初めての森
人が出てくるのはまだまだ先です。
長い長い吠え声を終わらせ、目を閉じて余韻に浸る。
そして目を開け、ここで初めて私は自分という存在を認識した。
ただ、まだこの段階では生きていてどこを動かせば良いかというのを本能でなんとなく理解しただけであって、自分の姿がどんな風でどんな色をしているかなどは全く気にしてもいなかったし、知ろうとも思っていなかった。
すっきりした後、寝床に戻ろうとしたら微かに甘い匂いが左の森から漂ってくるではないか。
私はほんのちょっぴり、いやとても気になってそこに向かおうとまず周りを見渡しここから降りられるところを探した。しかし突き出た岩場となっていて何もなかった。
ならばと、先ほど通ってきた洞窟内の通路を戻って寝ていたところを出て右に曲がったところを今度は左に曲がり、進んでいくとだんだん下に向かっているような坂になっていてそこをどんどん降りていく。
数分進むと出口が近いのが明るくなってきて、さらに数分進んでいくと出口が見えた。
洞窟から外に出るとまず上から見えた森と水があった。
森は上から見た時と違いとても大きく厳かに佇んでいた。
水は朝日を反射し、きらきらと輝いていた。
それらに一瞬目を奪われて眺めていたが、また甘い匂いがさっきより強く漂ってきて、直ぐにその匂いのする場所へ向かおうとしていたんだということを思い出し、首を動かして周囲を見回した。
しかし無いのだ。いくら見回しても水に阻まれた対岸へ続く道が。
これでは対岸へ渡って匂いの元へ行けない。何よりこの洞窟から出られない。
どうにか渡れないかと目の前の水に体は伏せながら前脚をつけたら、なんか包まれるような感覚を覚えてそれが気持ち悪くて水を泳いで渡るのは諦めたり、ジャンプして渡るのも届かなくて水に落下したらと考え諦めたり、ほかにも色々試行錯誤したが無理だった。
「グルルルルルル〜」
と、唸りもう水を泳いで渡るしか無いのかと諦めたその時。
突然水面が光り輝き、なんだと驚きながらも眩しくて目を開けてられず思わず目を閉じ顔を背けた。
しばらく光っていたが段々と明るさが収まってきて元の明るさに戻った。
それでも私はまた眩しく光るのでは無いかと警戒し数十秒顔を背けたままでいた。
そしてもう光りそうにはないと判断し顔を水の方へと戻した。
するとさっきまでそこには無かった向こう岸へと続く道ができていた。
それに驚き警戒しながらも匂いの正体を確かめたくてうずうずしていた私は、その道を歩き渡ることにした。
幸いその道が崩れて水に落下することもなく対岸に渡ることができた。
対岸に着くと再びあの甘い匂いがして私は少し速度を上げながらその匂いが強くなっている方向へと進んで行った。
進んでいる最中あたりを見回してみるといろんな色や形をした植物や岩や他にもよくわからないのがたくさんあった。
そしてしばらく進み匂いが一層強くなったと思うと、匂いの元に辿り着いた。
それは周りの他の樹よりも一際巨大な樹の根元にあった。