第71話 間話 ファファルの日常②
新法大者は魔法の天才にしか成れない。当然だ。なにせ新しい魔法を作る事ができるのだから。
だが、ミヨクやファファルを見て理解いただけるように、あらゆる事に対しての天才ではなかった(失礼)。
あれから1時間半──
無敵人形の魔法使いの彼は魔法で無敵人形を増やしながら思っていた。
けっこう時間がかかるな……。と。
世界は果てしなく広い。それを足のサイズ40センチ程度の無敵人形でその全てを覆い尽くすには時間と数が果てしないほどに必要であった。
現在の無敵人形の数は──
「15秒で一体作れる(本当は30秒)から……いや、調子がいいと10(本当は20)秒くらいか……あっ、でも集中力切れる時もあるから15秒で作れない時もあるか……。まあ、平均で15秒という事で……っで、今は1時間半くらい経ったから……1000体くらいいった……よな?」
たぶん200体もいっていない。
「あれ? これ今日中にいけるか?」
……。
新法大者は魔法の天才なのだが、ミヨクやファファル同様に必ずしも賢くは無かった(失礼)。
しかもこの辺りはまだ浅瀬だから先頭を進む無敵人形も上半身が見えているが、当然に物凄く深い場所などもあり、直線だけではなく、深さの事も考慮しなければならなかった。
だが、
「はーはっはっはッッ! 気にしない、気にしない。計算とかはちょっと(?)苦手だが、いずれ世界が無敵人形によって滅ぶのは間違いないのだから! 気にしない、気にしない。はーはっはっは!!」
と、ミヨクやファファルも割とそうなのだが、新法大者は楽天的な者が多かった(失礼)。
そこにファファルが瞬間移動でやってきた。
無敵人形の魔法使いのすぐ真後ろに。
彼がゾクリと肩を震わす事はなかった。いや、その暇が。何故ならその前に右手が、いや右肩から先が宙に舞っていたのだから。
「空間の魔法使いだ」
ファファルは背後から静かな声でそう告げた。
「──本来ならすぐに首を刎ねている。だが、今は割と気分が良くてな。お前ごときと話をしてやってるのもその為だ。運がいいなお前。ところでなんだこの無数の物体は? お前の魔法か?」
ファファルは一方的に話す。相手が男の場合は会話をするつもりがないからだ。だから無敵人形の魔法使いが激痛に苦しんでいてもまるで何も思っていなかった。
「──お前が死ねば、この物体たちは消えるのか?」
その問いに無敵人形の魔法使いは必死に首を左右に振った。それは嘘なのだが、そうしなければ今すぐに殺されると推察をしたからであった。
「そうか、ならば仕方がないな」
ファファルは軽くため息を漏らすと、間髪を入れずに空間魔法を使った。
「──目障りだ」
ほぼただの言葉であったが、その瞬間、ファファルを中心に半径10キロを真っ黒い球体が覆い、そしてあっと言う間に無敵人形たちが一斉に消えた。200体以上の数が一瞬で。
「世界の外(宇宙?)に捨ててきた」
「えっ? そ、そんな……あ、ありえるのかそんな事……魔法耐性だってあるのに……」
無敵人形の魔法使いは治癒魔法で右肩を止血しながら辛うじてそう声を発した。が、「喋るな。こっちを向くな。殺すぞ」と凄まじ圧力をかけられて慌てて口を噤んだ。
だが、
「──耐性? 勘違いするな。耐性が有ろうが無かろうが、お前程度の魔力で吾の魔法を防げる筈もないだろう」
と、結局は答えていた。
「──お前、世界を滅ぼそうとしたのか?」
無敵人形の魔法使いはそう問われた──ので、返答をしようとしたのだが、返答していいのかは分からずに少考していると、「──吾は別に世界に興味はないのだが──」とファファルが勝手に話を続けて、返答しなくて良かった、と安堵した。
「──ただ格下のお前に滅ぼされるのは癪だったんでな。だが今回は忠告で許してやる。今は気分が良いからな。ただ次に調子に乗ったら殺すぞ。吾は空間の魔法使いだ。覚えておけ」
そう言い残すとファファルはこの場から姿を消した。
無敵人形の魔法使いは思わずその場にへたり込み、そして思った。
助かった……。
だがその安堵も束の間、単に恐怖で痛みを忘れてただけで、右肩の痛みも出血も治癒魔法ではまだ治っておらず、やがて彼はそのまま意識を失った。
結局、出血多量で死ぬんじゃねーかよ……。
無敵人形の魔法使い。名前は──どうやら必要なさそうであった。
◇◇◇
ファファルが世界を危機から救った時間は僅か数分ほどであった。瞬間移動でユナとミナポのいる大衆食堂に戻ると、トイレに行って戻ってきた時間と辻褄が合い、ユナとミナポに違和感を持たれたる事なく、彼女はテーブル席に着席をした。
そして女子会が始まる。
「あっ、戻ってきた。聞いて、聞いてくださいよ。ミナポったらずっと酷い事を言うんですよ。やれ勇者は誰にでも優しいとか、やれ勇者はミナポがミニスカートでモンスターと戦っている時に太ももばかり見てくるとかって、酷くないですかー!!」
「だって本当の事だもの。ってか、私は勇者なんて言ってないわよ。元勇者ってちゃんと元を付けてるわよ。今は無職の元勇者ってね」
「それが意地悪よ! チョーイジワル!! 元になったのはそもそも私たちのせいでしょーが! あの時、魔王に……そういえばミナポもあの時に魔王に必死に懇願してなかったっけ? 勇者の命だけは助けて下さい! って」
「……さ、さあ……お、覚えてないわそんな昔の事」
「昔じゃないわよ! まだ一年も経ってないわよ! ほら、ほらー! ってか、前から言いたかったんだけど、あんた、ミニスカートで戦ってんじゃないわよ! 同性の私でも目のやり場に困るのよ!」
「それは嫌。私はどんな時でもオシャレを楽しみたいの! けど誤解しないでよね、別にパンツを見せたいわけじゃないんだから。それ以上に可愛いスカートで戦いたいだけなんだから。オシャレに華麗に戦闘よ。女なんだから当たり前でしょ!」
「なによそれ! 何が女だから当然なのよ? でも、まあ、ふふふ。ミナポらしいけど」
「そうだ、ユナ、今度一緒に服を買いに行きましょうよ。私がユナが普段は着ないようなのを選んであげるから」
「えー。嫌よ! ミナポはなんか凄いの選びそうだから。でも……まあ試着だけなら付き合ってあげてもいいわよ。ミナポの選ぶ服を全く着たくないわけじゃないから。ふふふ」
「あっ、ほら、やっぱり私の格好を羨ましいと思ってたんでしょう?」
「お、思ってないわよ。ただ、自分の知らない自分になるのもありかなって思っただけよ
「じゃあ、キツめでいくから」
「えっ、だ、段階は踏まえてよ!」
「さあ、どうしようかしら。ふふふ」
「お手柔らかにお願いします。ふふふ」
なんとも騒がしい2人。そんな2人を見つめながらファファルもまた楽しそうに「うふふ」と微笑むのであった。




