ち、獲物を追い立てていた。

 魔術で召喚された魔物にしか思えなかった。それに、私たちが通ったトンネルの前に、あらかじめ毒を撒いておくなど不可能だ。


 嘘だ――。あの瞬間、彼女は確かに恐るべき魔力を纏っていた。今、隣にいるミオとはまるで別人のように。


「そろそろ到着よ。あの島からは近いわ」

「それで、私はどうすれば……クルミに会えるのですか?」

 やがて船は、華やかな港街セーヴァスの船着場に滑り込んだ。


 そこは海と大地の境界に広がる色彩の都。真白な石造りの家々が階段状に連なっている。潮風に揺れる無数の旗。


 波止場では巨大な帆船が並び、人足たちが声を張り上げて荷を運び、商人たちの馬車が絶え間なく往来していた。


 ゲーム世界で最も美しいその街が、今、目の前に広がっていた。私は胸の奥が熱くなるのを抑えきれなかった。


「もちろん会えるわ。それと円卓会議にも同席してもらう。――ほら、出迎えが来たようね」


 クルミは元気にしているのだろうか。私の姿を見て、果たしてどんな顔をするだろう? 驚くだろうか、それとも――私は少し不安になった。


 私たちを乗せた馬車は、市場を通る。市場も人が溢れ、熱気が漂っていた。

「市場見学は円卓会議の後に」

「楽しみですね」

「どっち、市場、会議?」

 ミオは、悪戯げに微笑んだ。


 セーヴァス城は、海の近くの崖の上にあった。

「お待ちしておりました」

 城の門をくぐり、馬車を降りると、数人の高位の男が並んでした。


「久しぶりね、フォリオン」

「姉さん、危険な目に遭ったって聞いたよ」

 そう言って、ミオに抱きついたのは、痩せている威厳のない男。亡き侯爵の弟だ。


「ああ、ノクスフォードの娘に助けられたよ」

ミオは、私を紹介してくれた。

「そうですか! 遠路はるばる。それとノクスフォード侯爵のこと、お悔やみ申します」


 この城にも半旗が掲げられている。

「おばさま、お会いできて光栄です!」

優しそうな少年が、元気に声を出す。屈託の無い笑顔だ。


「アンプリオス、無礼な子だ。ミオ姐様とお呼び」だが、ミオの言葉には、棘がどこにも無かった。

「はい!」そう言ってミオの手を取って歩き出した。


 この少年が、暫定のマリスファイア侯爵だ。この子が正式に、侯爵位を継ぐのはまだ早い気がする。そう感じるのは私だけだろうか。仕草が幼いのだ。


「ハーゲン子爵、他の者はどこに?」

「すでに皆様、お揃いです」髭ずらの恰幅の良い男が答えた。


「ふうん。出迎えにも来ないとは、私も舐められたものよ」

 一瞬、ミオが別人のような声を出した。

 ハーゲンは青ざめた顔で答えた。


「いえ、ご家族の再会を邪魔しては悪いと気を回してしまいました。ご勘弁下さい」


 私は、宰相の立場にあるこの男の態度が、怯えているように見えた。


 赤い絨毯の廊下の先にある、会議室の扉が左右に大きく開かれた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ