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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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17/85

この世界にやり直しは無い

「大変です!」


エマが、顔面蒼白で部屋へ飛び込んできた。


「どうしたの?」


私は、胸の奥にざわりと波が立つのを感じた。尋常ではない気配が、エマの全身から滲み出ていた。


彼女は言葉を選ぶように、震える唇で告げた。


「バルト様が……亡くなりました」


「え……? どうして?」


それは、ゲーム内のどのルートにも存在しなかった事件だ。だが、ここはすでに“ゲーム終了後”の世界。何が起きても、おかしくないとは思っていた……けれど。


「それが……強盗団ラ・ムート・ド・ロンブルの仕業だとか……」


――いやいやいや。あいつらは、今ここで働いてるし。


「それ、でまかせよね?」


「……元所領から戻る途中で、襲われたそうです」


「でも、証拠は? 本当に、彼らが?」


「武器と……あの、トレードマークの赤いスカーフが、落ちていたと……」


……やられた。


カンクローにそんな知恵と度胸があるわけがない。むしろ、それを巧みに“利用した”連中がいる。奴らに違いない。


でも──


父を、バルトを死なせた遠因は……私だ。


私が、奴らに姑息な策を考える“きっかけ”を与えてしまった。

私がもっと注意深くあれば──彼を、守れていたかもしれない。


「バルトたちを、父の警護に就かせるべきだった。……あるいは、私が……」


――影武者なんてことは?

いや、あの人なら有り得る。常に先を読む人だった。だが、もしこれが“本物”なら……。


「とにかく、現地に向かいましょう」


「乗せて行くよ!」


ティア様の申し出に甘え、私とエマ、そしてナイルは、急ぎ現場へと向かった。


場所は、王都と旧ノクスフォード宰相領の間にある、峠道。

近くの森に降りると、峠の周辺には、すでに聖蛇騎士団の姿があった。


胸の銀色のプレートに刻まれた蛇の紋章──

それは、第三王子派にして、ゲーム内の主人公《聖女》の側近たちの象徴だった。


副団長は、ジュリアン・セリオ。

ゲームでは、聖女に片想いする単純な脳筋騎士だった。だが、その行動原理の単純さゆえに、操りやすい人物でもある。


ノクスフォード家が取り潰された後、所領の大半はセリオ家に組み込まれたという。まるで、最初から仕組まれていたかのように。


「あ、いた……ジュリアン」


険しい顔で現場検証を終えた彼は、出発を待っているように見えた。いや──違う。

負傷者がいて、その治療に当たっている。


「どうする? 話しかける?」


「ダメですよ。今は下手に動けば、逆に不審者扱いされ、捕まります」


「何を言ってるの。被害者は……私の父よ。父なのよ!」


なぜか、感情が抑えられなかった。

焦燥、混乱、恐怖。すべてが渦を巻いて、私の中で暴れていた。


エマが私の腕を掴む。涙でにじんだ瞳をこちらに向け、必死に首を振る。

それでも私は、我慢できず、飛び出そうとした──その時。


騎士団が、父の馬車らしきものを新しい馬に繋ぎ、王都へと出発した。

まるで“見せしめ”のように、襲撃を受けた痕のまま、引かれていく。


「父は……どこに?」


「……わかりません」


騎士団が去った後、私たちは峠の現場へと足を踏み入れた。


「奴ら、犯人を探している様子すらなかったのに、軽傷の隊員がいて、わざわざ現地で治療していた。それに……事件の情報が、王都に伝わるのが、早すぎる」


──違和感しかない。


「リリカ様。……バルト様の馬車を、追いましょう」


ナイルの冷静な言葉に、私は頷いた。


王都の検問に着くと、父の馬車は無人のまま、ぽつんと放置されていた。

近くには誰もいない。誰も、近づこうとしない。


私は、その馬車にゆっくりと近づき、扉へ手を伸ばそうとした。

──が。


その手を、誰かが止めた。


振り向くと、男が、声を殺して泣いていた。


「リリカ様……。ここでお待ちください。私に、運ばせてください」


それは、セバスだった。


「我が主人、バルト・ノクスフォード様は、元宰相でありながら、実は──一流の戦士でもございました。こんな無様に、撃たれて逝くとは……どれほど、無念だったことでしょう」


彼は、馬車の中にいる父に毛布をかけ、静かに、その身を抱き上げた。


他の従者たち──「悪の軍団」の仲間たちも、まるで“粗大ごみ”のように投げ捨てられていた遺体を、一人ずつ、丁寧に、静かに拾い上げてくれている。


「……やはり、父は殺されていたのか」


あらゆる理想が、砕かれた。


この物語に、“やり直し”なんてものは、ない。


「全員、傾注──! バルト・ノクスフォード宰相に、敬礼!」


警備員や門番たちが、無言で立ち並び、敬礼する。


遺体を乗せた馬車は、その列の前を、ゆっくりと通り過ぎていった。


葬儀は、貧民街の一角にある小さな教会で、身内だけで行うことになった。


閉ざされた扉の外には、弔問者たちが花束を捧げ、無言で祈っていた。


私は、そこで──初めて、バルト・ノクスフォードに“会う”ことができた。


「リリカ……ごめん。あなたの望みを叶えることはできなかった。あなたの父さんを……殺させてしまった」


心の中で、私は彼女に謝った。


そして、安らかな死に顔を見せているバルトに、彼女の代わりに伝える。


「あなたの娘、リリカは……あなたのことが一番大切で、好きでした。

でも、不器用で……それを、ちゃんと伝えられなかったんです」


なぜか、涙は止まらなかった。

きっと、私の中にいるリリカの魂が、いま──嗚咽しているのだろう。


私は顔を上げた。


そこにいる「悪の軍団」のメンバーたちが、静かに、私を見ていた。


その視線を、正面から受け止め、私は彼らに宣言した。


「私のやり方で──私なりの“復讐”を始める!」

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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