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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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スサノオの木とドラゴンの咆哮


「……まさか。バルト様のご息女か。そりゃあ、失礼を……この度は、ご愁傷様でした。――実はな、あんたの父上には昔、訳の分からん貴族に難癖つけられた時、助けてもらってな……で、今日は何の用だ?」


「父を運ぶための馬車を、急ぎで作っていただきたくて。これはイメージ図です」

私とセバスで簡単にまとめた、馬車の絵を差し出す。

工房長は目を細めてそれを見つめた。


「……いい馬車だ。だがな、問題が三つある。ひとつは、この彫刻。細工に時間がかかる。ふたつ目は、描かれている特別な木材――大スギ。あれは魔物の森の大森林にしかない。手に入れるのに、時間も手間もかかる。三つ目は、金だ。今の仕事を後回しにする必要がある」


「父の馬車に彫られていた彫刻、流用できますか?」

「……見てみよう」

「木材は、私が手配します」


「は? どうやって。大森林にあるんだぞ? 国家が動かねばどうにもならん代物だ」

工房長が鼻で笑う。だが、私は静かに返す。


「それは秘密です。ただし、その大スギを“余分に”お渡しできれば、報酬の問題は解決しませんか?」

工房長の目が、鋭く光った。


「……本気で言ってるのか? それが本当なら文句はない。――早く作るんだろ? で、いつ手に入る?」

「明日中に持ってきます。父の馬車も、そのとき一緒に」

工房長は目を細め、私を見据えた。……もちろん、信じてはいない。


 けれど、私には“秘策”がある。

 王都を離れ、近郊の丘へ向かう。そこにはガンツの部下、セバス、そして――

 私の肩に、小さく鎮座する存在。


「ティア様。お願い致します」

私たちは、声を揃えて頭を垂れた。

「……まさか、木を運ばされることになるとは思ってなかったよ」


 ティアは呆れたように笑うと、ふわりと宙に浮かび――その姿を“竜”へと変じた。

 荘厳な光を放つ鱗、翼のひと振りで、空が割れるようだった。

 私たちを乗せ、魔物の森へと舞い上がる。空の旅路は、体感で五分にも満たなかった。


「せっかくだから、“スサノオの木”でも切ってく?」

「それって……御神木ではありません⁉︎」

「魔力がぎゅっと詰まってて、最高の素材だと思うけどねぇ。……ま、大森林の魔女に睨まれると面倒か。やめとこっか」


「普通の大スギで十分でございますっ!」

私は即答した。……神々の気まぐれに巻き込まれてはかなわない。

ここは、慎重に。危機管理能力の見せどころだ。



「そこらへんに降ろすよ!」

 ティア様は、大森林の中にある小さな湖のそばに降り立った。そして、大きな咆哮を数度あげると、何処かに飛び立とうとしている。

「ティア様、どちらに?」

 私は焦って、ドラゴンに聞いた。


「ああ、ちょっとダーリンに会ってくるよ。夕方には戻るから」

「でも、魔物が……」

「さっき、手を出したら殺すって言っといたから大丈夫。あの、光って見える木が、スサノオの木だ。あの周りの木を切ればいいよ」


 それだけ言うと、ティア様は出かけて行った。

 確かに、魔物の気配は殆ど無かった。ドラゴンの咆哮に気絶した魔物が、地上に転がっていたが。

「じゃあ、切り出しましょう」


 大森林の中は、夏だと言うのに涼しい風が吹き、太陽の光を遮り、快適だった。

 私たちは、どちらかと言えば、薄暗い森の中を光の方に向かって歩いた。

 何故かついてきたエマが、楽しそうに飛び跳ねて進んでいる。


「遊びじゃ無いのよ!」

「宿題は終わらせてきましたよー、リリカ様」

 当たり前だ。昨日の夜、私が教えてやったんだろう。さぼりそうになるのを椅子に縛りつけて。

「まあ、あれね!」


 光の木が見えてきた。木々の隙間から眩しい光を感じる。

 近くで観ると、その雄大で威厳を感じさせる悠久 の巨樹が幾本も天に届くように生えている。


「凄い!」他に讃える言葉が無い。

私たちは、ぼっと眺めていたがはっと我に帰り、作業を始めた。

「じゃあ、周りの大スギを切り出しましょう」

「わかりました。じゃあ、作業に取りかかろう!」


 ガンツ隊が、作業を開始した。周囲を警戒にあたっていたセバスチャンが、戻ってきて告げた。

「近くに魔物が全くいませんね」

やはり、ティア様のご威光は凄い。逆らうまい。

「一本でも十分なくらいね、もう一本だけ販売用に切らないと」

「そうですね」


 だが、その一本の木さえ、倒して運ぶのは大変だ。三人の大人が両手を伸ばして、やっと木の太さになる。


 まず一本、余分な枝を落として、適当な長さに切ったところで、やっと一休みだ。

まあ、私はその作業をほんのちょっとだけ手伝ったが。


「座る権利がある」

 私たちは、切った大スギの上に腰掛けて、セバス特製の弁当をとった。いつの間に作るんだ。この仕事人は。


「さて、もう一本、どれにしようか?」

「じゃあ、俺の木にしなよ! せっかくここまできたんだ。父親の馬車にしなよ」

指さされたのは、光るスサノオの木だった。


「俺の木?」


それは、少年の声だったような気がする。その声の方を振り返っても誰もおらず、遠くに大魔女の住まいとされる朽ち果てた天に届きそうな細い塔が見えた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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