第九十三話『虚勢は通じないとわかっている。』
本日投稿分の、
1話目になります!
◆
スイの自信たっぷりの表情が、
妙に引っ掛かった。
明らかに優勢なのはロウウェンで、
回復役のロロが疲弊し、
ロウウェンに対して、
殆どダメージを与えられないスイ達に、
勝ち目などは、どう考えても無い筈だった。
「お嬢ちゃん。
ハッタリならワシにゃ意味が無いけの?
完全無欠じゃ無いのは確かじゃが、
お嬢ちゃん達じゃ、
悪いが、ワシに攻撃を当てる事すら叶わん」
ロウウェンは、そう言った。
そう言いながら、何処からともなく吹く、
首筋を震わす様な、
冷たい風に当てられた気分がしていた。
「一体、どうやってワシを殺してくれるんかのう?」
絶望的に聞こえる、ロウウェンの言葉だったが、
スイが、笑みを浮かべた表情を崩す事は無かった。
(恐怖でおかしくなったんや、
虚勢じゃ無さそうじゃのう)
「問題はそこなんだ」
スイは口を開いた。
「君に攻撃が当たらない」
「そうじゃの。ワシのスキルは防御に関しちゃ、
ほぼ自動で発動しよるからのう」
「君のスキルの一番の強みは、
その凄まじい火力よりも、
炎そのものに肉体を変化させてしまう事だと思う。
炎を殴ったり、斬ったりする事は難しい。
水や氷で攻撃したとしても、
炎の温度を自在に操れる君に、
効果的なダメージを与える事は出来ないんだろうね」
「その通りじゃ」
「君の身体に、傷が少ないのはその為だ。
そして残念な事に、わたし達の中に、
君の実体を捉えて、
攻撃する手段を持っているメンバーは居ない」
「そうじゃの。
ワシゃ、炎を殴れる奴にも斬れる奴にも、
会うた事は有るが、
お嬢ちゃん達の中には居らんかったのう」
「そうなんだよね。
スキルを使う戦闘で、相性って大事だね」
「悪かったのう」
「君が強かったってだけさ。
天恵者と云う存在の、怪物じみた強さだ」
「与えられたもんじゃ。ワシが偉い訳じゃないけの」
「驕らないところも、君の強さの秘訣だね」
「えらい褒めてくれるのう。
こんな身体じゃ無かったら、
こげ別嬪に褒められて、
助平心が出て油断するとこなんじゃがのう」
「ほんとの事だから」
「欲を言えば、
もう少しだけ乳が大きけりゃ良かったんじゃが」
「あのね、わたしも気にしてない訳じゃないんだよ?」
「お嬢ちゃん、年齢は幾つかのう?
まだ伸び代は有ると思うんじゃが」
「教えない」
「こりゃ大人になったら化けるのう」
「お嬢ちゃんお嬢ちゃんと呼んでいるけど、
まさか本当に子供だと思ってたの?」
「違うんかのう?」
「まあ、いいや。君からしたら、
幾つだって、大して変わり無いだろうから」
「そうじゃのう。
お嬢ちゃんの、あの妙な魔法に、
まだ奥の手があるんかのう?
ワシゃ、長い事生きたが、初めてお目にかかった」
「効かなかったじゃないか?」
「どうやって勝つつもりだったんじゃ?
アレくらいしか、他に手が無かろう?」
「ふっふっふ。
ロロ。魔力と体力を回復出来る呪歌を、
最後に、もう一度だけ歌えるかな?
一回だけでも撃てれば、それで充分だから」
「今更、回復したところで、どうにもならんじゃろう?
まさか、策無しで話を引っ張っとった訳じゃあるまい?」
「そんな訳ないじゃないか。
わたしは理屈っぽいから、
意味の無い事があんまり得意じゃない」
「スイちゃん! ほ……、本当に良いんスか!?」
「うん。無理させてごめん。
だけど、これで勝てる」
「わかったッス!!」
ロロは、得体の知れないスイの思惑を察知して、
理解をしている様子だった。
一体何を企んでいるのか、
ロウウェンは未だ読み解く事が出来ていなかった。
そして、ロウウェンの身体は反射的に、
ロロを攻撃しようと、炎を産み出していた。
その炎を阻む様に、チャガマの結界が張られ、
結界を避け、炎の軌道を修正しようとしたロウウェンに、
一斉攻撃が仕掛けられた。
「命ずる。大地よ 汝、彼の者を砕きし 我が牙となれ」
───『地走りの狼《ソイルワークセッションズ》!』
メイの魔法で、
地中から造り出された巨大な柱の様な岩石の塊が、
その先端を尖らせて、
ロウウェンの身体を突き破ろうと放たれた。
ロウウェンが咄嗟に距離を取ろうと、動いた瞬間、
その先には、身体強化のスキルで高速を移動をした、
シャオとレイフォンが既に待ち構えていた。
「メイー! そのままブチ抜くつもりで撃てヨ!」
「わかってるし! 知らんけど!」
両方から、間に挟まれる形になったロウウェンの、
肉体がスキルの防衛反応に因り、
炎に形を変えようとしていた。
「確かに炎は殴れませんが、炎に変わる前に、
殴ってしまえばどうでしょうか?」
シャオの身体強化は全身に張り巡らされ、
その眼は確かにロウウェンの変化の動きを捉え、
常軌を逸脱した速度で、
その拳が、
今、
正に炎へと変わる瞬間のロウウェンへと叩きつけられた。
シャオの咆哮と共に。
───『穿ちの戰風!!』
◆◆




