第九十八話『行方知れず。』
本日投稿分の最終話になります!!
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ロロの歌う、
物語の様に長い歌が終わった。
「悪い狐も、裏切る鼬も出てこなかった」
スイがポツリと言った。
「わたしが、未だ小さい時に、
『おそろし谷の鬼火』の絵本を、
ユンタが読んでくれた。
とても怖い挿し絵が描いてあったのを、
よく憶えてる」
スイは、とてもゆっくりとした口調で、
記憶を思い返す様に、そう言った。
「わたしはね、夜中に目が覚めて、
トイレに行きたかったんだけど、
悪い狐が何処かから、わたしを見張っていて、
暗がりから、飛び出してきちゃうんじゃないかと思うと、
怖くて、ユンタを起こして、
トイレについて来てもらったんだよね。
でも、狐が、彼だったなら、
本当はそんなに怖く無かったのかも知れない」
「それ内緒にしてって言ってたヤツじゃーーん」
「あ。そうだ、忘れてた」
「ロウ兄の仲間が書いた歌じゃの。
誰じゃろな?ユン姉わかるかの?」
「さーー、わかんね」
「ただの助平爺にゃ、勿体無いの」
「ま。いいんじゃね?
あの絵本だけしか無いんじゃ、コイツ、
可哀想じゃん」
◆◆
「んで。次はガコゼのヤローーだよ。
もう、すっかり遠くに逃げちゃったかなーー?」
「……まだ、そんなに遠くへは行ってないよ。
このまま追いかける……?」
「当たり前ーーー」
「……でも。もう、たくさん人が来てるよ?
ガコゼの事、取り囲もうとしてる……」
「はーー!? 誰!? 抜け駆け!?」
「……私に言われても。多分、イファルの兵隊……?
シャオのお父さんじゃないかな……?」
「クアイ君? なんだよーー。
ビビってた癖にーー」
「……私に言われても」
「今更なんですけど……」
「どしたの?シャオちん」
「父様に、転移魔法で、
送って貰えば楽だったんじゃないでしょうか……?」
「…………」
◆◆◆
「クアイちゃんが、
肚を括って動いたと云う事は、
王宮の方でも、何か動きがあったのかの」
「ガコゼの罪状が、
明るみに出たのかも知れないね」
「手間が省けたの。
こげ騒ぎになったんじゃけ、
聖域教会も、ガコゼを擁わんくなるじゃろな」
「マオライの言葉を使うまでも無かったかな」
「言葉の精霊か。
精霊魔法にゃ詳しく無いが、
凄まじいのと契約しとったんじゃの」
「うん。
子供の頃に、初めて契約をしたのがマオライなんだ」
「精霊に、固有の名称は無いもんかと思うとったが」
「わたしも、名前を名乗っているのは、
マオライしか知らないなぁ」
「やれんの。
強うて、顔も良えし、
儚げな雰囲気もグッとくる。
スイちゃん。
わっちの嫁にならんかの」
「ヤエファは、シャオと結婚するんでしょ?」
「すんなり選べりゃ、苦労はせんの。
ところでの、スイちゃん」
「なに? 嫁にはならないよ?」
「違う。
先刻から気になっとるんじゃがの」
「うん」
「リクちゃんは何処へ行ったんかの?」
「え? リク?」
その時まで、
その場に居る誰もが、
リクの姿が見えなくなった事に気づいていなかった。
世界と世界の隙間に、
いつの間にか入り込んでしまった様に、
異世界から来た少年の姿は、
忽然と消え失せてしまっていた。
「……参ったな。
リクの魔力が……、消えちゃった……」
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次話から、
新章に移行していきます!
明日の投稿も、
夜にします!




