十話
楓の通う私立広沢小学校までは、今まで駅前のファミレスから彩斗たちのマンションまでの来た道を戻り、駅をまたいで反対の北側に徒歩で40分ほどのところにある。
つまり、マンションからだと大体1時間半くらいかかる計算になる。
楓からはメッセで「小学校に避難してる」と送信があった。あれから彩斗がそちらの様子は大丈夫かと連絡をしても、返信がないばかりか既読もつかない。
彩斗と志乃は慎重に進んでいたが、それでもゾンビには否応なく出会ってしまう。
「きゃーっ!!」
路肩に停まっていた車の窓が内側から破られ、血にまみれた腕が志乃の目の前に飛び出していた。
彩斗は腰に下げた刀の鞘を払い、腕を切り飛ばす。
しかし、志乃の悲鳴に反応してゾンビたちがわらわらと小さな路地に集まってきた。
「無事か?長瀬」
「は...はい。でも...私のせいで...」
「とにかく今は...走るぞ」
「はい!」
二人はできるだけゾンビのいない方へと走る。しかし、彩斗と志乃という獲物を見つけたゾンビたちは我先にと二人に群がり、襲い掛かる。
「ちっ!どけっっっ!」
彩斗の日本刀が何度もひらめきゾンビにずさんながら確実なダメージを与えていく。
しかし、獲物の気配に気が付いたゾンビたちは我先にと二人に群がり襲い掛かる。その様子がさらにほかのゾンビを引き寄せ、二人の行く手を阻んでいく。
「長瀬!こっちだ!」
彩斗が志乃をこっちへ来るよう促しつつ、進む先のゾンビに切りかかりダメージを与えていく。
「あ、あぁ...」
仕留めたゾンビが地に倒れる。そのゾンビを踏みにじるように数体のゾンビが死体になど目もくれずに襲い掛かる。
もう完全に退路も断たれていた...
彩斗も志乃も死を覚悟したその時、
背後遠くで、ものすごい爆発音がとどろく。。
ゾンビが目の前の彩斗たちには目もくれずより大きな注意を引いた轟音のもとへと走り出す。
「好都合だ!今のうちに逃げるぞ!」
呆けて動けないでいる志乃の手を取り、彩斗は夕暮れの街をひたすらかけていく。
*
翌日の朝
「笠井君、おはようございます」
デパートの一室。窓からの木漏れ日と昨日から行動を共にする少女に起こされ、彩斗は起きる。
「おはよう。眠れたか?」
「はい。こんな状況だというに、意外とぐっすりでした」
「俺もだ。念のために見張りを立てておくべきだったかな」
「何もなかったんですから、結果オーライだと思うよ」
「それもそうか」
朝食代わりに、デパートの食品売り場で見つけた菓子パンとペットボトルの水を二人で分け合う。
「……コンビニじゃなくてデパートに逃げ込んだのは正解でしたね」
志乃が小さく言った。
「ああ。シャッターもあるし、入口も少ない。防衛するならこういう場所の方がいい」
彩斗は窓の外を見ながら答える。
街は静かだった。
昨日のパニックが嘘のように、車も人も動いていない。
ただ――
遠くの道路に、ゆっくりと歩く影が見える。
ゾンビだ。
「……多いですね」
「ああ」
彩斗はパンを一口かじる。
「長瀬、今日の予定を確認しておく」
「はい」
「楓のいる小学校まで、ここから徒歩でおよそ一時間。昨日のルートだとゾンビが多すぎた」
「つまり……?」
「別ルートで行く」
彩斗は床に落ちていたフロアマップを広げた。
デパートの案内図だ。
「ここが今いる場所。三階の事務室」
指で示す。
「ここから裏口に出て、この商店街を抜ける。そこから住宅地を通れば、駅前を避けて学校に行ける」
志乃は地図を覗き込む。
「なるほど……確かに駅前はゾンビが多そうです」
「人が多い場所ほど危険だ」
彩斗は刀の鞘を軽く叩いた。
「それと、もう一つ問題がある」
「問題?」
「食料」
志乃は周囲を見る。
「ここにたくさんありますよ?」
「今日一日分ならな」
彩斗は真剣な顔で言う。
「だが長期戦になるなら、拠点を決めて物資を確保する必要がある」
「……確かに」
「避難所が安全とは限らない」
昨日ニュースで見た映像を思い出す。
避難所の前にできた人の列。
怒鳴り声。
押し合い。
「人間の方が危険になる場合もある」
志乃は少し黙ったあと、ふっと笑った。
「笠井くんって、ゲームと同じ思考してますよね」
「?」
「ルート選択、資源管理、安全地帯の確保」
彩斗も少し笑う。
「エルクロで鍛えたスキルだ」
「現実で使う日が来るとは思いませんでしたけどね」
そのとき――




