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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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クルミとゴクセン

 できる女というオーラが全身から溢れている女性。

「そうしてくれ」タヌキが頷いたのを確認し、私はその女性と静かな休憩所へ向かった。

 休憩所は建物の最上階の一角にあり、王都の街並みが一望できる隠れ家的な場所だった。


「ここはあまり人が来ないのよ。私はクルミ。よろしくね」

 にっこりと微笑み差し出された手に、私は少しだけ戸惑いながらも応じた。

 だが、その笑顔の奥に潜む計算高さを、私は敏感に感じ取っていた。


 余計なことは話さないと、強く心に決める。

「そんなに身構えなくても大丈夫よ、ノクスフォードさん。私はあなたに興味があるだけ」

「はっきり言いますね。どんな興味ですか?」

「もちろん、バイトの目的よ。あ、ドノバン様のことでもいいわよ。教えてくれないかしら?」

 ドノバンのことなら、いくらでも教えてあげられる……だが、話さない。


「もちろん、バイトの目的はお金です。苦学生ですから」

「嘘が下手ね。信用できないのは仕方ないわ。はい、コーヒーとチョコレートよ。頭を使ったらちゃんと食べないと!」

 クルミはバッグから取り出したボトルとカップに素早くコーヒーを注ぐ。


「コーヒー嫌いかしら?」

「いえ、好きです。美味しいですね」

「ありがとう。コーヒーにはこだわりがあるの。少しずつ距離を詰めていくつもりよ」


 いや、もう十分詰めてきているだろう。

 コーヒーとチョコレートを口にした後、私はふうっと深く息を吐いた。どこか緊張が隠せていない。

「さて、帰りましょうか? リリカさんの疑問が正しいのか、楽しみだわ」


 からかっているのか。だが、その自信のほどは本物だ。負けられない。

「はい。ところで、クルミさんはどちらのご出身ですか?」

「シシルナ島よ」

「え?」

「嘘よ。マリスフィアよ。わかるかしら?」


 東のノクスフォード、西のマリスフィア――侯爵家の一族に違いない……。

 何故なら、普通、侯爵領の名前を直接名乗ることはない。

 たとえばマリスフィアなら、都市名のセーヴァスと言うのが一般的だ。

 私の情報データベースをアクセスしても、彼女の名前は見当たらなかった。


「侯爵家の方ですか?」

「気弱だったり、いきなり不躾な質問したり、面白い子ね」

 いや、それはお前もだろう。

 私が不愉快な顔をすると、彼女は楽しげに笑った。


「仲良くなれそうね。そういう隠さないところ、好きよ。貴族っぽくない」

 そう言いながら差し出された手を、私はしっかり握り返した。

「クルミ・マリスフィアよ。事情は今度話すわ。きっとあなたのことだから調べるでしょうけど」

「リリカ・ノクスフォードです。貧乏平民です。よろしくお願いします!それと、ご馳走様でよろしいですか?」


 先輩に対して、礼儀を欠かさない。

「ええ、でも次からはお金を取るわ?」

 どっちだよ、それ……冗談か。

「出世払いでお願いします」


「じゃあ、ドノバン様に請求するわ!」

「はぁ?」

 彼女はドノバンを狙っているのか。好きにさせればいいが、利用されるのは癪だ。

 握手しようとした瞬間、彼女の握力が想像以上に強く、反射的に魔術を発動しかけたが、力が急に抜けた。

「怖い、怖い。魔術得意なのね。楽しめそう」

 私の魔力を察知したらしい。簡単にはいかない。

 これが、私の親友クルミとの出会いだった。


タヌキ上司が、私たちの帰りを待っていた。

「どこに行ってたんだい?探したよ!良い知らせを早く伝えたくてね!」

「秘密です。どうしましたか?ラクーン特捜部長」

 クルミが鋭く尋ねる。


「いや、リリカ君のチェックはなかなか興味深かったよ。採用担当にも、彼女の合格を伝えておいた」

「いえ、そのチェックで引っかかった会社を教えてください!」

 彼女は食い下がった。

「ああ、ちょっと待ってな」


 ラクーンは、私が印をつけた積んだ書類の表紙をめくった。

「ゴクセン商会だ。担当を決めて現地調査に行こうかと思ってる」

「それなら私にやらせてください!」

 会社名を聞き、クルミの表情が一気に真剣になった。


「大した案件じゃないから、お前にちょうどいいかもな。だがクルミ一人って訳には……誰をつけようかな?」

「先輩の力を借りるのは申し訳ないです。そうだ、リリカさんはどうでしょう?一流の魔術師ですから、私の相棒にぴったりです」

「……リリカ君、次第だ。ここも人手が足りなくてね。どうだろうか?」


 クルミが私にウインクする。嫌な予感しかしない。どう断ろうか。

 ラクーンは資料をめくり、私のコメント部分を読み感心したように頷いた。

「確か、ゴクセン商会は黒船屋の親会社ですよね?」


 え? 何だって? ゴクセン、コクセン、黒船……いやいやいや、そんな間違いを。

 私はクルミから資料を奪い、表紙の会社名をじっと見た。

 これは帝国流の書き方、訛りだ。黒船商会だろう。全く、コイツら。


「ねえ!リリカさん、やる気ありますよ!部長!」

 彼女は満面の笑みで私の腕を掴んだ。わざとだった。


いや、私には、別にやることがある。だからここに侵入したのだが……


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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