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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第三章 『指切り姫と西方と忘れられた古い唄』
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第九十七話『語られなかった事。』

本日投稿の、

2話目です!



その子供は、瓦礫となった建物の近くで、

亡骸の傍らに踞っている、

人間の男の子だった。


私達を顔を見合せて、

誰も何も言わなかったが、

仲間の一人が、男の子にそっと歩み寄って、

近づこうとした。


「子供じゃけの」


ロウウェンの低い声がして、仲間は一度立ち止まった。


「人間の子供だぞ?

まさか、この子まで助けるとか言い出さないよな?」


ロウウェンは返事をせず、

男の子を抱き(かか)えると、

独り言の様に言った。


こげ(こんな)場所に、餓鬼連れて来やがって。

貧しうて、苦しんで喘いどるんは、

亜人も人間も一緒じゃ」


私達が溜め息をついていると、

いつの間にか、男の子は眼を開けていて、

自分を抱えている、ロウウェンの顔を見上げていた。


「坊主、ここら(この辺り)にゃ、他に村が無いが、

家は遠くかのう?

何処か怪我しとるなら、治しちゃる。

飯も有るぞ。

身寄りが()る場所が、わかりゃ、

近くまでは送り届けちゃる」


男の子は何も言わず、

黙ったままロウウェンの話を聞いていた。


「おい、ロウウェン。止めとけ。

幾ら子供と云っても、人間の餓鬼だ。

俺達(亜人)を恨んで憎むぞ」


「アホか。

こげ(こんな)子供を恐れてどうするんじゃ」


ロウウェンは鼻で嗤う様に、そう言った。


「坊主。お前、えらい(すごく)身体が冷えとるのう? 寒いんか?」


仲間達は不安そうな表情を浮かべ、

二人の様子を伺っていた。

それを見ていた私も、

何か嫌な予感がするのを、抑えきる事が出来なかった。 


男の子を抱えたまま、

さっさと歩いて行くロウウェンを、

悲痛な響きを伴った、

仲間の声が引き留めた。


「ロウウェン! 離れろ!!

その餓鬼、魔力を操作してる!!

魔法を使うぞ!!」


それは感知役の仲間の声だった。


男の子は何も言わずに黙ったままで、

上空に向けて魔法の球体を放り投げた。

光と煙を放ちながら、空に舞い上がって行ったソレは、

近辺の仲間への合図に使う、

信号弾の役目をしているのだろう。


「魔力を消してやがった!

そんなに離れて無いところに、大勢人間が居るぞ!!

ファーレンの魔法兵だ!!

囲まれちまう!」


私達はあっという間に、

蜂の巣を突いた様な混乱に陥ってしまった。


もう既に遅かったが、

私はようやくそこで、人間の根底にある、

狂気じみた本当の恐ろしさを、

垣間見る事が出来た様に思う。


こんな子供でさえ、兵士となって、

私達を殺そうと躍起になっている。


私は身体の奥底から来る震えを、

全く抑える事が出来なかった。


救いを求めて、ロウウェンを見たが、

彼は何も言わずに、ただ黙っていた。


「ロウウェン! その餓鬼を離せ!

俺が殺してやる!」


仲間の一人が、そう叫んだ。


「やれんのう。ワシが甘い所為で、

とんだ窮地に立たされてしもうた」


「もういい! いいから、その餓鬼を寄越せ!」


「お前、こげ(こんな)子供殺して、

どうするつもりなんじゃ?」


「そいつは敵だ! 俺達を罠に嵌めやがったんだぞ!?」


「今更、この子を殺したところで、

どうにもならんじゃろうに。

大勢ようけ(たくさん)来ても、

お前らを逃がすくらい、訳は無い」


ロウウェンは、そう言うと、

抱えていた子供を降ろしてやった。


「坊主。仲間んとこ戻れ。

心配せんでも、後ろから(ねろ)うたりはせんけ」


男の子は何も言わず、

後ろを何度も振り返りながら、私達から離れて行った。


「場慣れしてやがる。顔色ひとつ変えねえで、

なんて餓鬼だ」


「敵との距離はどんくらいかのう?」


「もうすぐ傍まで来てる。

谷の入り口と出口から、挟み撃ちにするつもりだ。

山の中にも居る」


「ワシが一発撃って脅かしちゃるけ、

お前らは、その隙に逃げるんじゃ。

怪我した住人も、必ず連れてってやれ」


「半端じゃ無い人数だぞ?」


「子供使(つこ)うて来る様な、連中じゃ。

何百人()ろうが、平気じゃ。

それより、

ユンタとヤエファを連れて来んで正解じゃったのう」


ロウウェンはそう言いながら、

身体が発火し、地獄の業火の様な勢いで音を立てる、

恐ろしい炎を身に纏った。


「来るぞ! 向こうの山からだ!!」


ロウウェンが炎を山に向かって投げつけると、

凄まじい爆音と煙が上がり、物凄い勢いの火の手が、

山を焼き始めた。


「ほれ。行け」


そして、私達は燃え盛る木々を縫う様にして、掻い潜り、

必死で逃げ出した。


ロウウェンなら心配は要らない、

仲間達の誰もが、そう思っていた。


途中、襲いかかって来る敵兵を何とか打ち倒しながら、

集落の住人も含めて、私達は誰も欠ける事は無く、

死の気配が忍び寄り、私達を脅かし続けたその山を抜け、

どうにか集落の在った谷から離れる事が出来た。


後日、私達を待っていたのは、

ロウウェンが、あの谷で殺され、

首を()ねられたと云う情報だった。


仲間は誰一人、その話を信じようとしなかったが、

あの時、迫り来る兵士達の一群が、

()()()()()()()()と云う事を知ると、

皆、口を(つぐ)んで、

誰も、何もそれ以上言う事は無かった。


ファーレンの敵将は、あろうことか、

仲間である筈の、その子供達を人質に取り、

ロウウェンに毒を飲んで自害する様に命じた。


物理攻撃や魔法が殆ど通じないロウウェンの、

口外厳禁であった、彼の唯一の弱点を、

何故か、その敵将は知っていた。


思えば、あの谷に私達が向かう事になった時点で、

既に人間達の罠に、絡め取られていたのかも知れない。


人間達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


きっと、ロウウェンは迷う事無く、

毒を飲み干したのだろう。


この世に産まれ落ちた時から、

疎まれ、畏れられ、忌み嫌われて、

迫害され続けた、私達(亜人)は、

この世界を呪い続けて、

やがて、その呪いは、

世界の喉元に突き立てる、大きな剣となった。


その剣の担い手に、

私達は余りにも情の深い、

優しい男を選んでしまったのだ。


そして、私達は知っていた。

彼が、例え相手が憎き人間だとしても、

子供であれば途端に、その激しい殺意が、

消え失せてしまう事を。


私は、激しい呪いの応酬の矢面に立たされていた、

ロウウェンに、何もしてやれなかった。

彼が身体から放つ激しい火焔が、

本当は何を焼き払うべきなのか、

彼だけが、それに気づいていた事を、

知ってやる事が出来なかった。


ロウウェン、

本当に済まなかった、

願わくば、

君の魂が、

何に脅かされる事も無く、

穏やかな世界へと、

旅立って行ける様に、

私は切に願う。


この歌は、

君を忘れ無い為の、私達が刻む印だ。


◆◆








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