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魔のパズル

作者: でんでん

体が休息を欲しがっている。だが、休むわけにはいかない。

まるで何かの呪縛に囚われているかのように黙々と手を動かしていた。


私は今ある作業をしていたのである。

そう、それは3000ピースのパズルである。しかもそのパズルは白単色のピースがしかなくて、目がちかちかしていたのだ。だが半分は完成していた。あともう半分だ。気合いを入れねば…。


ことの発端は近所の骨董屋に入った時に店主に勧められたのだ。

「お嬢さん、このパズルはいかがですか?

なんとこのパズル、完成の暁には願いを叶えてくれるそうですよ。

3000ピースで白い壁をモチーフにした物だそうです。

私が過去10人にこのパズルを売ったのですが、皆やつれて返品に来ましてね、困ってたんです。

ははは。」

軽快な感じでとんでもないことを話したこの店主。

美青年と言っても過言ではないぐらい端正な顔立ちをしていた。髪は長髪で後ろで一つに束ね、薄い水色の着物を着ていた。これがまたよく似合っていたので、少し見とれていたのだ。

私は我に返り、パズルなど要りませんと言おうとした矢先に、私の手はパズルの木箱を受け取っていた。思わず、

「えっ、いいです。」

と言ったのだが、店主は笑みを浮かべて

「いいですよ、もう差し上げますよ。特別ですからね。」

そう言って店の奥に行ってしまった。どうやら「いいですか?」と聞き間違えたらしい。

とりあえず、代金も掛からなかったので、せめて完成したら見せに行こうと決心したのである。


ところがいざ作り始めると、白、白、白…。

裏も表も白い陶器のようなパズルのピースたち。かろうじて端だけは形でわかった。

骨董品ということもあり、完成図の紙など入っているわけではない。3000ピースというの数ももはやあやふやである。それでも私はパズルを作らなければいけないような気がしていた。


五時間が経過した。

私は心身共に疲労していた。異常な疲れである。

それでも私はこのパズルを作り続けた。


さらに五時間が経過した。

すっかり、日は落ちて外は暗い。

私は自分自身が限界を超えていることが分かった。このパズルは異常だ。

震える指でピースをとり、嵌めこんでいく。残り僅か。


遂に最後の1ピースになった。もはや目に涙さえ浮かべ、恍惚とした表情な私は解放感でいっぱいだった。これで終わりだ。


かちっ。


すべてのピースが嵌めこまれ、一枚の白いパズルが出来上がった。

私は気が抜けて、すとんとその場に崩れ落ちた。

「…終わった。明日にでも店主さんに見せに行かなきゃ。」

私はそう呟いて意識が暗転した。


携帯が鳴っている。

私は携帯の着信音で目が覚めた。そこは見慣れた私の部屋なのだがなぜかベッドで寝ている。

「あれ?何かおかしくない?」

携帯の着信音が鳴りやんだ。急いで携帯を見ると通知不可で不在着信1件と表示されていた。

私はベッドから降り、パズルの元に急いだ。

パズルはなくなっていた。

「嘘、泥棒?、えっと警察に言わなくちゃいけない。店主さんに見せようと思ったのに…。」

愕然としながら警察に電話をしようとすると、

「大丈夫ですよ、よく完成させてくれました。ありがとうございます。」

背後から声がした。私が振り向いたその先に骨董屋の店主がいた。

にっこりとした表情で、私のベッドに腰をかけている。白いパズルを持って。


あっ。


声を上げようとした刹那、強烈な閃光が起こった。

思わず目を閉じ、後ろを向いた。


私は目を開け、ベッドを見ると白いパズルは一枚の絵になっていた。店主さんは絵になっていた。

絵の中でも変わらない店主さんの笑みに思わず私まで微笑んでいた。


絵の中の店主さんは私にそっと囁いた。

「あのパズルのピースは私の骨なんです。今まで10人の命を摘んでしまいましたが、あなたの生命力で僕は元に戻ることが出来ました。約束通りに願いを叶えてあげましょう。

さて、あなたは何を願いますか?お嬢さん。」


そう問われて私はぞっとしたけれど、同時に腹立たしくなった。

「だったら、願いを叶えてもらうわよ。そうね、じゃあ私にずっと仕えてもらいましょうか。」

半分は本気、もう半分は冗談交じりだった。


「なるほど。それがあなたの願いなんですね。わかりました。ではあなたの命の灯が消える最後の時まであなたに仕えましょう。」

再び閃光が起こり、目の前にあの店主が立っていた。


「では本日よりあなたのしもべです。御用があればなんなりと。」

魔性の微笑みを浮かべながら、うやうやしく頭を下げた。

私は知る由もなかった、私の命が残り少ないことに…。


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