表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

 7. やっぱり優しい彼

 

 体育祭は、もう来週に迫っている。

 櫻木くんとの二人三脚も随分板についたもので、転ぶことはなくなったといってもいいくらいの仕上がり。

 全てが順調で、あとはもう本番を迎えるのみ。

 …そのはず、なんだけど。




「早坂。残りの一週間は練習をなしにして身体を休めようか」

 

 その提案は、別段おかしいものではないと思った。今まで一日も欠かさず特訓してきたのだから、本番前に万全な状態に整えるための休息は必要だと思う。

 

 だけど。

 

 だけど、なんだか櫻木くんの雰囲気が、以前と変わったような気がする。常に爽やかな笑顔を絶やさなかった彼なのに、最近は物思いに沈んでいるのをよく見かける。

 気にかかる悩みでもあるのかな。すごく心配。

 その悩み事を解決するためにも、彼にこそ休んでもらいたい。


「うん、毎日練習に付き合ってくれてありがとう。体育祭、頑張ろうね!」

 

 意識して明るく声をかけたんだけど、櫻木くんは淡い笑みで頷くだけだった。




 そうして彼と別れた直後、私は教室に忘れ物を思い出して向かっていた。

 自分のクラスに近付くと、数人の話し声が聞こえる。


「涼、今日で早坂との練習を終わりにしたんだろ?」

「…ああ」

 

 櫻木くんと、その友達らしい。自分の名前が出たことで、扉を開けるのを躊躇してしまう。


「涼がずっと早坂ばっかり構うからさ、俺たちめちゃくちゃつまんなかったんだぜ!」

「放課後に遊びにも誘えないし、部活の助っ人にも連れ出せないしさぁ」

「あんなトロいやつとペアなんて、俺には考えられないな」

「早坂も人気者を独り占めしてるってことに気付いて、ちょっとは遠慮してくれればいいのに」

 

 身体から血の気が引いていくような気がした。

 

 やっぱり私は櫻木くんに迷惑をかけてたんだ!

 貴重な時間を無駄使いさせて…、彼は私なんかのお守りをしてていい人じゃないのに!

 身の程知らずの自分が恥ずかしくて、私はいてもたってもいられず、その場から逃げだそうとした。

 その瞬間、勢いよく席を立つ物音がして。


「練習に誘ったのも、それを毎日強制したのも全部俺だ。早坂は文句も言わずに従ってただけだ。…悪く言うな」


 漏れ聞こえたのは櫻木くんの言葉。

 こんな時まで私を庇ってくれる、優しい人。

 知らず涙が溢れて戸惑っていると、教室の中から廊下に向かう足音が近づいてくるのがわかった。

 隠れるほどの余裕もなく、わたわたしている私の前に現れたのは、当の櫻木くんだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ