三話
放課後
いつものように豪紀と別れて、笠井彩斗は人混みを避けるように待ち合わせ場所に指定された駅前のご当地キャラクターに刈り込みされた植木の前へと向かっていた。
初対面の相手というのもあり、少し緊張する気持ちを落ち着ける。
「さて...ついたけど少し早かったな」
近くのベンチに腰掛けスマホをいじって時間を潰す。
「どんなやつなんだろう...」
今日会う相手はエルクロの世界ランキング二位のプレイヤーネーム[ナガノ]。
スキル構成が完全遠距離特化なのにも関わらず、近接戦でもほぼ負け知らずのプレイヤーだ。
遠距離戦においては言う必要もない。
そんな相手から、世界ランキング一位、二位同士でオフ会をしようと誘いがあったのだ。
誘いに乗ったのも、あいてが[ナガノ]だからである。
彩斗は一年以上、一位をキープし続けてきた。
その中、何度も[ナガノ]とデュエルをしてその強さを認めていたし、注目もしていた。
「そろそろ時間か...」
その瞬間ーー
目の前に、天使が舞い降りた。
彩斗は基本的にヒトに興味がない。
そのため認識しているのは、身近なごくわずかな人間だけだ。
そんな彩斗でも知っている。
彩斗が通う学校の優等生、長瀬志乃。
才色兼備。品行方正。多くの男子が彼女にしたいと言う。
そんな彼女が、こちらに向かってくる。
「あのー、あなたが【サイサイ】ですか?」
「...」
彼女が絶対に言うはずのないことを言ってきた。
【サイサイ】?言うはずがない。言っているとしたら、彼女が【ナガノ】ということになる。
ありえない...。
「すみません人違いでした。」
呆気にとられ半ば現実逃避をしている彩斗をおいて人違いをしたと勘違いをした志乃が去っていく。
「あっ待ってください、自分が【サイサイ】です」
「そうでしたか。人違いをしたと思いました」
志乃は、声をかけた相手が間違っていなかったことを知り安堵で胸をおろした。