4. 気になるのは彼女の動向
俺の、早坂転倒阻止計画は概ね順調に運んでいた。
彼女の膝小僧から日増しに少なくなる絆創膏が、確かな成果を俺に伝えてくれる。そうなるとやはり嬉しいものなのか、最近の俺はずっとニヤケているらしい。
今日の午後には来月に迫った体育祭の出場種目を決めると知らされて、俺のやる気は最高潮に達していた。
すでに二種目を任された俺は、ふと早坂は何に出るのだろうと思った。
運動音痴は生来のもの、特訓で改善されるということはまずないだろう。ここは、たとえ一人がとんでもないトロ子でもさして気にならない団体競技、玉入れが妥当に違いない。
だが、玉入れのところに彼女の名前はなかった。というよりも、黒板に彼女の名前はなかった。
待て待て!
もう種目決めも終盤だ、だって残っているのはひとつきり。まさかそれに望んで参加したいと思っているということは…。
慌てて最後列の席にいる早坂を窺い見る。
…驚いた。
あんなに青ざめた人間を見たことがない。おおよそ自分に適当な種目を考え込んでいる間に、あとの祭り状態に陥ってしまったのだろう。
「では、あとは二人三脚ですね。まだ出場種目が決まっていない人がいれば、必然的にその人に出てもらいますが」
委員長の最終通告。
早坂はおずおずと手を挙げた。
「ごめんなさい、あの…、私がまだ決まってません」
その言葉に、にわかに教室中が騒然となった。
入学して半年が過ぎた今、彼女のトロ子ぶりは当然周知の事実。そんな早坂が二人三脚に出るなど、その種目の得点を捨てるのと同義だ。
早坂もそのことを理解しているのだろう、今にも泣き出しそうに瞳が潤んでいるのが見えた。
その瞬間、またもや俺は衝動的に立ち上がっていた。