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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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真っ白な服と赤いスカーフ

「つまり、あいつらを匿えっていうのか?」


「失礼ね、かんちゃん。王都に着いたばかりの一般人にその言い方はないでしょ? 一週間だけでいいのよ」


「……そんな長く預かれないよ。自分で連れてきたんだろ、自分でなんとかしろよ」


「だって、私、家なき子だもん。じゃあ、二、三日でいいわ。ありがと」


 私はさらりと言いながら、カンクローの手を両手で包み込んで、まっすぐ目を見て感謝を伝える。

 交渉ごとは勢いが命。ついでに、ちょっとだけ人たらしの笑顔も添えておく。


「はぁ……もし犯罪者だったら、すぐ突き出すからな」


「もう一つだけお願い。彼らに服を提供して欲しいの。もちろん、ただとは言わないわ」


「商売としてなら考えるが……ナイルにでも頼めば?」


「かんちゃん。ナイルなんてチンケな商人に、ちゃんとした防具が手配できるわけないでしょ?」


 私は、カンクローの職人としてのプライドをくすぐるように言った。

 実際、彼に作らせること――それ自体がこの作戦の肝なのだから。


「まあな。……で、どんな防具だ?」


 私は、ガンツたちに着せる予定の装備について説明を始めた。

 ゲームでの知識を踏まえた、コスパ最強の装備――チェニック風魔法衣。

 対物理、対魔法の基本性能が高く、なおかつ白一色で無装飾。余計な派手さは一切不要。


「どうかな? できれば、すぐ欲しいんだけど」


「おいおい、一般人が着るんだろ? しかも、装飾なしって……人数分作るなら、時間も金もかかるぞ」


「装飾いらないわよ、そんなの。機能性だけでいいの。お金は……無いけど、でも、代わりになるものはあるわ」


 私がセバスに目配せすると、あらかじめ用意していた武器と防具の山が応接室に運び込まれた。

 ガンツたちから没収したもの。どうしても手放せないと泣いた子には情けをかけたけれど。


 静かに積み上がっていく金属の山は、物騒で、そして――何より説得力があった。


「途中で手配犯を倒して来たんだけど、残念ながら全員焼けちゃって」


「嘘つけ……けど、こいつらの装備、見覚えがあるな。……なるほど、奴らの業物か」


「これと、冒険者ギルドの討伐報酬、ぜんぶあなたにあげる。私じゃ信頼されないしね?」


「本気か? ……でも、また奴らが現れたら大問題だぞ」


 カンクローは私を睨みつけた。けれどその目には、ほんのわずか、苦笑の色が混じっている。

 ああ、もう。そんな顔されたら、全然怖くない。むしろ、可愛い。


「そうね、じゃあ誓約書でも交わしましょうか? “強盗団はもう現れない”って」


 セバスチャンが、彼らの象徴――赤いスカーフの束を、まるで証拠品のようにカンクローの前に置いた。


「これで、充分かと。強盗団ラ・ムート・ド・ロンブルは、今ここで消えました」


 カンクローの執事団から、ざわめきが上がる。


「やっぱ、セバスチャンさんはすげー……!」


「伝説の執事だ!」


 ふむふむ。いい流れ。


「じゃあ、誓約書なんて野暮なもの、いらないってことでいいのね?」


 私がそう確認すると、カンクローは諦めたように短く返した。


「ああ」



「そうだ、かんちゃんに特別な情報を教えてあげよう!」


「……また、ろくでもないこと押し付けてくる気だろ」


「失礼ね。実は――私、復学するの!」


 その一言に、彼の眠たそうな目がぱちりと見開かれる。


「……なんだって⁉︎ お前、貴族クラスには戻れないはずじゃ――」


 その眉が、ほんの少し痛々しく寄せられるのを見て、胸がちくりとした。


 ――そんな顔しないで。かんちゃんのせいじゃないから。


「うん、わかってる。私も平民クラスだよ。……で、かんちゃんは貴族クラスかな? 昇格組でしょ?」


 いたずらっぽく笑う。わかってて聞いてるの、バレバレの顔で。


 ――だって、イセヤが男爵になるから。

 それは、どのルートでも必ず起こったゲーム内のイベント。だから、彼は貴族クラスに行く。


「……どうして、それを……」


 動揺。きた。ばっちり引っかかった。よし、狙い通り。


「じゃあスミカちゃんとはクラス別になっちゃうね〜」


 スミカちゃん。控えめで、可愛らしくて、魔術の天才。

 庶民の出でも、その才覚で学園に特別枠で入学した、そして――カンクローの思い人。


「……で? それがどうした」


「べっつに〜? 私、かんちゃんと同級生になる予定だから。ただ、それだけ」


 軽口めかして笑ったけれど、彼の顔に一瞬、痛みの色がよぎった。

 そしてすぐに、それを無理に隠した。


 ――しまった。


 スミカちゃんのこと、からかうのはちょっとやりすぎたかもしれない。

 知ってるからって、彼の目の前で茶化すのは、なんだか違う気がした。


 何か言いたげに、でも言えずにいる彼の横顔を見て、私はそっと空気を変えた。


「……スミカちゃんと仲良くなったら、どこに遊びに行こうかな〜? ここかな?」


 わざとらしく明るく、にっこりと笑う。ほんの少しだけ、悪戯の名残を残しながら。

 ――その瞬間、隣のエマが思いっきり呆れ顔をしていた。

お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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