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その世界のつわものたち  作者: あいの
第二章 現在と、過去
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第84話 一方その頃マイちゃんは


 マイちゃんとロクトは、ピンチに陥っていた……。あの時(第69話参照)、ミヨクの指示通りにボートで航海をしていたのだが(魔法で自動操縦が可能で、マイちゃんは深く考えずに馴染みのあるオアの大陸を目的地としていた)、些か海を舐めていた。


 2時間後に天候が荒れた。とは言え、まあまあの雨とまあまあの風でそれ自体は大した事ではなく、マイちゃんも「オラは撥水加工だから大丈夫だよ」とよく分からない事を言える程に余裕があったのだが、いつの間にか2人が乗っているボートが口が2つあるワニのような魔獣たちによって囲まれていた。


「……魔獣だね。たぶんオラたちを食べようとしているんだね。どうしよう、ロクちゃん……今のオラは弱いんだよ……」


 ──と、その時、世界の時間が止まった。


「やあ、マイちゃん」


 緊張感のない声で魔獣たちの背後から海面を歩いてやってきたのは勿論ミヨクだった。


「──危ないところだったね」


「ミョクちゃん? あっ、本当だ。世界の時間の止まってる。でも、どうして? なんでミョクちゃんがここに居るの?」


「……き、奇遇だね。マイちゃん。実は俺もこのルートを偶然にも進んでいてね……そ、そしたらたまたま偶然にもマイちゃんを発見したんだよ。本当にたまたま偶然に……」


 ミヨクはただ単にストーキングをしていたに過ぎなかったのだが、取り敢えず嘘をついた。けれど、「えっ、跡を追ってきたの?」と流石に即座にバレた。


「──ねえ、どうして付いてくるの? オラ、使命の途中だよ? ミョクちゃんが付いてきたらオラは使命できないんだよ? ねえ、なんで付いてくるの? それに、なんかこういうのって、オラ何て言ったらいいのか言葉が分からないんだけど……なんかこうやってミョクちゃんが頻繁に現れるのって……うーん、なんて言ったらいいの本当に言葉が分からないんだけど、なんていうかビクっとするというか、なんていうか、えっ? って思うっていうか──」


 キモい。マイちゃんがその言葉と使用方法を知っていたら多分そう言っていただろう。けれどこの芽生えの時点で恐れたミヨクは即座に話題をすり替えるのだった。


「そ、それよりもマイちゃん……い、今の内に魔獣を退治しちゃおうか。お、俺は用事を思い出したから先に行くよ。い、今から100を数えた後くらいに世界の時間を動かすから、そ、それまでに魔獣を退治しておいてね」


「100? うん。オラ、分かったよ。100を数えるよ。あっ、でもミョクちゃん、オラ今あんまり運動能力弱いから500にして、500に」


「……ふふふ。いいよ500だね。でもマイちゃんは500をきちんと数えられるかな? ふふふ」


「オラ、数えられるよ。いーち、にー、さーん」


「ふふふ。


 そうしてミヨクはそそくさと、けれど名残惜しそうに去っていった。ただ、心の中では、どうせ目的はオアの大陸で同じだし、待っていよう。と思っていた。


 だが、その後、海は更に荒れ、マイちゃんとロクトは遭難する事となった。


「そうなんだ……」



 ◇◇◇



 恐らくミヨクも知らない事なのかもしれないのだが、それが魔法の力か撥水加工の力かは定かではないのだが、マイちゃんは溺れなかった。


 ──荒波でボートから投げ出されても、マイちゃんは仰向けで天候が回復した太陽を眺めながらプカプカと浮いていた。


 そしてそのマイちゃんを浮き輪代わりにするようにロクトがしがみついていた。


 そんな感じで2人はかれこれ数時間は漂っていた。基本的には人間であるロクトが低体温症に陥らないのは体内に宿っている神獣の力のおかげである可能性が高かった。


 ──ただ、眠くはなっていた。寝ては危険だとは分かっていながらも、それでもロクトは疲労の果てに遂に眠ってしまった。


 マイちゃんは、今はあまり力がないけれど、それでもロクトの手をぎゅっと握りしめていた。


 やがて2人は、陸地にたどり着いた。


 そこはカネアの大陸と呼ばれる、その港町の浜辺に。


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