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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第三章 『指切り姫と西方と忘れられた古い唄』
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第九十四話『強者であるが故のこと。』

本日投稿の、

2話目になります!!



風を裂く音も、微かな衣擦れの音さえも無く、

光が通過する様な速度で、

ロウウェンに放たれたシャオの渾身の攻撃は、

彼が天恵者(チート)のスキルを、

保有してさえいなければ、

確実に彼を倒す一撃である筈だった。


───『猛虎弾弾(ティガーブレット)!!』


シャオの攻撃から、僅かに遅れて、

レイフォンがスキルで強化された両腕の筋肉を利用し、

最大限に圧縮した魔力と共に放った掌底(しょうてい)も、

ロウウェンに届く事は無く、

手応えの無い炎を擦り抜けるだけだった。


「マジかヨ! 今のが当たらねーのかヨ!」


「自動で発動すると云う防御の、

反応速度が私達の攻撃の領域を遥かに上回ってますね。

悔しいけれど、勝てない!!」


そして炎と化したロウウェンは、

メイの放った攻撃魔法を、その身で絡めとり、

巨大な岩石をあっという間に、

跡形も無く熔かしてしまった。


「うわ! 熔けたし!! 知らんけど!!」


「惜しかったのう。

この能力が無けりゃ、今ので(連携攻撃)で死んどる」


ロウウェンの身体が炎から人型へと戻って行った。


「女は殺しとう無いけ、なるべく逃げてくれのう」 


ロウウェンの両腕が灼熱の炎に包まれ、

片方の腕を引いた構えを取ったロウウェンから、

辺りの景色が揺らいで歪んでしまう錯覚を覚える程の、

莫大な魔力が漲っていた。


太陽が、もうひとつ増えてしまった様に、

直視が出来ない程の、強烈な熱と炎光を放ち、

その凄まじい炎を身に纏うロウウェンの姿は、

もはや、この世の者とは到底思えない、

神々しさすら、感じられるものだった。


「ユンタ。

こりゃチャガマじゃ防げん」


「わかっとるわいーーー!! 

シャオちん!! ガキども!!

とりあえず結界張るけど、すぐ離れろーーー!!」


チャガマの造り出せる、

最も強度の高い結界の筈だが、

今のロウウェンの火力の前では、

余り意味を為さないだろう、

ユンタはそう考えた。


「チャガマーーー!!! 

一生分くらい、分厚いの頼むからなーーー!!!」


「簡単には破らせてやらない。

幾らロウウェンが相手でも」


ロウウェンの引いた腕が、

凄まじい砲撃の様な音と共に、

火の粉を噴き出しながら、

纏った炎を放ち振り抜かれた。


───『支配者の焔槌(ルーラーズハンマー)!!』


ロウウェンの炎が、

平原の地表を融解させ、

閃光が周囲を包んだ。

攻撃を放ったロウウェンですら、

視界を奪われてしまう様な。


おそらく結界ごと、骨も残さない程に、

全てを焼き尽くしてしまうだろう。


ロウウェンは思わず顔を背けたくなっていた。


命は尽き果てて、もう自分のものでは無い肉体に、

異物の様に埋め込まれた、仮初めの意識が、

本当は自分のものでは無ければ良いのに、

ロウウェンは、そう思っていた。


「女子供殺してしもうたの。

ロウ兄、

鬼火も地に堕ちた様じゃの」


何処からか、ヤエファの声がした。


「ヤエファ。ワシゃ、やりとうてやったんじゃない。

殭尸になってしもうたけ、身体が言う事を聞かん」


「やれやれ。

聞き飽きたの。

わっちを、余り失望させてくれんと嬉しいんじゃがの?」


「どういう意味じゃ」


「わからんかの?

ガコゼなんぞの術中に、絡めとられた時点で、

ロウ兄は、自分で言う通り、

殭尸に成り下がっとるんじゃ。

動けるだけの、ただの(しかばね)にの」


「言うてくれるのう。

その、ただの屍に歯が立たんかったのは誰じゃ」


「確かに強い。

じゃが、生前の強さを引き継いだのが裏目に出たの。

自分の力を過信し過ぎじゃ。

ほいじゃけ(だから)

わっちの幻術にも、簡単に引っ掛かる」


「!?」


ヤエファの声が止んだ瞬間、

ロウウェンの眼が捉えたものは、

自分の顔面に叩き込まれた、シャオの拳だった。


───ガチィィィィッッッッッ!!!!


視界に火花が散り、

歯が折られて血が吹き出た様な感触がした後、

ロウウェンは自分が殴られた事を認識した。


殭尸の肉体では、痛みも、

血の味と匂いもしなかったが。


「当たりました!!」


シャオが嬉しそうな声を上げた。


「幻術で目を眩まして、

ワシの防御スキルを発動させんかったか。

それにしても、巨乳ちゃん。

凄まじい一撃じゃの」


「誰が巨乳ちゃんですか!?

……僅かにですが、手応えを薄く感じました。

あの迅さでも、まだ反応の対応範囲なんですね」


「惜しかったのう。

ワシがさっきの攻撃を撃つ前に、

幻術に掛けられとったんじゃのう。

殺さんで済んだ。

ほいじゃけど、同じ手は通じんけの。

ヤエファの幻術頼みだったようじゃが、

これで万策尽きたかのう」


「アホ。

ロウ兄、まだ気づいとらんのかの?

そんな訳なかろう。

自動で防御するスキルも難儀じゃ、

見たいもんが見えん様にもなるけ」


ロウウェンはその言葉を聞いた瞬間、

ヤエファの幻術が、

自分の視界に映さなくしていた、

ロロの姿をようやく認識する事が出来た。


「ちょうど、一曲歌いきれたッスーーー!!!!」


ロロが、リュートのピックを握った拳を、

高らかに天に突き上げて(かざ)し、

既に、掠れきった声を振り絞って叫んだ。


存在しない筈の、

観衆(オーディエンス)の歓声が聴こえた様な気がした。


(呪歌を未だ歌っとらんかったのか)


「“ありがとう、ロロ”」


倍音が増幅され、微かにひび割れた様な、

奇妙な質感の声で、スイがロロに礼を言った。


その声の正体は、

先程までスイが手にしていなかった、

管楽器の様な形状の道具に因るもので、

それに向かって声を発すると、

音の質を変容させる様だった。


それは、

この世界には存在しない為、

異世界(日本)から持ち込まれた様に思える、

“拡声器”に、

とてもよく似ていた。


◆◆

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