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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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セーヴァスの沖の孤島


 私たちを乗せた船は、セーヴァスの沖に浮かぶ孤島にたどり着いた。


 二日ぶりの陸地。潮の香りが風に混じり、波間から舞い上がった白い鳥たちが甲高い声をあげて迎えてくれる。岩肌に砕ける波の音は、遠い太鼓のように重々しく響いていた。


「おかげで、予定より早く着けたわ」

「ですが、倒れてしまいました」

「そうね。リリカが人だとわかって安心したわ」

 ミオは船から降りると、私の手を取って坂道を登っていく。


 あの日――帆船に風を吹かせた日。私は魔術を使ったまま、つい昼寝をしてしまった。

 そしてそのまま、夜までぐっすり眠っていたらしい。


「リリカ、風が止んだわ。それに夕飯の時間よ!」

 呼びかけに目をこすり、ふらつきながら立ち上がって扉を開いた瞬間、頭痛と全身のだるさに襲われ、その場に崩れ落ちた。


「危ない!」

 ミオが必死に抱きとめる。彼女の腕は柳の枝のように細いのに、折れそうなほど力いっぱい支えてくれていたのを、私は覚えている。


 そのまま再びベッドに運ばれ、横になると、すぐに足音が近づいてきた。

「少し待ってて。船医が来るから」

 アルフレッドが、船医を連れて戻ってきたのだ。船医はいくつか質問をしてから、断定した。


「これは間違いなく魔力切れの症状ですよ。マジックポーションと痛み止めを処方しましょう。数日、魔術は使わないように」


 ――あ、そんな初歩を私が忘れていたなんて。自分のこととなると、冷静に判断できないものだな。

「薬は持ってます。私の服のポケットに」

「我が家にもあるのよ。遠慮せず使いなさい!」

「無くなったら、いただきます」


 そう言って、自信作のマジックポーションと鎮痛剤を飲み干した。

 痛みはすぐに消えたが、だるさは残る。問題は、それよりも自分の中の魔力量だった。


 人は生きているだけで魔力を生み出す。使えば体が補充しようとする。

 だが、転生前のリリカは、ほとんど魔術を使わなかった。魔力の回復機能が、鍛えられてない。


 ――言うなれば、巨大なコンビナートのタンクを持ちながら、たらいで水をくんでいるようなものだ。生活に困ることはない。だが私は、魔力残量を気にせず、思う存分ぶっ放していきたいのだ。


 本当のところ、数十本、いや数百本は飲まないと満タンにならない。

「どうしたの? 薬が効かないの?」

 難しい顔をしていたのだろう。ミオが心配そうにのぞき込む。


「いえ、マジックポーション一本じゃ、全然足りなくて」

「でも、ポーションの服用は精神に負担をかけるから、たくさん飲んじゃダメよ」

「知ってます」


 ――私は「ガンガン行こうぜ」を諦め、「呪文使うな」に方針を変更した。

「無理しないで。お粥でも作らせるから!」

「ありがとうございます」


「小さいころ、クルミにも食べさせてあげたのよ。あの子ったら忘れちゃったのかしらね」

 ミオはベッドの横に腰掛け、懐かしそうに微笑みながら、湯気の立つお粥を私の口へと運んでくれる。

 なぜか、素直に口を開けてしまう自分がいた。


 ――情けない、と思う自分と、どこか安心してしまう自分が、胸の中でせめぎ合っていた。幼き日の優しい微かな記憶。


 孤島には、小さな漁村があるだけだった。その孤島は昔、海賊の棲家だったらしいが今は見る影もない。


 奥地に、マリスフィア公爵家の古い邸宅が一軒建っている。

「きちんと清掃もしてるし、いつでも使えるようにしてあるの」

「やった、陸地で寝れる!」


 なんか寝てばかりいる気がする。眠りが深いせいなのか、私の記憶とリリカの記憶が混濁していくのを感じる。それは、二人の魂が混ざり合うように感じる。


「あなたはそれでいいの?」彼女の魂の声が聞こえる。

「でもそれじゃあ、あなたに体を返せないかも」

「構わないわ。二人で一つよ」

 魂の融合が進み、私の性格も少しずつ変わっている。


 今、考えないといけないこと。

 ――クルミが何故誘拐されたのか。

 ――ミオが何故殺されかけたのか。

 そして、侯爵を殺した犯人は誰なのか。


 邸宅に入ると、ミオは応接室の深い椅子に私を座らせ、自分も執務席に腰をおろした。

「さて、話をしましょうか?」


「ミオさん、貴女が狙われる理由はなんですか?」

「それは私が屋敷から出て、セーヴァスに向かったからだ」

「向かうと何があるんですか? 今までも行ったことがありますよね?」


 マリスフィア侯爵が殺されたことで、後継者を選ぶ会議が開かれる。

 暫定侯爵である彼の息子も、正式に侯爵として認められるには、セーヴァスで開かれる円卓会議で承認を得る必要がある。


 その会議は古来より決められた一族の代表と血族のみが列席を許される荘厳な儀式で、代替はきかない。


 出席者は以下の七人。

 ――亡きマリスフィア侯爵の弟。

 ――元侯爵の妹であるミオ。

 ――暫定侯爵たる嫡子。

 ――宰相家のハーゲン子爵。

 ――西方聖教会ルミナ大司祭。

 ――ナッシュ子爵。

 ――そして、特例として養女であり聖女候補だったクルミ。


「クルミまで参加するんですね。他の養女は?」

「いないの。すでに他家に嫁ぎ、参加できない。加えて、兄は彼女たちを推薦しなかった。それとクルミの場合は、聖女候補として他の賛同も得られたので、例外的に認められていたの」


「円卓会議は明後日よ。喉が渇いたな。アルフレッド、お茶を」


 ミオは部屋の窓を開けた。

 孤島に吹く風は穏やかで、差し込む日差しは柔らかかった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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