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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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毒には毒を。


「待てよ……クルミは、むしろ噂が広がることを望んでいた」


 彼女の語ったことが真実なら、大衆にとっては──リリカとクルミが二人で暴れ回る方が、よほど面白いはずだ。


 やっぱり何かがおかしい。胸の奥でざらつく違和感が消えない。

「リリカ様、必ず噂の根を突き止めてみせます」

 セバスの低く静かな声。その自信に、いつも私は強く心を支えられる。


「お願い。それじゃあ──まずは副ギルド長、アミンの動きから教えて!」

 アミン。スカーフや武器を横流ししていた男。武器だけならまだしも、スカーフにまで手を出したのは尋常ではない。


「奴はギルドの受付に顔を出さず、副ギルド長室にこもって寝泊まりしている」

 報告するガンツの額には深い皺。濡れ衣をかけられた悔しさが刻み込まれていた。


「来客は?」

「最近は商人とも会っていない。顔を出すのは冒険者ばかり──しかも実力者揃いだ」

 高位の冒険者が犯罪に? 資金もプライドもあるはずなのに……。


「わかったわ。引き続き見張りをお願い!」

「部隊の戦える者は冒険者登録させている」

 ガンツは不器用な気遣いを見せる。

「ガンツ、死人が出たらあなたの責任よ!」


「わかってるさ、嬢ちゃん。……“いのち、大事に”だろ?」

 思わず笑ってしまう。けれど胸の奥では、拳を固く握っていた。死者は戻らない。油断は一瞬たりとも許されない。


 私は近いうちに、この新しい舞台──冒険者の戦場に立つ。

 ゲーム世界では全ダンジョンを制覇済み。地図は頭の中にある。

 ……ふふっ、自然と口元が緩んでしまった。


「薬局の件を報告します。利益は……ガンツ軍団の給料で吹き飛んでますがね」

 皮肉めかすナイルに、場が少し和む。

「助かってるわ、ナイル」

 私が笑みを返すと、彼は耳を赤くしつつ言葉を続けた。


「貧民街の薬局ですが、最近は転売ばかりで困ったものです」

「それなら一時閉店! もう充分に儲けたでしょうから」

 その一言に会議の空気がどよめく。

「代わりに住民自身に薬を売らせましょう。護衛は──ガンツ傘下のギャング団に」

 毒には毒を。いや、薬には薬を。これが私のやり方だ。


「面白ぇな、お嬢!」

 ガンツが豪快に笑う。その不器用な優しさに、胸の内で少し勝ち誇った。

 もともと薬局は二束三文で、貧民街の健康のために始めたもの。

 すでに常備薬は行き渡った。ならば次の一手。


「考えている飲み物があるの。健康に良いドリンクよ!」

「そんなもん、奴らが買うか?」

「ええ、自信があるわ。まだ、秘密よ」

 ──乳酸菌飲料とエナジードリンク。


 名付けて、“健康ドリンク販売レディ”計画、始動! 私も大好きだし、何より、どの世界もレディは凄いはず。


「話を続けます。繁華街の薬局は店舗の準備が整いました。優秀な販売員を揃えてください」

 ナイルの要望に私はにっこり。


「エマの出番ね!」

「お任せあれです! 明日にでも寮を回って、引っ越しとバイトの勧誘を!」

 元気いっぱいのエマなら大丈夫。彼女の人脈で人は集まる。私は教育を引き受けよう。

 知らない人と話すのは苦手。でも、薬のことなら──語らずにいられない。


「最後に、ドノバン。賠償金の件は?」

「ああ、リリカ様への結納金ね。もう闇金が動き出す頃だ」

「……違うけど。じゃあ監視よろしく!」

 他にも議題は残っていたが、料理の香りが会議室を満たし、皆そわそわし始める。

「仕方ないなぁ」


 私は恥ずかしさもあって、半ば強引に会議を締めくくった。

 問題は解決どころか、山積みのまま。裁判も、税務局も……やることは尽きない。

 ──深呼吸をひとつ。


 翌日。私はエマと共に、正式にソレリア寮に入寮することになった。

 ここにはベッドと家具が最低限あるだけ。エミリア寮のような最新設備も、食堂も、集会場もない。

 その代わり、自由がある。


 みんな自炊をし、庭では焚き火を囲んでスープを煮る寮生までいた。

 煙の匂いと笑い声──これがソレリア寮の日常だ。


「あれ? 見つけた!」

 私の視線が捕らえたのは、スミカちゃんたち。

 逃げようとしたが、俊足のエマに首根っこを掴まれる。

「どこ行くんですかぁ? 同じ寮生なんですから、仲良くしましょう!」


「リリカ様、本当に入寮されたんですね……家から通えるのに……」

「あ! そうだ、入寮前に家に招待する約束してたのに……ごめん。その代わりに割の良いバイトを紹介するわ!」


「遠慮しますっ!」

 必死に抵抗するスミカちゃん。だがエマの握力は容赦ない。

「やめて! 首が! これ仲良しじゃなくて監禁です!」

「まぁまぁ、抵抗は無駄ですよ~」


 スミカの友人ごと、エマの部屋へと連れ込んだ。

「じゃあ、説明するわ」

「変な話だったら訴えますからね!」

「ふふふ、貴女にぴったりの仕事よ」

 私は自然と笑みを浮かべた。


 ──新しい舞台の幕開けに、胸が高鳴っていた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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