第九十二話『思い出したら腹が立つので。』
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最終の3話目になります!
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「君ね。
先刻から、
乳だ乳だと、そればっかり、
他に考える事は無いのかな?」
スイが呆れた様子で、そう言った。
「仕方なかろう。
お嬢ちゃんの仲間の乳がデカいのが悪い。
集中が出来ん」
「君は何を言ってるんだ」
「それに、ワシゃ、女とは戦りとう無かったのに。
ガコゼめ。
よいよ、死んでからも面倒掛けられるのう」
「ぶつくさ言いよるが、
わっちには楽しくやっとる様にしか見えんがの?
死人の癖に、とんだ助平爺じゃの
一体どこのオッサンじゃ」
「お前の兄貴じゃが」
「でも、
鬼火のロウウェンの強さは流石に伊達じゃないね。
わたし達が全員で挑んでも、とても敵わない。
しかも、生前程の実力は発揮出来てないでしょ?」
「ま。
殭尸っちうのは、そう云うもんじゃけの。
頭は働くが、身体はいっそも動かん。
生きとった頃の動きをトレースしとるだけじゃ」
「つーかヨ、こんなバケモン、
誰が、どーやって倒したんだヨ?」
「なんじゃ。あんた知らんのかの?
ロウ兄の身体を見てみ。
首は死んだ後に刎ねられたけ、
縫合されとるが、他にゃ、
致命傷の様な傷が無いじゃろ。
この助平爺は、
毒を喰わされて死んだんじゃ」
「餓鬼だった癖に、よう憶えとるのう」
「大型の魔物を殺す様な量の毒をの。
そうでもせにゃ、ちょっとやそっとじゃ、
このオッサンは殺せやせんけ」
「殭尸となった今じゃ、それも効かないだろうね」
「何か弱点とかは無いんスかねー?」
「不死者じゃけ、
ゾンビだのスケルトンとかの魔物と、
似た様な弱点はあるじゃろが、
例外が過ぎるけ。
ガコゼなら知っとるじゃろがの」
「後、ずっと気になってたんスけど、
これ見よがしに、おでこに貼ってある、
お札みたいなのは、
なんなんスか?」
ロロは、ロウウェンの額に貼ってある霊符を指差して、
そう言った。
ロウウェンはニヤリと笑って、
ロロの問い掛けに応えた。
「ボインちゃん、良えとこに目をつけたのう」
「ボ……ボインちゃんて何スか!?!?
ロロッスッッ!!!」
「こりゃあ、
ガコゼの魔力を受信するアンテナみたいなもんじゃが、
おそらく殆ど飾りじゃ。
先刻も、そこのお嬢ちゃんに、
上半身ごと吹き飛ばされたが、
肉体と一緒に再生したじゃろう?
これをどうこうしたからと云って、
ワシの動きを停止させる事は無いじゃろうな」
「紛らわしーーもん付けんな!!」
「ガコゼに言え。
昔から独特な術式を組むのが得意じゃったが、
どういう仕組みで、
ワシの亡骸に魔力を送っとるんかがわからん。
百年も経ちゃ、技術も向上しとるのう。
臆病者故の、努力の賜物じゃのう」
「努力の賜物だぁーーーあ!?
仲間の死体を利用して、
てめーーはコソコソ隠れて、何が努力だよ!!」
「いや、じゃけ、ガコゼに言え」
「大体なーーー! おめーーが、
いつも適当に甘やかすから、
アイツがつけあがって、
そんなことに、
なんだろーーが!!
勝手に嵌められて、寝首掻かれてんじゃねーーー!!」
「なんじゃ急に。
仕方なかろう。ワシも、
まさかアイツに裏切る様な度胸があるなんざ、
思いもせんかったんじゃけのう」
「バーーーカ!!!
おめーーーが裏切られる隙があったんだよ!!
他の仲間の事考えてねーーだろ!?
おめーーーが死んでから、
みんな散り散りんなっちまって、
家族とも離ればなれになっちまって、
どんな思いで、あの後を過ごしてたと思ってんだ!!
妹残して、あっさり死んだと思ったら、
殭尸になってましただぁーーー!?
ふざけんな!!!!!!!
おまけに……、
おめーーーは絵本の悪役にまでされちまって……、
だっせーーーーんだよ!!
バーーーカ!! バーーーカ!!」
「ユンタ」
スイが静かな声を発した。
「大丈夫!!
このバカの顔見てたら腹立ってきて!!
でも大丈夫ーー!!」
「ワシゃ絵本に出とるんか?」
「そーーーだよ!! だから言ってんだろ!!」
「子供が……、
ワシなんかの話を読んで面白がってくれるんかのう?
仲間に裏切られて、残した者を悲しませて、苦しめて、
ワシゃ、頭のおかしい亜人じゃ。
お前に、
言い返す言葉が、いっそも浮かばん。
一番古い付き合いのお前を、
ワシの我が儘で振り回しとったのう」
「うるせんだよ!! 今更!?
今更気づいた!!? 」
「アホじゃのう。
よいよ、つまらんのはワシじゃ」
「知ってたよ!! んな事!!」
「叶わん願いかも知れんがのう、
ワシを、殺せりゃ、殺してくれ。
恥ずかしくて堪らん」
「出来たらやってるよ馬鹿野郎」
「やれんの。
なして、こげに強うなってしもうたかのう」
「そんなに悲観する事は無いさ。
ロウウェン。
君は確かに、べらぼうに強い。
最初の作戦では、
君とこんなに真っ向から戦う予定じゃ無かった。
でも、君の異常な強さに、そうせざるを得なかった。
だけど、完全無欠じゃ無い。
ヤエファが、此処に来る途中に言ってたよ」
スイはニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
この娘が確信も無く、そんな事を言う様に、
ロウウェンには思えなかった。
しかし、
自分をどうやって倒そうと云うのか、
甚だ、根拠に乏しく感じられ、
ロウウェン本人にさえ、
想像が出来なかったのだ。
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