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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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遅れてきた主役

「お疲れ様でした」

エマが私に水を渡しながら、タオルで噴き出す汗をやさしく拭ってくれる。

ここまで運動で本気になったことなんてあっただろうか。……いや、ない。


「くそっ……」

でも、悔しいと思った。だって――私を本気で応援してくれた人が、いたからだ。

次は、武術測定の時間だ。


「今のうちに、着替えに行きましょう」

エマに促されて、私は更衣室へ向かう。汗臭い体操服を脱ぎ、いつもの黒い魔術師のローブに袖を通す。


「やっぱり、これじゃないと。落ち着くわね」

体じゅうが痛い。休憩室でしばらく腰を下ろし、ゆっくりと息を整えてから、運動場へと戻る。

 武術測定の会場では、対戦形式の試験が始まっていた。教師たちの目は真剣で、まるで金の卵を探す鷹のようだ。でも、実は――私たちも探している。将来、戦力になりそうな“味方”を。


「特待生に選ばれなかった子でも、将来性があればスカウトよ!」

「もちろんだ。だけどよ、俺たちみたいなとこに来る奴がいるかどうか……」


あの傍若無人なガンツが、まさかの謙虚モードである。

「何言ってるの! もうあなたたちは、立派な“商社”の一員なんだから」

「そうだな……俺たちゃ、もう“堅気”になったんだよな……」


 ふざけたような会話をしながら、私たちは誰にも知られていない、受験生たちの戦いをじっと見守っていた。


 そこへ、スミカちゃんが駆け寄ってくる。

「あれ? スミカちゃん、どうしたの?」

「何言ってるんですか! 魔力測定、もうすぐ終わっちゃいますよ! 急いでください!」

「あれ? そうだっけ?」


……しまった。私はてっきり、武術の次だと思い込んでいた。いや、そもそも片方だけの参加が基本だって、知ってたような……。


 隣でエマもきょとんとしている。うん、どうやら私たちふたりして、まるっと勘違いしてたらしい。

「あれ、会場ってどこだっけ?」

「ほんとに在校生ですか、あなたたち……。でも、リリカ様、私――あなたのこと、ちょっと誤解してました」


 ぴしりとした言葉に、一瞬、耳が反応する。

「恥ずかしげもなく、長距離走を最後まで走り切って」

……ん? トゲがある。これはブラックスミカモードだ。


「当たり前でしょ? 試験に合格しなきゃ意味ないじゃない」

「体力測定なんて、ただの参考項目です。試験とは一切、関係ありませんよ。みんな途中で棄権してましたけど」えっ、それ、早く言ってよ。


「さすが、リリカ様。何事にも手を抜かないんですね」

エマがなぜか自慢げに話す。


 違うから! 全然違うから! 人生楽々モードで行く予定だったのに、なぜか、人生ハードモード。

 そんな話をしているうちに、魔術の授業で使う円形ドームが目の前に現れる。


「これこれ! 忘れてたぁ!」

……いや、忘れないだろ。こんな巨大な建物。自分でツッコミを入れながら、それでも記憶がぼんやりしている。ダンジョンなら何層でも潜れるし、地図さえ頭に入っているのだが。


 ドームの中は冷房が効いていて、まさに天国だった。二階以上ある観客席も、ほぼ埋まっている。

「もしかして、スミカちゃん。私のこと、探して連れてきてくれたの? ありがとう」


 私は、かつての“おとなしい天”――いまや毒舌ガールと化したスミカに、感謝を伝えた。

「まあ、面白いものを見せてくださいね」

「任せといて」

私は胸を張って答えた。


――やっと、私のターンだ。

 私は、試験場に足を踏み入れた。数箇所で行われていた測定は、既に、終了しており、真ん中にあるメインステージだけ残されていた。


「遅かったわね。あまり魔術は得意じゃなかったと記憶してますが。自信があるのかしら?」

「自信ですか? まあありますが……」


 サリバン先生は、今日は進行役をやっているようだ。魔術の教師陣が、審査員席に並んでいる。

 そこで、注意人物が座っているのが見えた。片眼鏡の痩せた青年教師、彼がこの学園の魔術師の一番の実力者セディオだ。


「蟷螂のような奴だ」

 庶民出身でありながら、どちらかと言えば、聖女サイドの人物。

 魔術師なのに、聖女信仰者。困った奴である。奴は、私を虫けらを見る目で睨んでくる。


 最後まで残っている受験生は、目立ちたがり屋で、実力者が多いようだ。

「目の前のターゲットを壊せば点数になるのね!」

 射的の的が、地上を離れて数十も空中を自由に浮遊していく。


 決められた時間に、どれくらい落とせるかを競うらしい。

 それまでは、各所では固定されてい的に魔術を打ち込むだけだったから、難易度が高い。その分、評価ももちろん高くなる。だから、実力者が残っているのだ。


「あれ、始めないの?」

 受験生は、好き勝手に浮遊しているターゲットに規則性を見つけようと必死だ。


「じゃあ私行きます」

 特別観客席で、私の元同級生の姿が並んで笑って見ている。そしてその中心にいたのは、なんとスミカちゃんだ。


「大人っしいふりして、最初から私を見せ物にするつもりだったのね」

私は肩を回してやる気を上げた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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