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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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黒船屋


 楽しいパーティだった。けれど、多くの人と話したせいで、人酔いしてしまった。

 にぎやかで、笑顔を振りまいて、あれこれ気を使って──まるで、いつもの自分じゃないみたい。


 ……これが本当の、私?

 社交的で、軽やかで、少し芝居がかった笑みを浮かべて。

 でも、それってリリカの性格じゃない? この体の、元の持ち主の……。


「まさか、混ざりだしてる……?」

 ふとそんな感覚が胸をよぎった。ゲームの知識だけでは説明できない感情や、ふと浮かぶ記憶。

 それは、ゲームプレイ中には見たこともない場面だったりする。


「……まあ、いいか」

 どちらにせよ、体を借りているのは私。

 楽天的に受け止めるのは、きっと元からの私の性格なのだろう。


 パーティの間、ドノバンがずっと付きまとってくると思っていたけれど、意外と他の人たちと楽しそうに談笑していた。


 ちょっとほっとしたような──でも、どこか寂しさもあった。

 つい、声をかけてしまう。


「明後日、合格発表らしいから……学園に行くの、付き合いなさいよ!」

「もちろん、リリカ様のお供をさせていただきます!」


 満面の笑み。何気ない一言に、ドキッとさせられるなんて……。

 案内役なんて、よく考えたらエマに任せればよかったかもしれない。


 その夜、初めて──自分の屋敷、自分の部屋に泊まった。

 カンクローによって物置にされていた部屋は、セバスチャンとエマの手で元の状態に戻されていた。

 私の中に、奇妙な違和感がないのも、それが理由だろう。


「お前たちに売るのは屋敷だけだ! 中のものは俺のだ、こっちで売る!」

 カンクローが言い出したときは困ったけれど──

「ここでスミカちゃんと食事会するんだけど、一緒にどう?」


 ……態度が一転。やっぱりあの女、只者じゃない。

 もしかしたら、あの聖女様よりも腹黒い気がするから、おすすめはしないけどね。


 仕事の遅いカンクローに、むしろ感謝しつつ──

 私は、ようやく手に入れた自分の寝床で横になる。

「せっかく広いベッドなんですから、一緒に寝ましょうよ〜!」

 エマがずかずかやってきて、許可も取らず潜り込んできた。


「広いベッドなのに、狭くなるじゃない……」

 昼間のメイド仕事と片付けで疲れたのか、エマはすぐに寝息を立てはじめた。


 私の部屋には、静かな月光が差し込んでいる。

 そのとき──戸を、コンコンと叩く音がした。羽ばたきのように、軽やかに。


「あら、ティア様」

「いや、ナイルの家に行ったら、ここだって教えてくれてね。何かあるかい?」


「パーティの残りでよければ。……ところで、ティア様は帝国のことに詳しいですか?」何せ、伝説のドラゴンだ。多くの歴史を見てきたはずだ。


 キッチンから、残り物を並べて軽く夜食。ティア様は意外に美味しそうに食べる。

「それで、何が知りたい?」

「今の帝国についてです」

「知らん。明日にでも行って、調べてこよう。……ふむ、料理は、あやつの方が上手いな。腹一杯だ。じゃ、おやすみ」


 私のベッドに入り込もうとするティア様に、せめて身を清めてからとお願いする。

 ティア様は、体を淡い緑の光で包む。


 ──魔術で、汚れを祓ったのだ。

「すごい……この魔術、覚えたい!」

「これは生活魔術の基礎だ。今度教えてやろう」

 私は、エマとティア様に両脇を囲まれて眠った。

 少し重いけど、ほんのり温かい夜だった。


 翌朝。ティア様の姿は、もうなかった。行動の早いドラゴンらしい。 

 その日、ナイルたちと一緒に商店街を歩いた。店舗探しのためだ。


「ここなんてどう?」

 大通りの裏道だが、人通りはある。悪くはない、だけど──


「うーん、小さくてもいいから、大通りがいいわ」

 もちろん、大通りは家賃が高い。でも私は、高級ブランドを作るつもり。妥協はしない。……問題は、私にブランド戦略の見識が皆無なことだ。


 そんなとき、小さな空き店舗を見つけた。大通りの端っこにひっそりと。

「ここなんて、どうかしら?」

「ここは……有名な幽霊屋敷ですよ!」


 ナイルが青ざめて私を見る。

「どんな幽霊が出るのかしら? でも、ここなら安そうね。どう思う?」


 私の発言に、エマとナイルは完全に引き気味。顔を横に振る。

 でもセバスチャンは、まさかの頷き。

 あら、これで二対ニ。私は、民主主義者。多数決を重んじるわ。


「ドノバン、あなたはどう思う?」

 例の追跡者。毎朝遠くから私を監視する、妙に律儀な変わり者。


「ここですか、入って調べましょうか?」

 臆面もなく、私たちの前に飛び出すドノバン。さすがだわ。

「それが早いわね」


 扉には管理者の張り紙があった。

『お安くお貸しします! 黒船屋 ペリーまでお問い合わせください』


 よし、行ってみましょう。

 普段なら突入するところだけど、鍵がかかっていて人通りも多い。ここは冷静に。


「家宅不法侵入で捕まるのは、ちょっとね。ルールは、守れる時は守る主義だから」

「あまり評判のいい賃貸屋でありません。地上げや立ち退き、怪しい契約……」


 ナイルが不安げに言う。

「まあ、事前情報はそのくらいにして……正面突破しましょう」

 むしろ、やる気が出てきた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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