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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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伊勢屋再襲撃

お拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、フォロー、ご評価をいただけると幸いです。励みになります。

 次の日、私は伊勢屋邸を襲撃した。

「おはよう、かんちゃん」

「へえっ⁉︎」


 寝室に響いたカンクローの間の抜けた声に、私は静かに微笑む。

 彼の布団の上で、ピンクの子豚が目をぱちくりさせていた。


 この屋敷には、まだガンツ強盗団の何人かが残っていた。本来は一週間の仮住まいの予定だったのだが、カンクローが正式な退去命令を出さなかったせいで、そのまま居座ってしまった。


 もっとも、私の里帰りやナイル商店の手伝いで半分以上の団員はすでに引き取っているし、子供たちは例の孤児院へ送っている。残った数人は、もはや伊勢屋の使用人たちと打ち解けてしまっていた。


「……どうやって入ってきた?」

 寝ぼけ眼をこすりながら、カンクローが訝しげに問う。どうやら「リリカたちは絶対に通すな」と命じていたらしいが――。


「最初に会ったときのこと、思い出してみてよ。それが答えよ」

「……話って何だ」

「そう、それ。話があるの。わかるでしょ?」

 起き上がろうとする彼の胸を、私はそっと押し戻し、布団に座らせる。


「た、助けてくれ……!」

 子豚ちゃんの口を、私は片手でふさぐ。

「静かに。それ、私の台詞なんだから」

 カーテンをしゃっと開け、破れた白い寝衣を見せつける。


 エマに「豊満な身体ですねー」とからかわれたばかりの寝衣は、確かに露出が多く、いかにも事件の香りがした。

「お、おい……何か羽織れよ! どうしたんだ、それ……?」


 シーツに顔を伏せながらも心配してくれるカンクロー。

 やっぱり、この人が父の殺害に直接関与していたとは思えない。

 利用されたか、何も知らないまま巻き込まれたか……その程度だろう。


「これから質問と交渉をするわ。もし、決裂したら――」

「し、したら?」

「私は……」

「リリカ様は……?」

「“カンクローに襲われた”って泣き叫びながら、王都中を逃げるわ。いい事件になるでしょ?」


 本当は、穏便に話すつもりだった。けれど、彼はとぼけるに決まってる。

 私が欲しいのは、繕った表情じゃない――真実よ。

「ま、待て。俺だって不法侵入されたって主張する」

「でも、リリカは“呼び出されて、寝室に通されたって言ってるの。さて、世間はどちらを信じるかしら?」


 沈黙。

 カンクローは顔を伏せ、しばらく思案してから小さく呟いた。

「……わかった。応接室で話をしよう」

「いいえ。ここでしましょう!」

「……上着を着ろ。早く!」


 まずはムート・ド・ロンブルのスカーフと武器の行方について。

 カンクローは「冒険者ギルドに預けた」と答えた。

「……まあ、信じるわ」


 こちらでもギルドに人を張っていたが、得られた情報は限られていた。確実なのは、カンクローが大量の武器をギルドに持ち込んだこと――そして、その後の行方は不明。


「信じてくれてありがとう。疑いたくなるのも無理はない。俺も調べたが……ギルドの連中、売った俺にすら口を割らないんだ」

 善人で小心者の彼は必死で聞き込んだのだろう。


「売った相手は?」

「……副ギルド長のアミンだ」

 ――やはり、ね。


 この人はもう、情報を持っていない。ならば、次の交渉に移るだけ。

「ふうん。じゃあ、この家を返してもらいたいの。哀れな娘にね。買い取ってもいいわよ?」

 分割払い――いえ、出世払いになるかもしれないけど。


「……わかった、と言いたいところだが、これは処分された競売物件でね……当事者のリリカ様に直接売るのは難しい」

 父の失脚と爵位剥奪の功績で、この屋敷を二束三文で手に入れたくせに。


 だけど、カンクローの立場も理解できる。嫌だけど、あの手を使うしかない。

「じゃあ、ドノバンに売ってみたら? 彼、欲しがってたわよ」

「嘘つけ」


「本当よ。……交渉が決裂したらどうなるか、さっき話したでしょ?」

 カンクローにとって、王都でのスキャンダルは致命的だ。

 伊勢屋の後継がリリカを寝室に呼びつけた――そんな噂が立てば、すべてが終わる。


「エマ、そろそろドノバンが近くにいる頃よ。連れてきて」

「すぐに呼んできましょう!」

 扉の外から、セバスチャンの声。……やっぱり尾行していたのね。

 私は寝衣の裾を破り、扉を閉めた。


「この状態でドノが入ってきたら、どう思うかしら? 私は、泣くけど」

 カンクローが慌てて身をよじる。私は彼の足元を土魔法で固めた。逃げられないように。


「……そんな嘘っぱち、信じるとでも?」

「バカね。ドノは、嘘とわかっていても、私の言葉を選ぶのよ」

 廊下から、ばたばたと駆け寄る足音。


「リリカ様! お呼びですか! ドノバン参上しましたよ!」

 猟犬のような足取りで近づく、王家の一族。品はないけれど、忠義だけは確かだ。


「ここですよ」エマが応じる。

「どうする、カンクロー? 扉を開ける? それとも私が泣き叫ぶ?」

「……リリカ様、わざとやってますよね。……この屋敷を売る話、ドノバン様と致します」

 私はコートを羽織り、土魔法を解いて扉を開けた。


「カンクロー、お前……リリカ様と二人で何をしてたんだ……?」

 ドノバンの目尻が吊り上がる。

「ただの商談よ。ドノ、この屋敷がバルト家のものだったのは知ってるわよね? だからあなたに買ってもらって、私に貸してほしいの」


「なあんだ、そんなことか。いいよ。でもお金ないけど」

「それは私が払う。必ず払う。……まさか、カンクロー。こんなに安く競売に出た屋敷を、ドノに高く売って儲けようなんて思ってないわよね?」


 彼は考え込んだが、頷いた。まあ、そうなるわよね。王家の一族相手にアコギな商売は出来ない。

 私は、カンクローが父親に相談する前に用意しておいた契約書を取り出し、二人に署名させた。


「じゃあ、悪いけど、かんちゃん。すぐに出て行って」

 私が言うより早く、セバスチャンが部下に指示を飛ばしていた。


 庭にはすでに、カンクローたちの荷物が運び出されていく。しかも、その作業をしているのは、セバスの指示を受けたカンクローの執事たちだった。


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