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その世界のつわものたち  作者: あいの
第二章 現在と、過去
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第78話 シカトグラビティ


 ──とは、言ったものの、正直フルーナは少々困っていた。と、いうのもツナギ服のこん畜生を前言通りに殺すのは簡単(本人談)な事なのだが、それには本気を出す必要があり、けれど本気を出すには多くの建物や沢山の人々がいるこの場は適していなかったのだから。


 私が本気を出したら被害が大きくなりすぎる……。町を破壊する気か私は? でも、生意気だがこの馬鹿は参大魔道士の私が本気でやらなきゃ殺せねえ……。


 さて、どうするか? 治安維持連隊故に──いや、人として。


 それに対してツナギ服のこん畜生は制限なく自由に暴れていた。フルーナに攻撃を仕掛けて、それが風の魔法で上手く躱されても、勢いもそのままに建物を破壊するのも厭わず、寧ろ建物を蹴って壊してその反動を利用したりもして、とにかく自由に「カッカッカ!」と上機嫌に暴れていた。


「テメーよお、近くには人はいねーがよ、建物ってのは人が生きる上で大切なもんだろーが! 無闇に壊してんじゃねーよコラッ!!」


「カッカッカ。それが世界の常識だろ? 強い奴が道理。それともオレが寝ている間にルールが変わったのか? まあ、どうでもいいがな。カッカッカッカ」


 そんなムカつく奴のムカつく発言と高笑いを聞きながらもフルーナは、いや、当然に物凄くムカついたのだが、それよりも、それにしても……この馬鹿、段々と耐久力が上がってねーか? と。割と冷静に思っていた。


 そう、耐久力の向上。フルーナは風の魔法でツナギ服のこん畜生の攻撃をいなしながら、町に被害が及ばない程度で強力な攻撃を繰り出していたのだが、最初は皮膚や骨を壊していた魔法も、今は威力は同程度であるにも関わらず片手で、しかも無傷で防がれていた。


 なんだコイツ? 攻撃を喰らって、再生をして、それで肉体が強固になっているのか? いや、疑問を抱く必要はねーな。恐らくそうだ。


 フルーナは考える時間を最小限にしてそう判断した。


 そして、だったら、と即座に結論も浮かんだ。


 ──場所の変更。ツナギ服のこん畜生の自己治癒能力が発動する前に殺す為に。参大魔道士の本気の魔法が使える場所へ。


 故にフルーナは、ツナギ服のこん畜生が攻撃を仕掛けてきた際に、「ちっ、たくよ」と舌打ちと嫌そうな表情を浮かべながら、防御時に使用していた風の魔法を躱すから防ぐへとシフトチェンジをし、同時に詠唱も発した。


 ドガッ!!


 刹那に走る重く凄まじい一撃にフルーナの肋骨は数本が砕け、けれどそれを歯を食いしばって何とか耐えると、詠唱を続け、敢えて攻撃を受け止めて近接するという選択をした意味を表すように、彼女はツナギ服のこん畜生の首を両手で掴んだ。


 そして、すぐさま詠唱を終えたばかりの風の魔法を放った。


「【シカトグラビティ《飛翔》】」


 それは、風の魔法の中でも使える者は僅か数人しか確認されていない極めに極めた最高難度の魔法で、フルーナは全身に風を集めると、それを留めて風の衣を作り、ツナギ服のこん畜生の首を掴んだまま上空へと飛んだ。


 首吊り……いや、それが目的ではなかった。この程度でツナギ服のこん畜生を殺せるとも考えていなかったし、そもそもフルーナの筋力ではこのまま締め付け続けるのも持ち上げ続けるのまも不可能であった。そうではないのだ、この魔法の目的は、任意の高さからによる落下にあったのだ。雲に届くかというくらいの遥かなる高さからの大落下に。


 だが、


「カカカ。安易で陳腐な考えだな。オレがそれくらいで死ぬと思うか?」


 ツナギ服のこん畜生からは依然として余裕の笑みは消えなかった。


 けれど、


「うるせー、黙れ。距離が近いんだから喋るな。テメーの汚ねー息がかかるだろうが! それに安心しろ、寧ろテメーはこのくらいじゃ殺さねーよ。ははん」


 と一笑で返すと、そのまま斜め下に急降下していった。



 ◇◇◇



 ──……フルーナとツナギ服のこん畜生の戦いの最中だが、ここで先に補足を2つ。


 先ず、ロイキ共和大陸についてなのだが、ロイキ共和連国──元ロイキの大陸は、他の大陸とは異なり大きな陸地という訳ではなく、小さな島が密集した地帯であった。そしてその島の一つ一つが国となっていた。


 そのほぼ中央の島に治安維持連隊の本部である13階建ての大きな建物があった。50年前の大きな大きな戦争の後で、この大陸の平和賛同者たちの手によって作られた正に平和の基盤として誕生した建造物が。


 治安維持連隊本部所。


 この日、その建物の内部には治安維持連隊のNo.1である総隊長と、No.2に当たる3人の大隊長たちと、それと建物内外に100人近くの隊員たちの姿があった。


 ──そして、それを踏まえた上での補足の2なのだが、風の魔法の中には割と難度の高い魔法で、遠くの相手に言葉を伝える、【スケ・マー・ホタイ】というものが存在した。ただしこれには幾つかのルールがあり、誰もがその声を受け取る事は出来きず、最低限の約束事としても双方の許可が必要であった。


 フルーナ大隊長の直属の部下である隊長の彼は、その権利を持って……持たされ……持っていた。


 故に、フルーナがツナギ服のこん畜生の首を掴んで(締めて)【シカト・グラビティ】を使用する前に、こんな声が飛んできていた。


「あん? 今からそっちに飛ぶからよ、だから風の魔法でクッションみたいのを皆で作っとけ。シカト・グラビティだ。それでなんとなく察しろ! 私が死んだらお前ら皆殺しだからな。早くしろ、今すぐだ!」


 フルーナの直属の部下である隊長はもちろん慌てた。今すぐにって何だよ! と言い返してやりたくなったのだが、残念ながら【スケ・マー・ホタイ】の魔法は一方通行であり、いや、そもそも会話が成り立つとしも短気で口が悪く強いフルーナに逆らう勇気など彼にはないのだが。


「今すぐって、今すぐって……」


 恨めしそうにそのムカつく部分連呼しながらも部屋を飛び出していく気弱な隊長。


「──……そ、そもそも……どこっすか! 何処に落下してくるつもりっすかフルーナ大隊長は!?」


 分かる筈もない。こちら側から【スケ・マー・ホタイ】使用する事も出来ない。ので、限られた情報の中で彼がどうにかするしかなかった。なにせフルーナ大隊長は短気で口が悪くて強くて恐ろしい方なのだから。それに彼はその為の受け取り許可者なのだから。


「──……まったく、まったく、まったく……ああ、また髪の毛が……」


 それから彼の行動は言葉とは裏腹に迅速であった。島内にいる風の魔法を使える者たちを瞬時に集めて、即座に風のクッション魔法(は厳密には存在しないので、それに似た魔法を各々が使用して)を島内の3分の1くらいまで張り巡らせた。


「──……こ、これが限界ですからね。残りの3分の2に落ちたら……し、知らないですからねフルーナ大隊長! 死んでも怒らないでくださいよ!」


 そうは強気に言いながらも、彼は内心でとてもハラハラしていた。どうか、どうか安全地帯に落下してきて下さい、じゃないと皆殺しにされる……と。


 フルーナ大隊長直属の部下である気弱な隊長の彼、その心労は今日もまた髪の毛と一緒に抜け落ちてくのであった。


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