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その世界のつわものたち  作者: あいの
第二章 現在と、過去
107/107

第107話 ミヨク、1000年前──⑧


 肆大魔道士に成ってから10年後、ミヨクは旅を続けて世界を転々としていたものだから、寧ろ世界中で有名な魔法使いとなっていた。


 この世界には10年も肆大魔道士を続けている危篤な魔法使いが存在する……ではないのだが(いや、そんな噂もちらほらと)、とんでもなく強い魔法使いがいると。


 ミヨク的にはそんなつもりはさらさら無かったのだが、危害を加えてきた敵を返り討ちにしていたら、気付けばこの世界で最も強いであろう魔法使いに選出(噂話)されていた。


 基本的に、なにせ強いのだから。とんでもなく強いのだから。


 しかもこの頃のミヨクの強さは正に絶頂期とも言えるほどに恐ろしいもので、火、水、風、雷の初級魔法から最上位魔法までの全てを100%完璧に網羅できており、もはや相手が詠唱をしただけでどんな魔法を使ってくるのかが瞬時に理解できてしまい、故にその魔法の効果や威力も当然に瞬時に分かってしまい、故にその魔法に対して自分がどの魔法を使えば“相殺”できるかが把握できており、それはつまりは端的に完全防御が可能である事を意味し、そんな完全防御をされてしまっては相手の精神がポキンとへし折れてしまうのは明白で、故にミヨクの強さはほぼ悪名のように轟いていた。


あいつ、ヤバいわ。どんな魔法を使っても相殺してくるんだわ。しかもニコやかな顔をしながら。でも決して反撃はしてこないんだわ。ニコやかな顔をしながら。こっちが参ったするか、逃げていくのを待ってるんだわ。ニコやかな顔をしながら。色んな意味で怖いし不気味だわ……。なんでアイツはこっちが魔法を相殺されてヘコんでるのにあんなにニコやかな顔ができるの? いや、マジで。不気味だわ……。


と、いった具合に。


 不気味な魔法の相殺者ミヨク。


 そんな本人的には敵意が無い事を示す為の笑顔なのに勘違いされているミヨクは、この日も無駄な争いに巻き込まれようとしていた。



 ◇◇◇



 どこかの大陸の多分どこかの国の領土であろう荒野。そこを鼻歌を奏でながらテクテクと歩いていたミヨクは、ふと足を止めた。


「うん。もういいんじゃない?」


 突然の独り言。もう56歳だから脳に何かしらの異常が──ではまだなく、単に背後には30代くらいの眼鏡をかけた1人の男が居て、それに向けて問いたようだった。


「──お前、新法大者だろ? ずっと跡を付けてくるって事は、俺と戦いたい感じ?」


「肆大魔道士のミヨクだよな? 魔力は極力抑えていたつもりだけど、俺が新法大者だとすぐに見抜くのか? さすがだな」


「……いや、残念ながらお前の魔力隠しは完璧だよ。実は勘で言ったんだ。カッコいいかなと思って。最近、俺に喧嘩を売ってくるのが新法大者が多かったってのもあるし」


「……正直者なんだな」


「幾つ?」


 ミヨクは唐突にそう尋ねた。


「……86歳。お前は46歳っていう驚異的なスピードで肆大魔道士になった天才だろ? その後も10年も肆大魔道士を続けている凄い奴だろ?」


 天才。凄い奴。褒め言葉。けれどそれよりもミヨクはあるショックを受けていてその部分を聞き損ねていた。


 相手の年齢に対してのその容姿の若さに衝撃を受けていたからだ。


 86歳。なのに髪はふさふさ。肌の艶もいい。背筋もぴんとしている。何よりも生きるエネルギーみたいのが強く感じられる。まさに30代って感じだ。


 かたやミヨクは、髪の毛はまだあるが毛量は少なく色は白が目立ちはじめ、風が吹いただけで髪型が劇的に変わり、腰の曲げ伸ばしはまだまだ平気であったが、膝は歩くだけで少々痛く、何よりも生きるエネルギーみたいなものがだいぶ落ち着いていた。まさに56歳って感じだ。そしてこの現象は過去に出会って(対戦)きた新法大者も同様であった。ミヨク以外は、皆、若々しかった。


 故にミヨクは……それが魔力に起因するのかは分からないのだが、起因するとするならば、俺の魔力は凄いのに……凄いのに! と、とても思っていた。


 ──そして、これ、60代で絶対に禿げるやつだ。と、もの凄く思っていた。


「くそう!」



 ◇◇◇



 新法大者や肆大魔道士は魔法の天才だ。だが、必ずしもそれが何もかもの天才と直結する訳ではなかった(失礼)。


 眼鏡の新法大者。名前は「メルアルだ」と言った。


 そんな彼はミヨクに対して、先ずこう切り出した。


「──この眼鏡はもう20年くらい変えていない。何故なら戦闘中に割られた事がないからな」


 凄く遠回りだが、彼はつまりは自分がそれだけ強いと言いたいらしいのだが、理解するには少し難しかった。何よりミヨクは基本的に言葉をそのまま鵜呑みにしやすいタイプなので、


「でも、20年も使用していたら度数が変わるだろうから、変えた方がいいよ」


 と、普通に返事をしていた。


「……いや、実は度数は1年ほど前に変えていて……いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくって……」


「良かった。変えていたんだ。もしかしたら俺に眼鏡を買ってとお願いしてくるのかと思ったよ。いや、別にお金はいいんだけど、さすがに他人すぎるかなと思ってさ」


「い、いや、お金は俺も結構もってて……いや、うん。そういう事じゃなくって……それくらい俺が強いっていう……なんていうか……」


「眼鏡が割れないくらい強いんだ。なんかどれくらい強いかよく分からない感じだね」


「そうだな……よく考えたらよく分からないな。ただの眼鏡アピールみたいだよな」


「そうだね。次からはもっと分かりやすい感じにしたほうがいいよ。じゃ、俺、別に急いではいないけど、そろそろ行くね。さようなら」


 そう言ってミヨクは礼儀正しく頭を下げてから新法大者メルアルに背を向けた。


「いやいや、さようならする前に戦ったりしませんか? 俺、戦いたいんですケド……」


 メルアルはお願いしてみた。


「えっ、やっぱり……俺はあんまり戦いが好きじゃないから戦いたくないんだけど……戦わないとダメな感じかな?」


「折角なんで、そうしてくれると有難いッス」


「急な敬語やめて。メルアルの方が歳上なんだから」


「いや、お願いしてる立場だから、つい。それにミヨクは歳下だけど見た目があれなものだから、つい」


「ん? あれ? あれってなんだ? あれってなんだよ! 俺の容姿になんかあるのか? 髪の量の事を言っているのか? あれって言うな! よし、俄然戦う気になった。覚悟しろよお前!」


 開戦。


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