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断罪された悪役令嬢に、ひきこもりが転生。貧乏平民からの無双。リリカ・ノクスフォードのリベリオン  作者: 織部


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留守の屋敷と忠実な影


「さあ、行くわよ、リリカ」

「ちょっと、待って」

私は教会の看護師に薬を分け与えながら、使用上の注意を一つひとつ説明していた。


向かう先は、リラの屋敷。

私とクルミは、冒険者の姿に変装している。

彼女の屋敷は、リヨンへと流れ込む川の上流、森の近くにひっそりと建っていた。


門は開け放たれたまま、人の気配はどこにもない。

途中で出会った商人や農民に場所を確認してきたので、道を間違えているはずはなかった。


ただ一人、屋敷の敷地内で洗濯をしているメイド姿の女性がいた。

背筋の伸びた佇まい。無駄のない動き。

普通の人ではない。


その佇まいには、長く主を支え続けてきた者だけが持つ落ち着きがあった。

私はクルミと視線を交わし、声をかけた。


「すいません。こちらはリラお嬢様の屋敷ですか?」

「どちら様でしょうか?」

彼女が一瞬で身構えたのが分かった。


……強い。

「失礼しました。マリスフィア侯爵家の者です。リラ様はいらっしゃいますか?」

「出かけておりまして。もうそろそろ戻る頃かと……お待ちになりますか?」


思いもかけない提案に、私たちは顔を見合わせた。

「それでは……」

足を踏み入れたリラの屋敷は、私たちの想像をはるかに超えていた。


屋敷の広間には、干された草が吊るされ、魔物や動物の骨格標本が並んでいた。


机の上には魔物図鑑をはじめとする専門書の山。

奥からは、数種類の鳥の鳴き声が聞こえてくる。

一瞬、セディオの研究室が脳裏をよぎり、私は反射的に息を止めていた。


だが、よく見るとまるで違う。

禍々しさがなく、どこか澄んだ空気すら感じられる。

私はようやく息を吐いた。


「リリカらしくないわね!」

クルミは相変わらず呑気だ。

「トラウマがあって……」

「すいません。こちらへどうぞ。ここには、リラ様も私物を持ち込まない約束なので」


キッチンに繋がる食卓には、何も置かれていなかった。

清潔で、整然としていて、まるで彼女の城のようだ。


私たちが席につくと、カモミールティが差し出された。

「あら、ハーブティですか?」

「リラ様のご趣味で、まともなのがハーブ集めなので。そうだ、プラムのタルトを召し上がりませんか?」

……絶品だった。


やはりこのメイド、只者ではない。

連れて帰りたいくらいだ。

冗談めかして思ったが、内心ではそれほどまでに有能だと認めていた。


「美味しい!」

私たちは遠慮なくお代わりまでいただいた。

彼女は、メイド長兼執事長で、コヨリと名乗った。

「良かったです。そろそろリラ様が戻る頃だと思い、作って待っていたのですが……」


「どちらへ出かけているのですか?」

「山とだけ。聞いたところで予定は変わるので……

 もう数日経っていますし、お腹を空かせてそろそろ帰ってくるはずです」


その口調に、心配というより、会いたいという感情を感じ取ってしまう。

それは主人を案じる従者の感情というより、ひとりの人間として向き合っている相手へのものに近かった。


「ところで、他の使用人は? リラ様とご一緒ですか?」

「いいえ。近頃は何かと物騒ですから、辞めてもらいました。それと、リラ様の趣味に……」

なぜだろう。


このメイドは頭が切れるのに、肝心なところを隠さず話しすぎる。

私は違和感を拭えなかった。


聡いはずなのに、警戒を示す素振りすら見せず、必要以上の情報を惜しげもなく差し出してくる。

「お腹も膨れたし、そろそろ……」

クルミが、どんと手をついて立ち上がる。

「帰るの?」


「何言ってるの? 屋敷見学よ!」

完全に取り調べモードだ。

だが、ここは他国の公爵家の屋敷である。

「失礼でしょ?」


思わず常識人ムーブが出る。

「構いませんが、私は片付けがありますので、ご随意に」

コヨリの目が一瞬、鋭く光ったのを私は見逃さなかった。


「動かないと太るわよ! じゃあ、二階から」

クルミは私の手を引き、階段を上り始めた。

清掃は行き届いているが、とにかく物が多い。

階段の両脇にも、本がびっしりと並んでいる。


「変わった本の並べ方ね」

「気づいたの?」

「リリカ、私を馬鹿にしてない?」

ジャンルごとに分類されている。

だが、なぜ階段なのだろう。


二階の奥から順に扉を開けていく。鍵は掛かっていない。

最初は書棚の部屋。

「凄い量……溢れるわね」

「これだけ集めるのに、相当なお金が掛かってるはずよ。


 公爵の資金を使っているなら問題ね」

次は武器の部屋。

「面白い。漁師や猟師みたい」

「しかも、きちんと整備されてる」


そして、リラの衣装部屋。

「最低限のワードローブしかない」

「リリカですら、もう少し持ってるのに」

式典用のドレス以外は、形の違う作業着ばかり。

使い込まれているが、丁寧に手入れされていた。


「酷い。でも……リラへの好感度、上がったわ」

「何それ!」

思わず二人で顔を見合わせて笑った。

最後は、リラの寝室と思われる部屋。

ここも鍵が掛かっていない。

「……いや、これ、鍵壊されてない?」

「そうね……」


一階に戻ると、コヨリが様子を見に来た。

彼女は奥の部屋を指さす。

「そこは私の部屋なので鍵が掛かっています。

 何もありませんが、ご覧になりますか?」

「いいわ」

クルミは首を振った。


私は一番気になっていたが、仕方なく諦める。

「質問があるんだけど。リラ様の寝室、鍵が壊れてたんだけど?」

「ああ。起きてこないので、私が壊しました」

平然と言うコヨリ。

やはり只者ではない。


「それと、本の数が凄いわね。お金、相当掛かってるでしょ! どうやって?」

「……色々とです。リラ様の器量で手に入れた物。公爵様のお金は使っていません」


そこには、コヨリのリラへの尊敬の気持ちがあった。

凄い子だと褒めたい気持ちを押し殺し、事実だけを淡々と述べているようにも見えた。


一階には、標本を作る作業部屋と、製薬のための部屋があった。

「これが、リラ様の趣味なの?」

「はい」

「ここも、開けていいのかしら?」

「どうぞ!」


そこは、鳥の鳴き声が響く部屋だった。

私たちが目を見開き、私は後退りをし、クルミは剣に手を伸ばす。


その姿を見て、コヨリは笑いを堪えている。

私たちがどんな反応を示すのか、最初から分かっていて待っていたのだろう。


「害は加えません。リラ様の従魔ですから」


――数匹の魔物が飼われていた。


お忙しい中、拙著をお読み頂きありがとうございます。もしよろしければ、ご評価をいただけると幸いです。又、ご感想をお待ちしております。

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