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その世界のつわものたち  作者: あいの
第二章 現在と、過去
85/109

第85話 ポトスの国の王と裸の男

 

 先週、16歳になったアイス・リトマス・ポトス(第33話参照)の誕生日はそれはそれは悲惨なものであった。


 先ず、隣国が襲撃してきた。最終的にそれは自国の護り神であるキオウによって退けたのだが、双方合わせて多くの犠牲者が出た。


 敵国の弍大魔道士や気聖使いたちによって王城もだいぶ壊されてしまった。その修復作業に多くの国民の力を借りてしまった。王城に住む者たちだけで出来たらよかったのだが、国のシンボルである以上はそうもいかなかった。自分たちの町や家も壊されてそれどころではない筈なのに……。それがとても心苦しかった。


 この戦争で国民の何人が死んだ?


 アイスは勿論それが一番気掛かりではあったのだが、この世界ではそれを王が口に出す事は許されていなかった。何故なら王とは戦争しているその主犯格に該当する立場なのだから。


 アイスは前王の死去により数ヶ月前に急遽このポトス国の王となった元は王女であった。故に未だにその覚悟はぶれていた。なるべく気付かれないように気丈に振る舞ってはいるが。


 若干16歳の新王。蓋を開ければ当然に若干16才の少女。彼女は泣きたくなったら夜中にそっと城を出た。どこに向かうわけでもなく歩いていると、やがて海に出た。


 ──そして、その砂浜には奇妙な物体が落ちていた。アイスは好奇心にそれを拾い上げると、それはおかっぱ頭に大きなリボンがくっついている人の形をしたぬいぐるみであった。


「オラ、マイちゃんだよ」


 しかも喋った。故に身の毛だったアイスはそれをそっと砂浜に俯き状態で戻して、それから何となく砂をかけてから両手を合わせた。


「──どうゆう事?」


 すぐにぬいぐるみはそう言いながらゆっくりとした動作で立ち上がってきた。故にアイスは更に身の毛だった。


「──……えっ……オラ、傷つくよ……泣いちゃうよ。怖がらないでよ……」


「……いや、えっ、ごめ……す、すまん。この砂浜で亡くなった誰かの魂がたまたまぬいぐるみに宿ったのかと……」


「こわっ! なにそれ? やだよ、怖い事言わないでよ! オラはマイちゃんだよ。オラはただの生きているぬいぐるみだよ」


 生きているぬいぐるみ。それはそれで物凄く怖いなとアイスは思った。だが冷静に考えるとこの世界には魔法使いがいて、ぬいぐるみが人のように動くのはそれほどまでに驚く事ではいなとも思った。


「──あっち、あっちにね、ロクちゃんが倒れてるの。助けて欲しいんだよ。オラ、今のオラは力がちっともなくて、それで誰かを呼びに行こうと思ってたんだけど、すぐ転んじゃって、もうあっちからこっちに来るだけで7回も転んじゃって……そうしたら、あなたがオラを拾い上げてくれたんだよ」


 一生懸命に現在の状況を話すぬいぐるみに、きゅんと母性を刺激されたアイスは取り敢えずぬいぐるみをまた拾い上げて、それから指差すあっちへと足を運んだ。


 赤い髪──が背中が隠れる程に伸びていて、もしかしたら素っ裸なのか、ゴム風船のように可愛らしい尻が丸見えの何かが砂浜で突っ伏していた。


「ロクちゃんだよ。たぶん寝てるんだよ」


「……裸のようだけど」


「そうだね。最初から服を着ていなかったね」


「……男よね……」


「そうだね。ロクちゃんは男だね。だってロクちゃんにはちん──」


「分かった。それ以上は言わないで。ちなみに私は女だけど……」


「そうだね。あなたは綺麗な顔をしているから女だとオラも思っていたよ」


「……(思わぬ言葉に少し照れた様子)。ぬ、ぬいぐるみは知らないかも知れないけど、人間は、女は、裸の男にはなかなか触れられないものなのよ……」


「えっ? そうなの? オラ初耳だよ。でもどうして?」


 羞恥心的に。16歳の少女故の羞恥心的に。けれどそう説明をしてもぬいぐるみには理解してもらう事はきっと難しだろうと考えて困っていると、ガバッと裸の少年ロクトの方から起き上がってきた。


 裸で、真正面を全開にして。


 故にアイスは、


「きゃ、きゃーーー!!」


 と16歳らしい無垢な悲鳴を夜空に響かせた。


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