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その世界のつわものたち  作者: あいの
第二章 現在と、過去
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第89話 開戦


 ポトスの国の護り神キオウには、部下が存在している。それはポトスの兵士とは無関係なものたちで構成されており、その誰もが玄獣げんじゅうであり、その人よりも優れた特異な身体能力は比較的に戦争を有利に進める事が可能であった。


 その中の一体、迷彩柄の羽毛を纏ったフクロウに似た姿をした玄獣(以下梟型の玄獣)は主に諜報の役割を担っており、その遥か遠くを見渡す事が出来る目と、ほぼ無機質な佇まいは、何処に居てもあまり目立つ事がなく、故に特に国境付近の木々の上から敵国を観察し、何か不穏な気配を察知すると即座に主であるキオウの側で待つ仲間たちにテレパシーで伝える事ができた。


 ──これにより、ポトス国の王アイスは敵国の襲撃に迅速に対応する事が可能となり、自国民の中で戦えない者たちの安全を確保するようにしていた。


 敵国には真っ直ぐに我の王城まで進んで来てもらおう。戦いの舞台はそこだけでいい。戦えない者たちには速やかに退避してもらおう。そんなアイス国王の考えの下に。


──少し余談なのだが、この世界では力を持たない、いわば只の普通の人間たちは、それが戦争中であれ敵国であれ無闇には襲われたりはしなかった。何故ならば、この世界の力関係が、戦える者とそうではない者たちとでは圧倒的に差が生じているからであった。端的に言ってしまうと、魔法使いと魔法を使えない人間とではその戦力は象と蟻ほどに違い、それはつまりは敵国であれ戦えない者たちを生かしておいても何の害にもならないという事へと繋がるからであった。ただし歯向かってくるならば容赦はないが。



 ◇◇◇



 この日、ポトスの国に隣国の襲撃が開始されたのだが、それはいつもの如く優秀な諜報員たちの活躍により、キオウの直属の部下である玄獣たちによって、王城のある中心街を囲む荒地にて待ち構える事に成功していた。



 ◇◇◇



 敵国の戦力はざっと数えて200人ほどであった。先頭で隊列を組む鎧に盾と武器を所持した重装備をした者たちが3/4を占め、その背後には軽装備の幾人かが不規則に立っていた。恐らくは、そちらが主戦力。魔法使いか、気聖使いか、或いは英雄種か。


 ならば──


 ポトスの国側の玄獣6体の内の1体、体長1メートルくらいの亀の姿をした玄獣が二足歩行で前に出てきた。


「何故、お主らは、役に立たんと分かっておる兵士を沢山引き連れてくるのだ? 兵士という役職があるとはいえ、重苦しい武具を外せば只の普通の人間であろうに」


 鼻の下と顎に白い髭を蓄えた亀型の玄獣。細めた目は哀れみを浮かべているようであった。


「──無駄に死ぬだけなのに、何故……」


 亀型の玄獣はそう言葉を続けると、突如として空から雨が──いや、それはもっと大粒で重量感のある岩で、それが空から幾つも勢いよく落下してきて、そのままぐしゃりと敵国の兵士たちの頭を兜ごと潰していった。


 突然の落下物……いや、それらは地面に落下をすると、少しジタバタとした後で二足で立ち上がった。


 ──亀型の玄獣と同じ姿をしているが白い髭だけは蓄えられていない似た姿をしたものたち。その数は50体ほど。


「こういう時の為だろ」


 不意にそう言ってきたのは敵国の兵士たちの背後にいた軽装備の杖をもった男であり、「──兵士の仕事は相手の攻撃を受ける事。それ以外の価値なんて最初からねえんだよ」と言葉を続けると、すかさず詠唱を終えて魔法を放ってきた。


【エンビ・ジュズ《小さくも巨大な炎》】


 ポウ、ポウ、ポウ、ポウ…と彼の周りに幾つもの小さな火の玉が浮かぶ。そしてそれを今度は風の魔法で吹き飛ばしてきた。


 ジュッ、ボオオォォォオオーー!! 


 小さな火の玉は亀型の玄獣に似たものたちに触れた瞬間に激しい火柱を巻き起こし、そのものたちの身体を瞬時に焼け焦がした。それがポウ、ポウの数の分だけ巻き起こり、亀型の玄獣に似たものたちは一瞬にしてその数が半数となった。


「強いな。弍大魔道士か……それは厄介じゃな」


 白い髭を蓄えた亀型の玄獣がそう言い、それと同時に亀型以外の5体の玄獣が動き出す。


 先ずはこの場に居る玄獣の中で最速を誇る豹柄で四足歩行、二つ首を持つ玄獣が一気に駆け出し、あっという間に弍大魔道士との距離を詰めると、両方の口から鋭く伸びた牙で貫こうとした──が、それは敵国の他の魔道士の攻撃により腕に擦り傷を負わせる事しかできなかった。


 それを皮切りに敵国の魔法使いによる魔法攻撃が本格的に開始された。火の魔法と風の魔法による激しい乱撃。だがそれらは玄獣の中で一際大きな身体をもつ熊型の玄獣が真正面から受け止め、他の玄獣たちを守り庇った。


 魔法耐性を持つ熊型の玄獣──とは言え、それは無敵という意味ではなく、単に頑丈で忍耐力が強いという事であり、故に魔法攻撃が当たる度に「ギャンッ! イッッギャンッ!」と悲痛の声が漏れていた。


 その隙に白い髭を蓄えた亀型の玄獣の元に25体の似たものたちが集っていた。そしてその25体が一斉に亀型の玄獣の背中の甲羅に飛び移っていくと、まるで一体化するようにその存在が一瞬で消え、その代わりに亀型の玄獣の甲羅がどんどんと巨大化していった。そう実はこの亀型の玄獣に似たものたちは生命のある生物ではなく、この白い髭を蓄えたいわば本体によって生み出された物体であった。


 故に、再び。


 白い髭を蓄えた亀型の玄獣は甲羅を上に向けて、物凄く踏ん張ると、甲羅から何かの粒が勢いよく空に向けて弾け飛んでいき、その過程で亀型の玄獣の姿を模していき、そしてやがて甲羅から勢いよく落下していった。


 ──その数は先程の倍の100体。亀型の玄獣の甲羅は先程よりも更に萎んだ。


「それはさっき見たぞ」


 敵国の魔法使いの一人がそう言った。そして魔法使いたちは即座に風の防御魔法を展開──したのだが、その内の半数近くがその威力を見誤っていたようで、防御魔法が貫かれて他の重装備の兵士たちと共に頭をぐしゃりとつぶされていった。


「チッ、これだから大魔道士にさえ成れないない魔道士どもは……」


 と、その時、魔法耐性をもつ熊型の玄獣がドガッッ! と痛烈な音と共に真横に吹っ飛んでいった。


 その攻撃を喰らわせたのは気聖使いであり、身体から黒い湯気のようなものを漂わせる【ナカマエ】(第29話で登場した【聖上高気五十以上高気】のそのすぐ下に位置するランク)の実力を持つ者であった。


「でかい図体の割には耐性は魔法だけか。はは、笑える」


 防壁が無くなった事で、敵国の残りの魔法使いたちが好機と見なして自身の最大限の魔法を一斉に放とうとした──


 ──が、その内の10人の身体が太い縄のような物で突如として締められた。


「ぐわっ!?」


「ぐあっっ!」


「な、なんだこれ? く、苦しい……」


 それは縄ではな1本1本が自由自在に動く触手であった。そしてその起源を辿っていくと、そこには顔を真っ赤にさせて頭から湯気を出して怒っているタコ型の玄獣の存在があった。


「イカッた! もうイカッた!」


 顔の大きさは40センチ程。しかし怒れば怒る程にその10本の触手は肥大するようで、最大限となった今はその1本の太さが人間の大人の男性のウエストくらいとなっていた。


「オレもイカッた! イカッた!」


 そして、それがもう一体。


「イカッた! もうイカった!」


「オレもイカッた! イカッた!」


 計20本の巨大な触手による20人の拘束と強力な締め付け。しかもその触手には無数の吸盤が付いている為に逃げる事も容易ではなさそうであった。更にそこに好機に見出した豹型の玄獣が牙を剥き出しにして躍進をした。


 敵国の生命が次々と散っていった。亀型の玄獣はまた憐れみの目を向けた。


「……貴様たち人間の考えでは生き物の生命は刈り取るのが正解なのか? いつも分からぬ。なぜ戦争は止まぬのか……」


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