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閑話

―オルデウス暦1001870年 凛月 15日 アトラ―


この日、オルデウス暦が始まってから一度としてあり得なかった界変が起こった。

界変とは世界中どこにいても感じる異変のことだ。

どんな国、どんな海、どんな辺境、どんな魔の森、どんな大陸、文字通りどこにいても理解できる異変だ。


世界中の敵とも言えた、魔王が倒されてから始まったオルデウス暦。

それ以前の時代を記した、最古級の書物に書かれている界変でさえ一回だけだ。

それがよりにもよってこのオルデウス暦に起きてしまった。


その界変が起きたのは朝の七時ごろ。

どの種族の者達もだいたい起きて各々仕事や学園へ向かっている頃合いだ。


突然なんの前触れもなく声が聞こえたのだ。

それもなんの耐性もない者ならば気絶するぐらいの声だ。

いやむしろ気絶できていた方が良かったかもしれない。

耐性がある者達は、それのせいで体の底から恐怖を感じるハメになったのだから。


それは吠え声だった。

雷が鳴り響くような吠え声だった。


その後気絶していた者達が数十分して起き上がってきたことにより、声を聞いて恐怖で固まっていた者達も動き出せるようになり、気絶していた者達は起きていた者達の真っ青な顔を見て笑うかぽかんとし、起きていた者達は気絶していた者達に何が起きたか伝えるのだった。


今回起こった出来事はどこにいてもわかったため、瞬く間に情報は広がっていった。

そして慣れとは凄いもので数日、いやもっと早い者ならばその数時間後には恐怖から立ち直り予測という名の噂をし始めた。


ある者は古代の力が目覚めたと言う。

ある者は大量の魔物が現れ全員で吠えていると言う。

ある者は何かとても恐ろしい存在が顕現する前触れだと言う。


様々な考察があったがほとんどはきちんとした根拠がない噂程度に収まるものだった。


そしてその日のうちに各国または強大な力を持つ者達が対応に動き出した。


―――――――――とある魔法大国―――――――――


ここはとある魔法大国の会議室。

目に優しい淡い光が天井に灯り、美しく磨かれた黒曜石の長机に反射している。

その机を囲むように椅子が置かれそこにこの国の重鎮達が座っている。

いつもならどの者も皆活発に言い合いというか、喧嘩というかをしているはずだが今回はとても静かだ。


そしてようやく一人が言葉を発した。


「・・・・・あれは一体なんだったんだ。」


その者は机の上座に座っており、どうやらこの場で一番偉い者のようだった。

服装はシンプルで薄い空色の服と白色のズボン、その上にゆったりとした白いローブを羽織っている。

そして全てに複雑な魔法陣が刻まれている。

その者が自分に問いかけるように、また皆に問いかけるように言った。


「・・陛下、とりあえず現状分かっていることを報告いたします。」


どうやら初めに言葉を発した者はこの国の王だったようだ。


「申せ。」


「はい、陛下。・・あの音の音源は少なくとも国内ではないということでした。また、一切魔力が感知出来ず拡声魔法などの類ではない純粋な音だということです。」


「何だと?あれが魔法ではないだと。・・だとするとただの自然現象による音か?」


「いえそれはあり得ません、陛下。ただの自然現象による音ならば、耐性を突破し気絶させるまでには至りません。またそれだけの自然現象ならば他の影響もあると考え周辺国にも確認を取りましたが、現状気絶以外の影響はないそうです。」


「・・だとすると。・・えっ、まさか魔物なの!?」


どうやら驚きすぎて素が出たようだ。


「はい、陛下。現状、魔物の闘技によるものと考えるのが妥当かと。」


「ば、馬鹿な、だとするとどれだけ強大な魔物が現れたというのだ!?」


別の者が立ち上がり怒鳴った。


この星の魔物で魔法を扱える種類は限られている。

だがその代わり闘技という魔法に似た効果をもたらす技術を生まれ持って扱える。

そして闘技は基本、魔物本来の強さに比例して効果範囲や強さ、大きさも変化する。

ちなみにこの闘技は人にも習得はできる。


「そうだ!!いままでで記録された"響吠"で最大のものだってこの王都まで届くことなどなかった!!」


「そんな強大な魔物が現れたのならば、ここへ攻めてくる前に逃げないと!!」


「いや何を言う!!この王都や各都市、人が住む場所ならばどこでも対魔物結界を張っている。だが小さな地域の結界は弱い。ここはむしろここへその魔物を誘き寄せて迎え撃つべきだ!!」


「そうだ、そうだ!!」


どうやらだんだんいつもの調子が出てきたようだ。


「静まれ!!」


しばらく言い合いを目を閉じ黙って聞いていた国王が頃合いを見て魔力を放出し皆の注目を集めた。


「皆のあの声に対する恐怖が少し和らぎいつもの調子が出てきたのはいいが、ここでいつまでも言い合いを続けていても事態は一向に進まない。・・まずは民の安心を取り戻さねばならぬ。ひとまずはあの音は対魔物大規模魔法演習によるものだと発表する。それでしばらくは誤魔化せるだろう。」


自分も混乱しているだろうに、どうやらこの国王は民想いのようだ。


「とにかく必要なのは情報だ。どんな些細なことでもいい、あの声に関する魔物の情報を集めるのだ。よいな。」


「「「はっ。」」」


こうして王宮の眠れない日々が始まるのだった。


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