第82話 補足だよ。ゼンちゃんマイちゃん。
どこかは分からないけど、特に何の色もない空間。
──そこに人の形をしたぬいぐるみが2体並んで立っていた。
ゼンちゃんとマイちゃん。
そして2体は急に動き出す。
◇◇◇
先ずマイちゃんが何やら太極拳のようなゆらりとした動きを暫くした。
それをゼンちゃんがウザそうに見つめていた。
「っで、ここはドコ?」
マイちゃんはそう言った。
「……そうか、先ずは変な動きか。変な動きの前にその質問からなんじゃないのかマイ? って、お前いつからそんな奇妙な動きをするようになったんだ?」
「いい質問だねゼンちゃん。でもその答えはオラにも分からないよ。なんか気付けばゆらりと踊っていたんだよ。それよりここはドコ?」
「脳で考えるより先に身体が動いたって事か。まあ、オイラたちには脳なんてないんだけどな」
「無いんだ。オラたちに脳はないんだ。けど、残念だけど無いもんは無いからしょうがないね。それよりゼンちゃん、ミョクちゃんはドコ?」
「マイ、残念だがここにはミヨクはいないんだ。何故ならここはパラレルワールドだからな」
「ぱ、ぱ、ぱら……!?」
マイちゃんはゼンちゃんが衝撃的な事を言ったような気がしたから驚こうと思ったのだが、全く知らない言葉だったので驚こうにも驚けなかった。
「ふふふ。パラレルワールドだ。パラレルワールド。分かりやすく言うとな……なんか……ここに居るオイラたちはミヨクたちの居る本編とは別の存在なんだ」
そう説明されてマイちゃんは驚ろ──こうと思ったのだが、結局は何を言っているのか分からなかったので驚けなかった。そもそも、ほんぺん? って何? と思っていたのだが、それはゼンちゃんもよく分かってなさそうだったので聞き流しておく事にしたようだった。
「……それで、それでゼンちゃんオラたちは何をするの? 何かするの? 何かしなきゃいけないの? 何もする事がないならオラはまたゆらりとした踊りをしていたいんだけど」
「ダメだ」
ピシャリとゼンちゃんが即座に語性を強め、マイちゃんはびくりと身体を震わせた。だ、ダメなんだ……と。
「──パラレルワールドはそんな暇な場所じゃないんだマイ。オイラたちにはやらなきゃならない事があるんだ」
「やらなきゃならない事って何?」
マイちゃんはそう質問したが、実はちゃっかりとゆらりとした踊りをしていた。ダメと言われたら余計にやりたくなるよね、と。
「……オイラたちは本編で端折られた(長文になる為)部分をピックアップしてもう少し詳しく説明するっていう事をする為にここに存在しているんだ」
「…………(10秒経過)…………(20秒経過)…………な、なるほど」
マイちゃんはゆらりとした踊りを止めてから、小さな声でそう返答した。
「……お前、分かってないだろ?」
「うん。オラはゼンちゃんが何を言っているか少しも理解出来ていないよ。少しもだよ。本当だよ。少しもだよ。でも大丈夫。オラ、なんとか対応するよ。対応してみせるよ」
「……そうか。まあ、難しいよな。オイラもたぶん理解できないだろうなと思って喋っていたからな。でもマイがなんとか対応するって言うならそれでいいや」
「うん。オラ何となく頑張るよ。それで、オラは何をすればいいの?」
「本編で気になった良く分からない事や説明がもう少し欲しいな、ってのがあったらオイラに質問してくれ」
「……えっ……答えられるの? ゼンちゃん何でも答えられるの? ゼンちゃんってそんなに賢いっけ?」
「……ここでの──パラレルワールドでのオイラは特別なんだ。神からの補正的なものが加わってから凄く賢いんだ多分な。何でも知っているし分かっているんだ多分な。それよりマイ、オイラはいつでも賢いぞ。次に変な事を言ったら容赦なく蹴るからな」
「……それじゃあ怖くて、何か変な事があっても蹴られるから言えなくなっちゃうよ……。でも、ゼンちゃんらしいからいいんだけど。じゃあ早速質問するんだよ。ほんぺんって何?」
「……そこからか。本編は本編だ。第二章からお前も見ていただろ? ラグン……ラグが主軸のロイキの大陸の物語を」
「えっ? あれ夢じゃなかったの? うん、見ていたよオラ。ラグとちあんいじれんたいってのを……えっ、何どうゆう事? 夢じゃないの? そもそもオラは夢を見た事がないけど夢だと思っていたからびっくりだよ。って、そういえばオラ、ミョクちゃんの使命をやっている最中だったんだ! ロ、ロクちゃんは? えっ、あれ、ここドコ? オラ何しているの?」
「……落ち着けマイ。それを全部ひっくるめてパラレルワールドなんだ。だから落ち着けマイ」
「……そっか。これがパラレルワールドなんだね。オラ、それでも全然ちっとも分からないけど、分かったよ。オラぱられるわーるどを理解したよ」
「成長したなマイ」
「うん、オラ成長したよ。ちっとも分かってないけど成長したよ。あんまり分かってないって言うとゼンちゃんに蹴られるかも知れないから、オラ分かったって事にしているんだよ」
「……成長したなマイ」
「うん。オラ成長したよ。ゼンちゃんも早く成長できたらいいの──!!」
その辺りでマイちゃんはゼンちゃんに蹴り飛ばされて泣かされた。
◇◇◇
──気を取り直して、
「……とにかくオラは質問すればいいんだねゼンちゃん?」
マイちゃんがそう言った。
「おう。そうだ。オイラがなんでも答えてやるぞ。何でも聞いてこい」
「…….なんかさっきから偉そうで鼻につくけど、ロイキの大陸ってどんなところ? オラ行った事ないよ。もしかしたらあるかも知れないけどオラ忘れているよ。そんな事を気にして歩いていないからね」
「……ロイキの大陸は、大陸でも珍しく大きな陸地という訳じゃなく、小さな島の密集帯なんだ。そして島一つ一つが国となっているんだ」
「そうなんだ。オラ、半信半疑だったけど本当にここでのゼンちゃんは物知りっぽいんだね。じゃあ次の質問ね。ちあんいじれんたいって何?」
「治安維持連隊は元は各国の戦力たちで形成された集まりで、国民というよりは、大陸に属した人間たちと言った方が適切で、国の規律よりも、治安維持連隊の規律に則った行動が許されているんだ」
「なんか難しいね。王様よりも偉いの?」
「いや、一概にどちらが偉いとかは言えないな。ただ場合によっては国王をも取り締まる事が許されているのは確かだな。それが平和を侵していると判断されればな」
「ちあんいじれんたいって本部にだけ居るの?」
「大陸のほぼ中央の島が治安維持連隊の本部で、そこに治安維持連隊の上層部を含めた十分の一くらいが住んでいるんだ。その他の大勢は主に国に派遣されていて、国の治安を維持している。ちなみに治安維持連隊の基本的な生活はその国のルールに従うてっのが治安維持連隊のルールなんだ」
「上層部? って何?」
「治安維持連隊には国を守る兵士たちと同じように階級ってのがあって、ざっくりと説明すると、1番偉いのが総隊長の──」
「あっ、エルタルロスだね。白髪のおじいちゃん」
「そうだな。それで次が大隊長と呼ばれる人間が複数人いて、その中にはフルーナ・ポートレールも居るぞ。それでその大隊長の下に隊長と呼ばれる階級があって、隊長は基本的に大隊長の誰かに属していて、その数に定めはなく、1人の大隊長に対して複数人の隊長が居る事もあるんだ。ちなみにフルーナの下には7人の隊長が居てそれが最多だな」
「フルーナは人気者なんだね」
「さあな。人気で決まっているのかはオイラにも分からないな。それで、隊長の下には、国の責任者っていう階級があって、文字通り国に派遣されている治安維持連隊を束ねているんだ。ちなみに同じ国に3〜5人くらいの責任者が居て、それぞれの上司となる大隊長は異なるのがルールなんだ。治安維持連隊にも取り締まる存在が必要だからな」
「なんか難しいね。オラ、ルールとか苦手だよ」
「平和ってそれだけ難しいんだろうな。ただ、これが礎になればいいね、って前にミヨクが言っていたぞ。世界の先駆者になってそれが広がれば、てな」
「平和って簡単なのにね。楽しい気持ちだけで生きていればいいだけなのにね」
「まあ、それが難しいんだろうなきっと。オイラたちには全く理解できないけどな。人間ってそういう風に作られた生き物なのかも知れないな」
そう言ってゼンちゃんとマイちゃんは深いため息を吐いた。
「──ところで質問は終わりかマイ?」
「うーん。今のところは大丈夫かな。あっ、そうだ! もう一つあった。オラは? ほんぺんのオラはどうなったの? オラとロクちゃんはどうなったの? ねえ、ゼンちゃん。教えてゼンちゃん」
「マイとロクトか。今の時点じゃオイラにも分からないな。ただお前たちは次の次に登場する予定だ」
「……次じゃないんだ」
「ああ、次の次だ」
「……そうなんだね。ゼンちゃんは? ゼンちゃんはもうほんぺんに登場しないの?」
「オイラか……ミヨク次第だが、暫くはなさそうだな。だから多分このパラレルワールドが作られたんだ。オイラ人気者だからな」
「……」
「なんで、無言なんだマイ? お前、自分の方が人気者だけどね、って考えてんだろ?」
「……」
「……なんか言え」
「絶対に蹴るから、オラ絶対に言わないよ」
「それは言ってるって事なんだよ!」
そう言ってゼンちゃんはまたマイちゃんを蹴って泣かせた。




