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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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黄金の馬車と黒き峠


 数日で、霊柩馬車が完成した。


 超・超特急の仕事。セバスチャンの緻密すぎるスケジューリングと、職人たちの底力が、まるで奇跡のような速度を可能にした。感謝というより、もはや畏怖に近い驚嘆を覚える。


 その間、私は夏休みの終わりに迫った《特待生入学試験》の最終調整に集中していた。


 エマ、トモオ、セバスチャンと共に、一泊二日の合宿へ。目的地は王都近郊の《魔物の森》。訓練用の小道や休息所が整備された、知る人ぞ知る魔術の実戦訓練スポットだ。


「こうやって捌くんだ!」

 訓練後のBBQタイム。森で仕留めた小型魔物を、セバスチャンとトモオが手際よく捌いている。今回もテーマは地産地消。現地調達・現地調理が基本だ。


「はい!」

 無理やりセバスチャンに弟子入りさせられたトモオは、子供用の執事服を着せられていた。見るからに不満そうな顔だが、返事だけは元気いっぱいで、妙におかしい。


「やるって決めたんなら、本気でやりなさいよ!」

それを言うのがエマなのだから、なおさら笑えてくる。……エマさん、あなた、さっきまで勉強から逃げてたでしょう。


「ふん、今やど平民のリリカ様のメイドごときに……」

 ごつん。セバスのゲンコツが落ち、トモオが涙目になる。

 私は多彩な魔術の制御力を見せつけたというのに、彼はなぜか、セバスチャンのそばにいた。

完璧執事と問題児の少年。孤児同士の彼らは同じ部屋で寝起きを共にし、厳しい背中にトモオは自分の理想を見出したのだろう。いや、父性か。



「さて、出発しましょう」

 黄金色の光を静かに反射する霊柩馬車に、父──バルトの棺を載せる。もちろん、一緒に亡くなった御者や従者たちの棺もだ。


「一緒に載せるのは……?」

セバスチャンは一度、静かに問いかけた。

「ええ。父を守って亡くなったのです。当然の処遇です。あの人も、きっと寂しくないでしょう」


「……ありがとうございます」

 彼らはセバスチャンの同僚であり、友だった。だからこそ、共に送られることを、隠れて喜び、静かに涙していた。

「んー、しかし思ったよりも立派だなぁ」


……ちょっとまずいかも。派手すぎない? 下手をすれば、国王の馬車よりも格式高く見える気がする。


「……うん。良い出来だね。スサノオも、きっと気に入るわ」

 いつの間にか私の肩に留まっていたティア様が、馬車を見上げてぽつりと呟く。

「……じゃあ、いっか」


 ガンツたちが交通整理をして先導し、司祭から司教に昇格したネイサンが、助祭たちを引き連れて参加してくれる。

 私は黒いドレスに身を包み──新しく仕立て直したそれは、動きやすさと魔法衣の機能を兼ね備えていた。セバスが御者席に、私はその隣に座る。


「さて、行きましょう!」

 すでに教会の周囲には、出発を見届けようと、多くの民衆が集まっていた。


「宰相様、ありがとう!」

「静かにおやすみください!」


 バルトの霊柩馬車に、民衆が次々と声をかけてくれる。

 教会の前に捧げられていた花束は、すでに枯れていたが、民衆は馬車の黒金に光る装飾を、色とりどりの花で美しく飾ってくれていた。


 その中に、パール元裁判官と元気そうなミルの姿を見つけた。小さく手を振ると──

「王都に戻って、仕事に復帰したよ!」

「病気が治りました。ありがとう!」


 二人は笑って答えてくれた。……連絡してくれてもよかったのに。気を遣ってくれていたのだろう。

「行きましょう!」


 私は小さく合図する。

 こん、こん。

 スサノオの木の残りで作った木鐘を鳴らすと、澄んだ音が王都の空を突き抜けるように響き渡った。

それに合わせて、セバスが手綱を取り、バルトの馬車が静かに動き出す。


 民衆が道の両脇に並び、誰もが頭を垂れて見送ってくれる。貧民街の人々だけでなく、一般市民、そして時折、貴族の姿もあった。


 王都の門に着くと、門番や職人たちが整列し、敬礼してくれた。

 そして──父が命を落とした峠に差し掛かった、そのとき。


 遠くから、蹄の音が近づいてくる。馬のいななきと、騎馬の気配が、重く地を震わせる。

「これは、バルト様の霊柩馬車だ。何事だ?」

 ガンツが、先頭の馬に乗った男に声をかけた。


「無礼者! 聖蛇騎士団だ! 代表者に話がある。道を空けろ。拒めば、公務執行妨害と見なす!」

 聖蛇騎士団の騎士たちが、道を塞ぐように現れた。しかも坂道の下──王都側にも兵を配置し、私たちを囲むように包囲している。


 司教のネイサンやガンツ、助祭たちも動揺し、周囲がざわめく。行列の人々が不安げに顔を見合わせていた。


……やられた。奴らがこの峠で仕掛けてくる可能性は考えていた。それでも、ここまで露骨に──これほど早く、姿を現すとは。


 私が歯噛みしていると、隣のセバスが落ち着いた声で告げる。

「ご安心を。殺意は感じませんから」

その声は静かだったが、その目は、敵意と憎悪に満ちていた。まるで、研ぎ澄まされた氷の刃。


──逆に、私の心は静まった。

「セバス。本当に奴らが父を殺したのなら、今すぐ復讐をしましょう。けれど、まだ確証はない」

「……はい。その通りです、リリカ様」


たとえ真実だったとしても、その背後にいる“命じた者たち”を暴き、断罪できなければ意味がない。

ここで手を出せば──それこそ、奴らの思うつぼだ。


「みんな、道を開けて。私が代表者よ! 何の用かしら、ジュリアン!」

私は馬車に立ち、大きな声で叫んだ。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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