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八話

想像よりもはるかに長い時間をかけてようやく二人は彩斗の家についた。


「笠井君ってこのマンションに住んでるの?」


「ええ。そうですけど。どうした?そんな苦笑いを浮かべて」


志乃は彩斗の住むマンションの向かいの住宅地のうちの一つ家を指さしこう言った。


「私の家」


「は?」


「私の家」


「いや...いくら何でも、エルクロの世界ランキング1位と2位が偶然近くに住んでて、偶然同年代で、偶然同じ学校に通ってて偶然家が向かいなんて...アニメか?これは」


「アニメですね。これは...ふざけときましょうか?」


「定番のやつ?虚空に向かって「視聴者のみなさ~ん」なんて現実でやってたら恥ずかしいぞ?」


「...そうですね。やめときます」


「とにかく、長瀬の家にもよろうと思っていたが、これなら手間にならなさそうだ」



彩斗は部屋につくなり妹の姿を探す。


「楓ー!いないか?!」


「いないみたいね」


「ああ。この状況なんだ。いてくれたほうがよかったんだが...」


「...」


志乃は、「きっと大丈夫」と言おうとして、やめた。そんな言葉は気休めに過ぎないし、その言葉を彩斗が待っているとは思えなかった。


彩斗は自室に向かい、パソコンを起動する。それと同時にタブレットの電源も入れロックを外し、志乃に渡す。


「長瀬もこれ使っていいぞ。いろいろ知りたいこともあるだろうから...」


「ありがとう」


志乃は一言だけ礼を言うと、情報の世界に没頭し始めた。


彩斗が開いたニュースサイトのトップページには「世界各地にゾンビ出現!?」という見出しがでかでかと載っていた。


それをクリックすると、東京、ニューヨーク、ロンドン、パリ、北京、シンガポール、シドニーとあらゆるところで、人が急に狂暴化して人を襲うという事件が多発していることが報じられていた。


SNSサイトを立ち上げると、「ゾンビ」、「死体」、「避難」といったワードがトレンド入りしており、あらゆる地域での死体やゾンビの画像が多く投稿されていた。


「どうやら、このゾンビ化現象はこの地域や日本だけでなく世界中で起こっているらしい」


「何でこんなことに...」


「正直俺も気にはなるが...そんなことを考えても、今起こっていることに変わりはないし、現状片付ける問題が多すぎる。」


「問題...?」


「ああ、ニュースを見る限り、避難所が設定されているようだ。近隣の学校、公民館、自衛隊基地まで...。まずはそこの様子を見に行くべきだ」


「そうですね...この地域も避難は完了しているようですし」


「ああ。楓が無事に避難してくれていればいいんだが...」


「避難所も多くの人が殺到しているはずです。なかにはゾンビに対抗するために武装している人も。避難所も安全とは言えないんじゃない?」


「そうだな...パニックが起きないとも限らん。様子次第で俺たちは別に避難することも考えるべきかもな」


「そうですね」


とにかく今は、楓といち早く合流する必要がある...


彩斗は立ち上がり、自分の部屋にかかっている日本刀を取る。


それは昔、今はもう無き故郷で彩斗に剣術を教えてくれた師匠から譲り受けたものだった。


鍔をはじき、刀身をわずかに露出させる。


「それ...真剣ですか?」


「そうだ、昔師匠から譲り受けたものでな。最近ではクラスの剣術を習ってたやつにさらに磨きをかけてもらった」


「そんな人がうちのクラスにいるんですか?」


「ああ。俺のかけがえのない友人だ。藤宮豪紀という」


「はあぁ...藤宮君ですか。学年一位の」


「知っているのか?あいつ有名だったんだなぁ」


「有名も何も...まぁ、いいです」


「俺は今から楓と合流しに行く。君はどうする?」


「同行します。一人でいてはいざというとき困りますし、避難所の状況も見ておきたいので」


「そうか、分かった。それじゃ、俺が共有できる情報を教えておく」


「...この状況で情報ですか?そういえば先ほども妙に落ち着いていましたが...」

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