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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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サクナの五番

お読み頂きありがとうございます。フォローと評価をいただけると幸いです。励みになりますので!


「じゃあ、私たちに薬の売り子をやれと言うの?」

 スミカは怒って言った。

「薬だけじゃないわ。化粧品も取り扱うわ。それに、場所は一番街よ」

「よくわかんないけど。そんな場所で薬を売る意味が?」

 まあ、そうだろう。イメージは、百貨店とか銀座にあるブランドショップなのだが。


「スミカちゃん。歩合制にしましょう。そうね、スミカちゃんとその友達が売ったものの一パーセントでどうかしら?」

「売れるかどうかもよくわからないものを……」

「それはそうね、エマ。例のものを」


 私の秘策その一だ。

 持ち歩きたくなるような小袋の中から――ごそごそ。

 出てきたのは、透明な四角いガラス瓶。キャップは黒い立方体で、ラベルは白地に金文字。余白を広々とって、ど真ん中にただ一行。


 『Sakuna N°5』。

 はい、完全にアウトです。見覚えあるでしょ。世界で一番有名な、あの五番のやつ。

「なんか、酒の瓶みたいね!」スミカの友人が呟いた。

 ……おいおい、これは“酒瓶”じゃない。これは“伝説の瓶”なんだぞ。シンプル、エレガント、モダン――とか、そういうコピーで百年くらい語られてるやつなんだぞ。


 しかもこっちは、王国の憧れ――伝説の女神サクナヒメの名を冠している。はい、ブランド力×伝説補正、最強タッグ。

「どうぞ」エマが、手首に一プッシュ。

「ああ、いい香り」――さっきまでデザインにケチをつけていたスミカの友人が、今はうっとりしている。

 そうだろう、そうだろう。

 これはゲーム世界の製薬裏技メニューを改造したもの。複数の花の天然オイルに、調合薬を組み合わせた逸品だ。


 本当は“天才パフューマー・リリカ”と名乗りたいところだが……香りのセンスに関しては、獣人族の血を持つエマには到底敵わない。実際に作ったのは彼女で、私は「こんな感じで!」とブランドのイメージを投げただけだ。

 エマは嬉しそうに、スミカたちの感想を聞いている。


「次は、スキンケアクリームよ」

 スミカたちが、どんどん引き込まれていく手応えを感じた。

「こっちは限定販売よ。材料が集まらないからね」

「どうやって作ってるの?」

「それは秘密よ。植物だから、変なものじゃないわ。つけてみましょう」

 材料は、シシルナ島に生えている植物ヴァニーラ。ナイルとドノバンが農園を作る計画を立てている。


「悪いけど、顔を洗って来てくれる? まずは洗顔。基本よ」

「わかったわ」

 スミカたちは素直に洗面所へ向かっていった。

 ……美容講師みたいに偉そうに言ってるけど、私自身は引きこもり時代、洗顔なんて“眠気覚まし用”でしかなかったのにね。


「よし、エマは着替えて」

「わーい! 楽しみ」衣装をクロークから出して着替え始めた。

「私は、カウンターを作るわ」

 エマの部屋は教育ルーム。つまり生活は、私の部屋でエマと二人。

「もう一部屋借りよう」と言ったら、「無駄遣い」と却下されてしまった。

 私はパーソナルスペース広め派なんだけど、エマはどんどん侵食してくる。まあ、彼女なら嫌じゃないけど。

「どうですか? リリカ様?」


 いつものメイド服ではない。黒を基調にしたシックなジャケットとタイトスカート。白いシャツにワンポイントのアクセサリー。

「うーん。でもスミカちゃんたちなら似合いそう」

「え? 酷い言いようです」

「悪くは無いから。さて、お戻りよ!」


 彼女たち、一人ずつ椅子に座らせる。

 エマの接客は練習の時より断然良い。本番に強いタイプらしい。

 接客を受けているスミカたちも、次々に質問をしてくる。さすが、腐っても王立学園の生徒。

「まあ、他にもポーションがいくつか。商品は開発中だから、楽しみにしてて」

「わかったわ。それじゃ、条件だけど」

「仕方ないなぁ。でも二パーセントが限界よ」


 だが、彼女たちは首を振った。なかなか手強い。困ったなぁ。

「違うわ、リリカ様。一パーセントで良いわ。売れるもの。その代わり、社員販売で商品を安く買わせて欲しいの!」

 ……なるほど、帰ってくるのが遅かった理由はこれか。コネクションに富裕層が多いのを計算済みってわけね。

「だけど数量は限定にするわよ。それじゃあ、契約成立ね」


 私はスミカと握手を交わした。歴史的和解だ。

「オーナーのリリカ様に質問なんだけど、もちろん男性用の商品もあるわよね?」

 いきなり、新入社員の鋭い一言。

「……当たり前よ……」

 さすが、スミカちゃん。私はその瞬間、男性用製品の開発を急ぐことに決めた。


 次の日、国税局にバイトに行った。どんな目に遭うのだろうかとおどおどしながら。

 だが、私の予想に反して、何も起こらなかった。

 仕方ない。タヌキことラクーン特捜部長に謝りに行こう。いや、クルミのせいだと密告しよう。

「なんだ、そんな事か。むしろ助かったよ。俺たちでは抑えきれないじゃじゃ馬だと言っといたから。大丈夫!」

 ……いや、それ、ダメ上司ランキング堂々の一位だから。


「ところで、クルミさんは?」

「来てないよ。まあ、自由な子だからねー」

 私は黒船商会の特別捜査の報告書を一日がかりで書いた。深夜まで一人残って。

 タヌキの机の上に置こうと思ったが、嫌な予感がしたので鞄に入れて事務所を出た。

 一台の馬車が、猛速度でやってきた。


 その馬車には、マリスフィア侯爵の家紋がついていた。


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