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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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第一回悪の軍団会議


 私は、「悪の軍団」会議を開催した。……名前こそ物騒だが、実態は違うのだが。


 メンバーの一人、モリス教授は牢屋の中。早く救い出さなければならない。


 それと、オブザーバー参加のメンバーが一人いるが――あの軽薄で軟弱な男のことは、今は触れないでおこう。


 司会進行は、もちろん私だ。

「それで、カンクローは家にいないのですか?」

「はい。カンザブローに呼ばれて、そちらの家から戻ってきていません」

「……ふうん。もし帰ってきたら、すぐに連絡を」

 私が押しかけるのを分かって、逃げているのだろう。相変わらず察しがいいというか、ずるいというか。


「もちろんです」

 ガンツが深く頷いた。彼の部下を数人、屋敷に常駐させている。

 冤罪、それも恩あるバルトの殺害事件だ。悔しさを噛みしめているのは、私だけじゃない。


「では、冒険者ギルドその他への情報収集は?」

「はい。私たちが渡したスカーフや武器が、どこへ流れているか調査中です」

「パール元裁判官へは、薬は届けましたか?」

「はい。完成してすぐに届けさせました」


 さすがセバス。いつもながら早くて正確で、抜かりがない。

 その背中には、忸怩たる思いが静かに滲んでいた。よほど、バルトを慕っていたのだ。


「ナイル、薬局は開きましたか?」

「はい。ただ……こんな貧民街の表通りで、しかも格安で。本当にいいのですか?」

「もちろん。これは貧民救済だけが目的じゃないの」私は微笑んで答える。

「それに、直接売る以外に販売ルートがないでしょう?」


「そうですが……転売されてしまいます」

「構わないわ。ギャング団や顔役への対策は考えてあるから」


 むしろ、金のある市民に高く売られるのなら、それでいい。うちの薬で誰かが利益を得て、その金で生活できるのなら、それも一つの支援の形。


 それに、評判になれば――次の一手も打てる。

「その対策として、エマを店員に使いたいのですが」

 セバスの言葉に、「えーっ」とエマが不服そうに声を上げた。

「エマ。店舗に立ったら、特別手当をあげるわ」

「ははは、喜んで店舗に立ちます!」


 まったく、現金な子。でも、こういう時はそのくらいがちょうどいい。現実を知って、動ける子は強い。


「じゃあ、お願いね。ただしナイル。貴重な薬と薬草、それに製法は――別管理で、厳重に隠しておいて」

「承知しております」

「――これで議題は、全部かしら」

 私が会議を終えようとしたその時、セバスが静かに席を立った。


「リリカ様。……バルト様を、帰郷させてあげたいのですが」

「……そうね」

 父ひとり、子ひとりのノクスフォード家。


 母は早くに亡くなり、兄弟姉妹もいない。あの故郷には、もう誰もいない。けれど、あの家には――リリカとバルト、ふたりだけの思い出が残っているのだろう。


 胸が、ずきんと痛んだ。

 リリカの魂が、私の胸の奥から訴えてくる。

――帰してあげて。あの家へ。あの景色へ。


バルトの遺体は、セバスが美しく整え、魔法でそのままの姿を保ったまま、教会に安置されている。

「わかったわ。私も、帰ります」


 私の決断に、セバスは意外だったらしく、目を見開いた。やがて、静かに喜びの色を宿す。

 けれど、すぐに表情が曇った。


「どうしたの、セバス?」

「……バルト様を乗せる馬車が、ございません」

 彼が手をこまねくなど、珍しい。

 霊柩馬車は限られた貴族のためのもので、爵位を剥奪された家に貸してくれる者などいないのだろう。


 まさか、荷車に乗せて帰らせるなんて――許せるはずがない。

「なら――なんとかして、作ればいいのよ!」

 私は立ち上がる。バルトを、父を。誰よりも誇り高く、里帰りさせてあげる。


 それが、リリカの意志であり、今の私の願いだ。

 胸の奥で、リリカがふっと微笑んだ気がした。


父の乗っていた馬車は、改めて見ると無惨な姿だった。焦げ跡と割れた窓とひびの入った扉。車輪も歪んでいる。


「……これを改修しようかとも思ったけど、新しく作った方が早いかな」

ぽつりと呟いた私に、セバスがうなずく。


「かといって、昔 馬車を買った商店は――」

「冷たくあしらわれましたね。『元貴族なんて相手にしない』と」


 忌避の目。それが今の私たちの立場だと痛感する。

「それなら、直接、職人と交渉しましょう」

そう話していたとき、検問所の男が気を利かせて声をかけてくれた。


「腕のいい馬車職人、知ってますよ」

紹介された工房を訪ねると、顔に深い皺を刻んだ気難しそうな工房長が出てきた。


「……うちはな、決まった商店としか取引しない。どこの馬の骨とも知れん奴や、高慢ちきな金持ちとは関わらん」


「リリカ・ノクスフォード、平民です。お時間を、少しいただけますか」

私は、深く頭を下げた。


「は? 名前、なんだって?」

「リリカ・ノクスフォードです」

その名を口にした瞬間、工房長の表情が変わった。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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