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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第三章 『指切り姫と西方と忘れられた古い唄』
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第九十六話『古い歌。』

本日投稿の、

1話目になります!



ロウウェンは事切れてしまった様に、

そのまま、もう動く事は無かった。


送り込まれていた魔力も途切れ、

僅かばかりの残滓を残して、霧散していった。


彼の胸には、

拳大(こぶしくらい)の穴がポッカリと開いており、

スイの魔法の直撃を喰らった事が確かであった。


殭尸である為か、一滴の血も流れる事は無かったのだが。


「魔力が消えたようじゃの。

よいよ(本当に)操り人形じゃ」


ヤエファがロウウェンの身体の傍に近づいて、

そう言った。


「ヤエファ」


ユンタがヤエファに声を掛けた。


「百年も前に死んだ(もん)じゃ。

もう涙も枯れ尽くしとるけ」


ヤエファはそう言ってカラカラと笑った。


「あの世で大人しうに、

待っとりゃ()えものを、

こんな姿で現れよってから、

よいよ、締まらん兄貴じゃ」


「うー……、泣きそうッス……」


「ここまでして、

ガコゼは逃げ仰せようとしとるんじゃ。

アイツを取っ捕まえて吐かせりゃ、

出てくる埃は、一つや二つじゃないようじゃの」


ヤエファはそう言って、ロロの頭を軽く叩いた。


「皆、わっちの兄が迷惑を掛けてすまんかったの。

恐ろしい思いをさせてしもうた。

ほいでも(それでも)

ロウ兄が、余計な、関係の無い者まで、

傷つけんで済んだ。

本当にありがとう」


それを聞いたロロの大きな瞳から、

滝の様な勢いで、ブワッと涙が溢れ出していた。


「泣く事は無いと思うがの。

ロロちゃんは、おセンチじゃの」


「あの……!! 自分、吟遊詩人なんで……!!

古い、昔から伝わる歌とかも、勉強したんで、

知ってるんス……!!」


「そう云えば、そんな事言っとったかの」


「『おそろし谷の鬼火』じゃ、ロウウェンさんは……、

悪い狐だって描かれてますけど……、

自分の知ってる……、

『鬼火の物語』て歌じゃ、

全然違うんス……!!!」


「どんなのーー……?」


「いッスか!? 自分、歌わしてもらっても!?」


ロロはポロポロと涙を流しながら、

丁寧にリュートのチューニングを始めた。

時折、視界を曇らす大粒の涙を、

手で拭いながら。


その様子を、誰一人として、

ひとつの言葉も発する事無く、

ただ、黙って、静かに見届けていた。


そして、リュートのチューニングを終えたロロが、

嗚咽で乱れた呼吸を整える様にして、

息を大きく吸い込み、

物悲しい旋律の、

物語を書き記した様な、長い歌の一行を歌い始めた。



◆◆



ロウウェンが泣いている。


人間達から襲撃を受けた、

深い山間(やまあい)に在る、

亜人の集落の救援に向かった。

集落を襲った人間達はアッサリと蹴散らしたが、

襲撃時に広範囲の攻撃魔法を使われて、

集落の住人の多くが助からなかった。


その中には、まだ幼い子供達もいた。


子供達が死ぬのを目にする度に、

ロウウェンは自分の事の様に悲しみ、

いつまでも死体に縋りつき、

苦しそうに大声で泣いていた。


ロウウェンが泣き止むまで、少し離れて彼の姿を見ていた。


「まだ泣き止まないネ。ロウウェン」


一人の仲間がそう言って、私に声をかけてきた。


「いつものことだろ……。

それより何人か逃げた人間がいただろ?」


「三人ネ」


ファーレン(西方の国)の兵隊じゃ無かったな?」


「正規の兵隊じゃ無さそうだったネ。

弱かったし。傭兵かなんかでしょ」


「金であんな連中雇ってまで、

そうまでして、

未だ、亜人(俺達)の事を殺し足りないのかね」


「人間のやる事なんて、わかんないネ」


「こんな小さなとこ、襲ったってしょうがないのに」


魔法で破壊され、

焼け崩れた集落を見ながら、

私は仲間と、ロウウェンが泣き止むのを待っていた。


「……!……!」


ロウウェンが踞ったまま、

大声で私の名を呼んでいる。


「埋めちゃろう!!

この子ら……、死んだ人ら……、

全員、きちんと埋葬しちゃらんと、可哀想じゃ!!」


「始まったよ………。

そんなん出来るわけ無いだろ。夜中まで懸かるわ」


「おい!

誰か、手ェ空いとるの、居るか!?

せめて、

死んだ後くらい安らかに眠れんと、

この子らの魂は何処へも行かれんじゃろ!!!」


それは、

いつもの光景だった。


私はため息をつき、ロウウェンにきつい口調で言った。


「生きてる人たちが先だ。

それに皆疲れてんだよ。

いい加減にしろよ、毎回毎回……」


「お前は冷たい奴なんじゃのう……」


「お前が感情的になり過ぎなんだよ」


「可哀想じゃろうが?

こんなに()まいのに……。

もう生きとらんのんじゃろう……?

(ヤエファ)より、まだ()まい……。

この子が……、

い……、一体、何をしたって云うんじゃ……!?

か……がわいぞうじゃろうがぁぁぁ……、ううう……」


「また泣いた」


「ワシは……、絶対に、

子供が死なんで済む世界を作るんじゃ……。

ううう……、もうたくさんじゃ…。

亜人と云うだけで……、

なんだって、

この子らはこんな目に遭わなきゃならんのじゃ……?

どうして、

この子らは、

大人にさえ、なれんのじゃ………?」


そして、私達は生き残った者達の手当てを済ました後、

住人達の亡骸を埋葬してやった。


その間、ロウウェンの嗚咽だけが、

静かな山間(やまあい)の村に、

とても物哀しく響き渡っていた。


埋葬を終え、私達が村を後にしようとした、

その時だった。


「おい、生き残ってる子供が一人いたぞ」


逃げて行った、敵の追尾をしていた仲間が、

戻って来て私達にそう言ったのだ。


◆◆

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