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その世界のつわものたち  作者: あいの
第二章 現在と、過去
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第90話 主戦力

 

 敵国の戦力が3人となり、片や玄獣たちは熊型の一体が……いや、それも今まさに立ち上がってきた。「気絶したら体力が回復したギャン」と言いながら。


 その時、気聖使いのナカマエの男が不意に笑った。


「はは。やっぱり笑えるな獣共」


「負け惜しみか?」


 そう言い返したのは亀型の玄獣であった。


「負け惜しみ? はは。笑える。勘違いするな獣共。最初からこの部隊の戦力は今この場で立っている3人だけだ」


 気聖使いのナカマエと、最初に火の魔法を使った弍大魔道士と、もう一人も恐らく魔法使いだと思われる魔導書を持った男。


「だったら最初から3人で来ればよかろうに」


「はは。笑える。獣共は知らないかも知れねーが、戦争で死ぬ事も兵士の仕事だ。その為に国民から巻き上げた金で生きているんだからな。まあ、そんな事はどうでもいい。それよりもお前らは全部で6匹か?」


「……ひき?」


「まあ、希少性の高いお前らが一つの国に沢山いるわけねーよな」


「なんだお前? 戦っても勝ち目がないと判断をしての心理戦か?」


「はは。笑える。ただの善意だ。お前ら獣共に絶望を与えるその前の確認だ」


「絶望? 的を射ないな」


「今、お前らの城にはお前らの主の獣が1匹で居るんだろ?」


「……まさか別動隊か? いや、ありえんな。我々の諜報員を甘く見るなよ。そんな情報は来ておらん。人間特有のハッタリだ」


「はは。笑える。隊じゃねーから分からねーんだよ、獣」


「隊ではない……少数という事か? ならばこちらこそ笑えるではないか人間ごときよ。王城に居るのはキオウ様だぞ。我々の主様だぞ。我々よりも遥かに強いお方だぞ。人間ごときが少数でどうにか出来るお方では──」


「英雄種なら可能だろ」


 気聖使いナカマエのその一言に玄獣の誰もが目の色を変えると、豹型の玄獣が即座にこの場か離脱しよう──としたのだが、間髪を入れず敵国の魔法使いが風の魔法を放ち、その後脚の2本を切断した。


「──はは。笑える。助けになんて行ける訳がないだろうが。お前たち獣共の分散が俺たちの今回の作戦の目的なんだからよ!」



 ◇◇◇



 名前は、スローザ。


 貧民層が住む町の青年。年齢は8つを超えた頃から正確に数えた事はないが、たぶん18歳くらい。髪は洗髪代の節約の為に頭皮が見える程に短く、顔には左のこめかみから顎にかけて大きな傷があった。服装は新品の長袖シャツと黒パンツとスニーカー。


 彼が英雄種の力に目覚めたのは1週間前であった。ある時に、急に、ふと、力が沸いた。という感じだったのだが、その突発性は英雄種の力を宿す者たちならば大体がそうであった。例を挙げるならば、オアの大陸の勇者ユウシアも岩に刺さっていた剣を引き抜いた時に突然であり、ロイキ共和連国のエルタルロスもまた1度目ではなく4度目の戦争に巻き込まれた時であった。


 少し余談となるが、厳密には英雄種とは赤ん坊として生まれた時には既に普通の人間よりも遥かに優れた肉体をもっているのだが、それを“脳で理解”できるかどうかが何よりも重要であった。


 理解。


 ──生まれたばかりの赤ん坊は100キロの岩を持ち上げられない。だが、英雄種の肉体をもつ赤ん坊にはそれが可能なのだ。持ち上げられるという脳への理解、そして可能と不可能の正確な線引き。そうする事で英雄種の肉体をもつ者たちは自身が英雄種であると“気付く”事が出来るのであった。


 そう、もう一度言うが、英雄種は自分が英雄種だと気付く事が先ずは大事なのだ。


 スローザは、長く対立する町の不良グループに囲まれて絶体絶命の危機に瀕した時に、自身のその強大な力に初めて気がついたのだった。



 ◇◇◇



 国王がスローザの存在に気付いたのは、彼が英雄種に覚醒をした5日後の事であった。護衛の兵士たちを押し退けて、ただ真っ直ぐに歩いて玉座の間までやってきた彼に国王は驚愕以上の嬉しみを覚えた。


 ──王は端的にこの時点で理解ができたからだ。この何者かが只者ではない、と。


「お前が、国王か?」


 スローザは貧困層で育った故に礼儀を知らない。いや、知っていたところで彼はたぶんそれを重んじなさそうな、何かそうな表情と態度をしていた。


「……英雄種か?」


 国王は部下の魔法使いや気聖使いとは雰囲気が異なっているのでそう予想をした。


「俺は学がねーからよく分からねーが、多分そうだ。なんかスゲー強えんだ俺は。証拠が欲しけりゃあ、この場にいる兵士の全員を皆殺しにしてやってもいいが」


「いや、いい。今こうして儂の前にお前が無傷でいるという時点でそれが何よりの証拠だからな。それで何用だ?」


「金をよこせ。美味い物をたらふく食わせろ。この国じゃ強い奴が天下だろ」


「それはこの国に限らずだ。それで見返りは?」


「お前を殺さないでやる。それじゃ駄目か?」


「……それじゃあまだ弱いな。我が国の戦力として戦争に参加しろ。そうすればこの国で儂と同じくらいの権力を与えるぞ」


「お前と同じ? なんでも好き勝手にできるって事か? だったら乗ってやる。そもそも俺はこのスゲー力を存分に使いたいとも考えていたからな」


「交渉成立だな」


 国王が満面の笑みでそう言い、2人は笑った。


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