ナクサ商会連合
楽しみにしていたリリカの部屋にも、地下室にも、特にこれと言ったものが無く期待はずれだった。残念。
「変なもの、ある訳ないでしょ」
私の中から声が聞こえて、何故か、お腹がチクチクした。
私は、第二回「悪の軍団会議」を行うことにした。これは、王都邸宅奪還記念のホームパーティも兼ねている。
参加者は、もちろん、セバス、エマ、ガンツ、私の故郷シュベルトから帰ってきた司教ネイサンにトモオも加わった。
「ドノバン、何でここにいるの? もう帰ってもいいのよ!」
「いや、リリカ様。何も言わないので参加させて下さい!」
「まあ、借りがあるし今回だけね」
ドノバンはとても嬉しそうで、みんなとハイタッチしている。いや。別に得点もしてないし。
議題は、薬局運営とモリス教授釈放計画、それと冒険者ギルドのアミンの調査だ。
ナイルから、一般市民向け店舗についての質問があった。
「中身はもちろん、貧民街と同じよ。金額設定は、十倍よ!」
「それで売れますか? みんな貧民街に買いに来ませんか? 近頃、貧民街の治安が良いと噂になってます」
「あら、しまった。でも、大丈夫。パッケージを高級なものにしましょう。それと店舗も金をかけて、品の良い店員を雇う。私が教育するわ!」
珍しく、ナイルが尻込みしてるので、私は彼に発破をかけた。
「儲けを突っ込んでも構わないよ! 成功するわ、やりましょう!」
「わかりました」
「でも、ナイル商店襲った奴らを捕まえれなかったからなぁ」
私は、ドノバンを恨めしく見た。彼は何のことかと、考えこんでいたが、はたと気がついたようだ。
「リリカ様を襲った奴らだけど、二度と襲えないように全員処分しちゃったよ! 一度は見逃してやったのに言うこと聞かないから」
「本当に? 何やってるのよ! ドノバン。貴方、罪を負わさせるわよ!」
どんな相手かもわからない。私は最悪の事態を想像した。
「あ、嬉しいな。リリカ様が俺を心配してくれるなんて。大丈夫だよ。全員、今頃、海の魔物の餌だよ。跡形もないから」
「はぁ……」
そうだ。彼はこんな奴でも、彼を信奉するリアル悪の軍団がサポートについている。物好きな奴らだが、ガンツたちとはレベルが違う。
「身元なんだけど、口を割らなくてね。あれは本物だよ。奴らには帝国訛りがあった」
「帝国訛り……」
外伝的なイベントでのみ出てくる、王国の東にある大国だ。私は寒気がした。
「わかった。ありがとう、ドノバン」
「どういたしまして」
微笑みながら、答える彼。内に秘めた峻烈さを微塵も表に出さない彼に、真の権力者を感じた。
「それで、モリス教授はどうかしら?」
なかなか忙しくて、会いに行けていないが、代わりに、ガンツが対応してくれている。
「それなら、安心してくれ、お嬢。部下を監獄に何人か入り込ませてるし、薬を嗅がせて待遇も改善されてるよ!」
「じゃあ、命の危険は無いのね?」
もう、父みたいなことは嫌だ。私は耐えられない。詳細な説明を求めた。
「モリス教授の独房は、研究室みたいになってるよ。看守にも、受刑者にも人を送り込んでるからサポートはバッチリだ!」
「はぁ……なんで受刑者……」
「その方が安心だろ。変なやつは近寄らせないぜ!」
ふぅ、私は深く息を吐いた。どいつもこいつもやりすぎる。だが、何か違和感を感じた。
「他に議題は?」
「ああ、報告をしておきますね」ネイサンが口を開いた。
私たちが、シュベルトから帰った翌日は、セリオ侯爵が西方聖教会にやってきたらしい。とても元気な様子で、クレームをつけにきたらしい。
「だからつい……やってしまいました、記憶改変」トモオが下を向いた。
トモオの魔術は危険すぎる。それは、発覚した場合、彼自身がどのように扱われるかは明らかだ。だから、私は禁止していた。
「もう使っては駄目よ。それでどうしたの?」
セリオ侯爵は、庇護すると言って満足して帰っていったらしい。周りは唖然としていたみたいだが。
「それじゃあ、目が覚めるまでは安心ね。他には?」
私は、他に発言者がいないか見回したが、美味しい料理の匂いが立ち込めて、出席者たちは会議どころではなく、そわそわしている。そういう私も腹の虫が鳴いてしまった。
「じゃあ、おしまい。パーティに移りましょう!」
屋敷の広い庭に、料理が並んでいる。さすが、セバス。肉料理、魚料理、パスタにケーキ。山盛りだ。
ナイル商会や孤児院からも、参加者がやってきて、準備を手伝っている。
「それでは、リリカ様、乾杯の挨拶を!」司会のセバスが進行する。
「みんな、飲み物は手元にありますか? 乾杯の前に一言。えっとね、これは会社の設立パーティです。会社の名前は、ナクサ商会連合よ! 覚えてね」
「かんぱーい」
さて、これからが始まりだ。気を引き締めていこう。
「あれ、何でいるの?」
追い出したはずのカンクローと部外者のドノバンが、皿一杯に料理をとって食べていた。
「冗談だよ、好きなだけ食べていって!」
──ふと、私は視線を上げた。
庭の隅。影に紛れ、ひとつ余ったグラスが、ぽつりと揺れていた。
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