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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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逃げ去る恋

お読み頂きありがとうございます。是非とも、ご評価フォローをいただけると幸いです

特待生試験の翌日。あの面接は、私にはなかった。表向きは「みんな知っているから」とだけ説明されたが、結果発表も一切なかった。


胸の奥に、違和感がくすぶる。だけど、問いただす元気すらなかった。ただ、今日は疲れただけ──それだけだった。


帰ろうと足を動かすと、背後からパーシーの捨て台詞が耳を刺した。


「学校じゃ、こうはいかないからな!覚えてろよ!」


……まるで悪役の決め台詞。こらえきれずに笑いが込み上げてくる。


「あら、特待生試験、合格するかしらね?」


皮肉を込めた軽口に、パーシーの表情がみるみる崩れ、泣きそうになってその場にへたり込んだ。


「……ごめん、ごめん。たぶん、大丈夫よ。あなたは」


私は彼の細い手を取り、起こした。小さいけれど、骨ばっていて、土の匂いがした。


──農家の子だろうか。家族や村の希望を背負い、この街まで来たのだろう。


私が落ちるなら、実力じゃない。妨害、意図的なものに違いない。学園は「王国から独立した教育機関」と自称しているが、私は信じない。


たぶん、私を貶めるための策略だ。しかし、大観衆の前で実力を示した以上、不正は噂されるだろう。


学園がどう動くか、見ものだ。


「最初はあいつらに会いたかったけど……もうどうでもいいわ」


心の奥で何かが静かに軋み、崩れ、変わり始めていた。



ナイル商店──私たちの拠点は、私の里帰り中に二度も襲撃されていたらしい。正確には襲撃未遂。


貧民街の治安は普段安定している。むしろ私たちが守っているのだ。


だから、犯人は間違いなくよそ者だ。


狙いは明確だった。私たちが作る薬だ。


──欲しいわよね。残念ながら渡さないけど。


「怪我はなかったの?」


「知らない男の人が助けてくれました」


「どんな人?」


「金髪の美少年で、優しい顔立ち。剣の腕もすごかった……」


ガンツの部下の説明は曖昧だった。深夜の襲撃でそこまでわかるか?


「彼の周り、光って見えたんです……」


「……ああ、もういい。わかった」


説明は不要だった。誰かすぐにわかった。


──最悪。絶対に関わりたくないタイプだ。


「でも、お礼くらいはしないと……」


「私のストーカーが強盗に鉢合わせしただけ。そんな奴に感謝状なんて出すか?」


思い出すだけで気が滅入る男。


「こんばんは、リリカ様はご在宅でしょうか?」


──うわ、本当に来た。


「おお、ドノバン殿」


セバスチャンが丁寧に応対する。


「あー、ドノ!久しぶりじゃん!何してたの?」


エマが飛び出し、嬉しそうに抱きつく。


──まさかエマの好きな人って、そいつなの?


「シシルナ島に里帰りしてたんだ。ようやく戻ったよ。いろいろあった。ところで、リリカ様は?」


「待ってて、呼んでくるね! きっと喜ぶわ。会いたがってたし!」


ニコニコのドノバン。……おい、エマ。私は一言もそんなこと言ってないぞ!


光速で部屋に駆け込み、鍵をかける。


ドノバンはシシルナ島の島主の息子──島とはいえ一国だ。島主の妻は現国王の姉。つまり彼は王の甥。面倒の権化だ。


「あれ?気配が消えた?リリカ様?ドノが会いに来たよ!」


「ごめん、疲れて寝てる」


「そうですか、残念です」


本当に残念なのはこちら。早く帰ってほしい。お腹が空いている。


だがあの男は人の気持ちに鈍い。深夜までセバスやナイルたちと談笑していた。


──ゲームの中のドノバンも軽薄でキザ。私が最も嫌っていたキャラだ。


だから聖女として、私はリリカに彼を押し付けていた。


「やっと帰ったか……」


空腹に耐えかね、深夜のキッチンへ。


「体調、大丈夫ですか?」


眠そうな目のエマがおにぎりを差し出す。


「……美味しい」


ただの塩にぎりなのに、背徳感と幸福感が入り混じり、涙が出そうになる。


「そういえば、ドノが言ってました。引っ越しませんかって。ここ、危険なんじゃないかって」


最初は自作自演かと疑ったが、どうやら本気らしい。


「学園に合格すれば寮に入るつもりだけど……ここも手狭ね。やっぱり、家を取り戻そうか」


「カンクロー、家に戻ってるらしいですよ」


「ふぅん。じゃあ、明日訪ねてみましょうか」


駄目だ。おにぎりを食べる手が止まらない。


「リリカ様、私の分はまだですか?」


「ところで、エマはドノが好きなの?」


誤魔化すように尋ねる。


「ご安心ください。リリカ様のダーリンは取りません。あんなチャラチャラした奴はお断りです」


酷い言い方だが、わかる。


「襲撃させて落とし前をつけさせようとしたのに……出しゃばりやがって」


でも、ナイルや皆に怪我がなかったのは幸いだ。


お腹も満たされ、私はようやく立ち上がる。


「リリカ様、食べてすぐ寝ると太りますよ」


エマの言葉が呪いのように耳に残った。


お読み頂きありがとうございます。是非とも、ご評価フォローをいただけると幸いです。

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