9. 恋しいぬくもり
「おまえのことを助ける理由は、二人三脚で1位をとったら言うよ」
頭に載せられた、大きくて暖かな手のひらのぬくもりに意識の大半を持っていかれている中、彼はさらりと爆弾発言をした。
「い、1位!?」
未だかつて経験も、想像さえもしたことのない順位を指定されて、思わず声が裏返る。
櫻木くん、本気で言ってるの!?
「残念だけど、それじゃあきっと理由は聞けないね…」
いくら櫻木くんが相手でも、さすがにそれは無理だろう。だって相方が、トロさ抜群の私なんだから。
すっかり意気消沈していると、おでこに軽くデコピンされてしまった。思いがけない衝撃に目を白黒させると、櫻木くんは少し怒ったような口振りで言う。
「絶対1位になるんだよ!おまえが信じてくれないと、誰が俺を信じるんだ?俺はおまえに、『1番』を味合わせてやりたいんだ」
『1番』
こと運動に関してはただの一度も関わったことのない数字。きっとこの先もないのだろうと諦めていたし、別にそれでいいと思っていた。
だけど、櫻木くんが『信じろ』って言うなら、なぜかそう出来る気がする。
夢見ても許される、のかな。
「櫻木くん、私も1番になってみたい!」
思い切ってそう告げると、彼はとびきりの笑顔で返してくれた。
頭を撫でてくれた感触が忘れられない。
見つめる眼差しはとても穏やかで。
その行為だけを考えれば、まるでお父さんみたいなのに。
でも、違う。
この胸のときめきが、そんな感情とは決定的に違うんだって、はっきり教えてくれている。
もっと、もっと、と心が欲している。
もっと、ずっと、あなたのそばにいたい。
この想いを伝えたら、彼はなんて答えてくれるんだろう?
…考えるだけバカだよね、櫻木くんと私じゃ釣り合わない。
ならせめて、体育祭が終わっても話しかけてもらえるように。
彼の期待に応えられるように。
神様、私を1日だけ、トロ子でなくしてください。




